打ち上げ
- RICOH RICOH
- 19 時間前
- 読了時間: 5分
「では、百花さんのデビューを記念して、乾杯🍻」
仄暗いホールの片隅で、祝杯をあげる
百花のデビューコンサートが華々しく終演となった夜
会場近くのBARを貸し切って、ごく身近な関係者だけを招いて
こじんまりとした打ち上げが催された
匡輝に付き添う形で参加することになった稀依も
咲音と隣り合わせになり、楽しそうに過ごしている
「これはいったい、どういう事なの?稀依ちゃん?」
「…うん、それがさ……/////」
「…えっ あの、一階のカフェで?…
すごいね、素敵(≧∇≦)/////」
小声で囁きながら、会話に花を咲かせるうら若き乙女たち
カウンターから数種類のおつまみや料理を取り寄せて
運んできた桜介も匡輝の隣に座り、軽やかな笑顔を見せる
「飛ぶ鳥落とす勢いの金髪王子こと、亮ちゃんのハートを射止めた
若奥様の咲音ちゃんが、まさか稀依ちゃんと同級生だったとはね~。
世間って狭いっすよね~」
「稀依ちゃんは、本当に昔から匡輝さんの事を一途に追いかけてました。
だから、こんなミラクルが起こるなんて、本当に嬉しいです♪」
「///咲音もね。昔から…よく2人で匡輝さんや亮さんの話をして
盛り上がってました。ね♪」
「……へえ……♪」
「//////」
稀依の言葉尻を捉え、亮がニヤつく
亮の反応に、咲音は恥ずかしそうに俯く
(…逆じゃなくて良かったかもな…)
もしも稀依が自分ではなく、亮に惹かれていたら…
そうではなかった現実に安堵し、苦笑する匡輝
一方、ここまでポーカーフェイスを決め込む匡輝に
桜介がチャチャを入れる
「まっさん。今日は稀依ちゃんを責任もって
家まで送り届けてくださいよ!」
「え?」
「…え?」
同時に反応し、顔を見合わせる2人に
言い出しっぺの桜介が呆気に取られる
「…へ?…まさか、まだお互いの家も知らない…とか?」
2人を交互に見比べて、指をチラチラさせる桜介に
意味も分からず頭をポリポリと掻く匡輝
「え…ああ、そりゃまあ…会うのは大抵
タワマンのラウンジだしな…」
「稀依ちゃんの家って何処だっけ。たしか…〇〇の方だよね」
「うん。バス停の近くのアパート」
「…!…え…?」
稀依の言葉に動揺し、視線を泳がせる匡輝
「まっさん…いいんじゃない?ねえ、光さん。いいよね?」
まっすぐな眼差しで意味深に問いかける亮に
光と蓮はグラスを仰ぎながら静かに微笑んでいる
光の隣に座り、ここまで物静かに見聞きしていた花が
ふと咲音を見遣る
「咲音さん、体調は如何?
身の回りのことなど、困った事があれば言ってくださいね」
「あ、そうだよ。こんなに近くにいるんだし
これからは稀依ちゃんや俺たちを頼ってくれて良いからね」
「あ、すみません、ありがとございます…」
嬉しそうにペコリとお辞儀する咲音
「…ゴホン…あ、それじゃ…そろそろ行こうか。稀依」
咳ばらいをしながら空いたグラスをテーブルに置き
稀依の手を取る匡輝
「あ…は、はい…//////」
「稀依ちゃん、またね!今度、ゆっくり聞かせて♪」
咲音にニコニコと手を振られ、その場を後にする2人
街路樹、バス通り、公園…
星よりも遠くに感じていた
これまではひとりで眺めていた同じ景色を
今夜はふたつの影が寄り添う
ただし今日はBARを出てすぐにタクシーを拾った
稀依は緊張のあまり、外の景色を眺める余裕はない
「家は〇△方面だったよな」
「…あ、はい。〇△井のバス停の近くです」
「やっぱり近所なんだね。ちょうど良いや。運転手さん、よろしく」
「〇△井ですね。かしこまりました」
肩が触れ合うわけでもなく、手を繋いでいるわけでもないが
お互いの存在から感じるぬくもりが心地好い
数十分でタクシーは目的地に到着した
稀依を降ろすために匡輝が先に降りた…
(…ん?…)
目の前のアパートを見上げて匡輝は一瞬、戸惑う
だが稀依は彼の表情に気が付くことなく真っ赤な顔を俯かせ呟く
「…あ、あの…良かったら、お茶でも…」
「…!」
渾身の誘い文句に、雷に打たれたような衝撃を受ける匡輝
稀依を見つめる…遠い記憶を呼び覚ますように…
「…今度はぜひ、私の部屋で…」
「…!!!」
「///////……(な、なによ、今度って…)」
あまりの恥ずかしさに震えながら、次に飛び出した自分の台詞に
誰よりも稀依本人が驚いた…それ以上に驚いた匡輝はますます目を瞠り
固まっていた
「…あ、あの、どうぞ、こちらです💦」
稀依は慌てて我に返り、連れ立ってアパートの中に入っていく
エレベーターで彼女が押す数字
彼女が歩いていく方向
(…おいおい、まさか…)
いよいよ匡輝はすべてを理解した
(…こんなに近くにいたとは…)
予想通り、一番奥のドアの手前で稀依は立ち止まり
いそいそと鍵を開けている
素知らぬフリをしながら奥のドアを見遣る匡輝
数か月前まで無断で居座っていた女を思い出した
そして改めて、稀依を見つめる
(…………間違いないな)
あの女には、いや、他のどんな奴にも
どんなに分かり易く迫られても、不思議とそんな気分にならなかったが……
ドアを開け、中に入った途端、彼女の手をつかまえて引き寄せる
「!」
匡輝の懐にすっぽりとおさまり、真っ赤にふるえる稀依を抱きしめる
(…!…///////)
匡輝の手が、柔らかくカールされた稀依の髪を優しく撫でる
(…あったかい…)
不思議な気分だった
稀依だって子供じゃない。大好きな彼と、ようやく結ばれる…
そんな予感に緊張クライマックスの場面で
あんなにも波打っていた心臓が落ち着きを取り戻し
むしろ、大きな安心感で満たされていた
(…ずっと、こうしていたいな…)
もう、離れたくない
匡輝の背中に手を回し、ぎゅっと抱き着いて見上げる
稀依の頬に手を寄せ、口唇をゆっくりと重ねる匡輝
「…やっと見つけた」
「…っ…ん…」
不思議そうに首を傾げる稀依と口づけをさらに深めていく
(((もう…離さない…由奈……)))
自らの遠い記憶がしきりに訴えかけてくる
抗うように彼女を強く抱きしめる匡輝
「好きだよ、稀依…」
「…はぁっ…ま…まさ…っ…」
彼女の耳元でささやく度に、深い愛撫に溺れていく…
…事が過ぎて、匡輝の腕の中で深い眠りにつく稀依
彼女を起こさないように、慎重に腕を伸ばし、脱ぎ捨てた服を手繰り寄せる
内ポケットに仕舞い込んだままの鍵を手探りで探し当てる
(…言いそびれたな…だが…このままで良いのかもしれないな…)
すべてを知ることが幸せとはかぎらない
腐れ縁とはいえ、別の女と長年暮らした隣の部屋で
稀依と過ごすことはできない。本来、誰に遠慮する必要もないのだが…
🌷打ち上げ Fin.🌷
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