不名誉な事件簿
- RICOH RICOH
- 2024年12月9日
- 読了時間: 13分
イザマーレ閣下の夢台本により、咲音と亮、薔子と闇の大魔王
彼らの夢を繰り返し見続けていたラディア
いつしか、頑なに強張り続けていた意地もゆるやかに緩和され
孤独ながらも淡々と働く…そんな毎日を過ごしていた
どんなに孤独でも、割に合わない生涯でも
時が経てば慣れていく
そんなものなのかもしれない…
だからと言って、どこかの誰かのように
差し伸べる手にホイホイとついて行くような真似や
容易く酔い潰れ、一夜の過ちを繰り返すような事など
冗談じゃない。そんな手に乗ってたまるか…💢
ふと思い出しては苛立ち、吹っ切るように
ただひたすら、仕事にのめり込む…
ある時、商店街の中がいつも以上に賑わいを見せていた
彼らがこぞって買い漁っているのが、刊行されたばかりの情報誌
「副大魔王様とお妃様が………お戻りになったそうだ!!」
「お帰りになられたんだな…だが、これまでの要職には就かず
取締役となられるとか………」
「縁の深い人間界で、今後もお暮しになるんだとか………」
「…どこに行かれても、あの2魔なら、お幸せになるだろう。
新たな時代の幕開けか…ま、俺たちには
あまり関係のない話だけどな~(笑)」
…何気なく耳にした会話に、ラディアは1魔、グラスを傾けながら
ぼんやりと考え込んでいた
(…あの翼をもぎ取った悪魔が…?へえ…てことは
Anyeも…?…ふっ…馬鹿ね。人間界なんかに好き好んで行くなんて…)
鼻で笑い、引きつりながらグラスを煽るラディア
(ま…どうでもいいわ。自分には何の関係もない事…)
そんな風に遣り過ごし、店を後にした
空席となった副大魔王の後釜を狙い、貴族魔たちが
熾烈な抗争を始める
群雄割拠の貴族魔たちの中で、わりと高い位置に存在し
それなりに魔力も強く、多少はカリスマ性があり
第二の副大魔王候補にもなろうかという悪魔が現れた
その名はシグナス。雌の性器のみを有する彼女。物腰は柔らか。
だが、残念ながらベロチーバほどの力量はなく、知性も乏しい
見た目も煌びやか。だが、風帝妃の気高さとは比較しようもないほど
派手にコーティングされた見た目に比べて、中身がない事は
有能な最高魔たちであれば、瞬時に見破れるほどだ
だが、麗しさ、魔力には長けており、
身のこなしもまあ、スマートかもしれない
王都に一矢報いる
そんな野望を秘めている貴族魔の中には
張り子の虎としてお膳立てをして、担ぎ上げる
そんな一派も大小問わず生まれるものだ
だがそこには、イザマーレと、天と地ほどの分厚い壁があり
人気も実力も、全然、比べようがない
おまけに、雌であるならば、イザマーレの妃であった
Anyeの方が根強い人気があり、地方に蔓延る数多の民衆たちには
揺らぐことのない確固たる意志が常に存在した
なぜならば、その悪魔の根底にあるのが基本的に私利私欲。
一見、物腰が良く見えるのはすべてが計算だからだ。
そんなこんなを、遠目にも見続けているラディア
ラディアから見ても、あんな悪魔は最低
そりゃ、受け入れられるわけないわ…となるほどだった
やがて、その悪魔は全ての事が思い通りにいかず
本性をさらけ出してくる
その日、魔界高等学校の学長室は不穏なオーラが漂っていた
大魔王からの任命を待つのみと自認するシグナスが
副大魔王の職務を滞りなく遂行するため、自らの卒業を
早めよと、学長に直談判しに来たのだ
「シグナス様。残念ながら、その要望にはお応えできません。
厳格な規則ですから。イザマーレ様でさえ、学生との二足のワラジを
続けてらっしゃいました。例外は、一つとして認める事はできません」
口調は穏やかに、はっきりと伝える学園長
「…そうですか。規則ならば、仕方ありませんね☆彡
ですが、やがてはこの世界を支配しようという、この僕の望みを
無碍にするのであれば、それなりの見返りを要求したい。
受け入れてくれるのならば、今日の所は手を打ちましょう」
「…見返りとは…?」
傍若無人に好き放題のシグナスに、学園長は好々爺の面を隠し
問いかける
「そうですねえ…これ以上、僕の前で
元副大魔王に関する話をしないで貰いたいんですよ。
現職である僕に対して、非礼極まりないですよね」
ちょうどその時、職員が稟議書を持って学長室に訪れた
かつて、Anyeのクラス担任を受け持っていた教員だ
「あ、ちょっと、そこの君。ちょうどいいや。
この板切れを踏みつけてくれるかな?」
そう言って取り出したのは、イザマーレとAnyeが笑顔で撮られた
写真を杭で打ち付けた板
何も知らない職員は、それを見るなり青ざめ、被り振る
「な…っ 冗談じゃありません。そんな事、出来る筈がありません
それより学園長…こちらにサインを…」
言いかけた職員が白目を剥き、口から血を吐く
「!!」
一部始終を静観していた学園長は、
強固なオーラを放ち、シグナスに対峙するが
シグナスは飄々とした表情で、両手を挙げる
「ちょっとした余興です。今後、僕に対して非礼な態度に出た者は
容赦なく鉄槌を下します。それが、僕の求める見返り♪
ご理解いただけましたか?」
言い捨てたものの、学園長の持つ魔力には抗えないと
瞬時に判断したシグナスは、勝ち誇った表情のまま、その場を立ち去る
「…職員の皆さん。お騒がせしました。
深手を負った彼を、すぐに魔界病院へ運んであげてください。
局長殿は、ここの所、雲隠れをなさってると窺ってますが…」
そして、校内アナウンスが流れた
「愛すべき学生諸君、職員の皆様…私からの戒厳令をお伝えします。
今こそ、“公私混同はご法度”この意味を深くご理解ください。
しばらくの間、皆様の中にある誠の愛は、心の中に御仕舞下さい。
イザマーレ様、ならびにAnye様に関する事は、口外禁止です。
耐えがたき屈辱は、心の中に灯す誇りとしましょう。
闇雲に争い、無益な血が流れるのは美しくありません。
最悪でも生き延びる…その為の愚策です。ご理解ください。
以上を持って、学園長である私からの挨拶とします」
………
やがてこのお触れは、王都だけでなく魔界全土に行き渡る
暗黙のルールとなった
決して声には出さず、心の中でイザマーレ夫妻の事を慕い続けながらも、
表向きはシグナスに従うフリをしなければならない空気の中で
ラディアにもその余波が来る
いつもの店で、雑務をこなしていたラディア
突然、店の扉が蹴倒され、複数の黒魔族たちに取り囲まれた
「…ここにも居たか。こんな界隈にいる者など
箸にも棒にも掛からぬ役立たずだけどな。だが、物のついでだ。
おい、小娘。私の前に跪き、この板切れを踏みつぶせ」
そう言って投げ捨てるように置いたのは、イザマーレとAnyeの顔を
型に嵌め込んだ銅板だった
「………」
ラディアは表情を一切変えず、その銅板をチラッと見遣りながら
シグナスに向き合う
「そんな無駄な事をする必要はないわ。
私もあなたと同じ。イザマーレとAnyeの事なんか、大嫌いよ。
気が合うわね」
「…!……ほう…面白い奴だな。名は何という?」
「…ラディア」
「お前ら、こいつを城まで連れて行け。」
シグナスの命に従い、黒魔族たちは迅速に動き
ラディアと共に王都へ帰って行く
パンデモニウム宮殿の周りには、魔界中から集められた民衆が
固唾を飲んで見守っていた
シグナスが己の力を誇示し、自らの宣下をもって
副大魔王の称号を得る儀式が開かれようとしていた
シグナスの暴徒を抑え込もうとしていた最高魔たちは
その最後の砦として、「伴侶を持たない者に、その資格なし」
の条件を出していた
思わぬ僻地で見つけたラディアを、漆黒のドレスに飾り立て
その腰を抱きながら、地上を睥睨するシグナス
無表情のラディアの顎を持ち上げ、その口唇を奪おうとしたその時
「あのさあ…盛り上がってるところ、悪いんだけど」
これまで一言も声を発しなかったラディアが、
宮殿を取り囲む民衆に向かい、突然語り出す
「お前らの、イザマーレに対する想いとは、そんなものか?
誰がどう見ても、こいつと比べようもない事くらい、分かってるだろ?
なぜ立ち向かわない?」
「…!…」
「…!?……」
ハッとする民衆
そして、予想外の出来事に眉を顰めるシグナス
「死ぬのが怖くて恐れている…愚か者め!!
イザマーレに対する忠誠心とは、そんなものか!!」
「…!…こいつ…生意気な小娘が…っ」
ラディアの言い放った言葉に怒り震え、本来の気性丸出しの
形相を浮かべ、強力な魔力を放出するシグナス
シグナスの攻撃に身体を貫かれそうになり、
防御の体制を取りながら、反射的に目を瞑ったラディア
だが、いつの間にか、ラディアの身体を覆い尽くしていた
闇のオーラに、シグナスの攻撃は全て遮断され、弾き飛ばされた
「!!……」
思わぬ事態に驚愕し、振り返った瞬間、さらに愕然とするシグナス
そこに居たのは、禍々しいほどに麗しい、大魔王陛下………
「…こ…このような場にまで、貴方様がお越しになるなんて…
そ…それに…近頃、下界にて遊覧なさっているとお聞きしておりましたが…💦」
慌てて取り繕い、忠誠心を示そうとするシグナスを後目に
目の前にいる存在は、退屈そうな表情を浮かべる
「…何を言っているのか、さっぱり分からんな。
私の大事な妻が、前世で苦境に喘いでいるのは、
見て見ぬふりが出来ぬのでな。」
「…え…?」
ダンケルの言葉の意味が分かりかねて、眉を顰めるシグナス
「…だが今回は、正式な手段を取り、私の誇るべき家臣たちも
引き連れてきたのでな。少々手間取り、ギリギリになってしまったな。
ダイヤの前世よ…怖い思いをさせたな。もう心配は要らないぞ♪」
刹那、ダンケルの背後に現れた6魔の姿に、
さらに怯え、震え出すシグナス
「な…なぜ、貴方様がここに…?人間界に帰化されたはずでは…??」
愕然としながらも、腑に落ちないシグナスが、恐る恐る問いかける相手は
自らがネガティブキャンペーンを盛大に行い、卑下し続けていた相手と
瓜二つながら、それ以上に強大なオーラを纏い、剣の切っ先を
シグナスの首に突きつけ、大魔王から下される厳命、その時を
静かに待っている
だが、ふと思い至ったのか、
黄金の怒髪天に厳しい視線のまま、語り始める
「栄えある魔界の歴史において、お前のような愚か者が“副大魔王候補”として
存在していた事は、すぐにでも抹消したいほどの恥だな」
「…!!…何だと!?…貴方様こそ、控えられよ。
すでに表舞台から降りた者に、意見する権利などない💢」
目を血走らせながら、激しく罵るシグナス
だが、目の前の大悪魔は、シグナスの反応など意に介さず
言葉を続ける
「…我々は、大魔王陛下の厳命の元、急遽この場に馳せ参じた。
お前の命は、すでに我らダンケル陛下の手の中にあると心得よ。
だが、折角だ。冥途の土産に良い事を教えてやろう。
副大魔王たる者…常に己を律し、大魔王陛下に誠の忠誠を誓い
その治世の為に身を捧げよ。その覚悟のない者に
副大魔王を名乗る資格はない。すでにお前は、単なる反逆者だ」
「…!!……っ……」
「まあまあ…。そうは言っても、未来の我々が天誅を下すのは
あまり得策ではないな。イザマーレ…お前の怒りはよく分かるけどな♪」
恐怖で打ち震えるシグナスを後目に、
イザマーレの背後を手堅く警護していたウエスターレンが
その綺麗な金髪を優しく撫でる
「そうだね…今回の任務は、
ダイヤちゃんの前世を守れっていう事だったから…
こんなもんで良いんじゃない?ダンケル?」
バルサとセルダがラディアを抱き起こし
それをのんびりと見守りながら、ベルデも進言する
「…そうだな…良かろう。
やがて顕現する先代の大魔王とその家臣たちが
コイツの事を正しく処罰する事だろう。」
図らずも、愛するイザマーレからの心の底からの忠誠心と
副大魔王という立場に対する覚悟を窺い知れた事に
ダンケルの心は満たされていた
大魔王の決断に、イザマーレは剣を鉾に収め、ふと、振り返り、
一部始終をただ呆然と眺めていたラディアに、ニヤッと笑いかける
「…よく逃げもせず、立ち向かったな。さすがは大魔王后の前世。
ダイヤにも、よ~く言って聞かせてやらんとな♪」
「!…//////」
自らの行為を、手放しで称賛された経験など
これまで一度もなかったラディア
あの、翼をもいだ悪魔とそっくりの相手に、まさか
そんな事を言われるとは…
知らずの内に視線を泳がせ、頬を染めて俯くラディア
だが、そんなラディアの反応に、ダンケルがイライラし始める
「イザマーレ💢お前はいい加減、ダイヤの事も
少しは褒めろ💢💢そして、その気もないなら
ダイヤの前世の事は、私に任せてもらおう!!良いな💢」
ダンケルの怒号と、構成員の笑い声…
突如、雷鳴が轟き、稲妻が走る
雷雲と共に、ラァードルがひょっこり顔を覗かせる
「お~い。そろそろタイムオーバーだよ。お疲れさん♪」
爆音と共に硝煙に包まれ、刹那、
未来からのタイムトラベラー達は姿を消していた…
し~ん…と鎮まる静寂の中、もぬけの殻のように
脱力したままのシグナスを蹴倒し、ラディアは語る
「まあ、どうせ私は、殺されたくっても助けられた情けない首謀者だ。
命などちっとも惜しくない。だから言わせてもらう。
イザマーレ…そして…Anye…大魔王の事も大嫌いだ。
だが…この魔界で平穏な日々を過ごせるのは、誰のお陰なんだ?
彼らの強さ、残酷さ、そして…そして………//////」
言いながら、Anyeとの軋轢や、複雑な思いが昇華されていくラディア
知らず知らずのうちに、涙を流していたことすら気づいていない
「彼らの事を一番、悔しいくらい理解している私の足元にも
及ばないわ💢出直してこい💢💢」
シグナスに堂々と勝利したラディアに
民衆たちの自然な拍手が沸き起こる
雷雲の傍に控える龍宮船から
そっと見つめていたリリエルは、にこやかに微笑んでいた
事の発端となった、前イザマーレ副大魔王の退任劇
実はこの時、前イザマーレはAnyeと前ウエスターレンを連れて
彼女の生まれ故郷である雷神界を訪れていた。
その間に湧き起こった前代未聞の不祥事に、忸怩たる思いを抱えていた
出迎えた雷神夫妻は、2魔を暖かく迎え入れ、
人間界に帰化した際の姿も是非見たいと仰られた
花と光、蓮の姿になった時、
未来の魔界から、未来のイザマーレとリリエルが里帰りに訪れた
そこで、全ての事態を把握し、収束の為に
全世界と結託し、過去の世界に乗り込んだのだ
「…ダイヤちゃんの意地っ張りと、心と言葉が裏腹な感じは
前世から相変わらずなんだね(笑)」
龍宮船の中で同席していたミカエルが、ほくそ笑んでいた
リリエルの隣で、静かにすべての事象を見届けていたAnye(花)は
溢れそうな涙を堪え、その思いを嚙み締めていた……
さて。シグナスを取り締まり、処刑し魔界を平定させたのが、
サタンと、サタンを中心に王都を支えていた
エルドメア(今のイザマーレ閣下の養父魔で
前副大魔王)と盟友ルピアス(長官の養父魔)
この時のクーデター的な事件をきっかけに
魔界には大魔王への忠誠の元でなければ
中央省庁の役職に就けないという掟が生まれた
とはいえ、シグナスを担ぎ上げた一派もある程度力があり
彼女をリーダーとする派閥も生まれ、それらは
中央省庁では左翼とされ、王族への襲撃のみを
禁忌とし、実力のないものは淘汰されるべしという
魔界の根底に流れる意識も確立される
さらに、最後までイザマーレ閣下に忠誠を誓い続けた悪魔を
中心とした種族がイザマーレ族と呼ばれるようになる
そのため、エルドメアとルピアスには
閣下と長官のような愛があったが
表立って寄り添う事は許されず
公式の場で、副大魔王とそれを護衛する情報局長官
という関係が生まれるものの
この2魔は、本当の意味で結ばれることはなかった
彼らの無念、諦念それらも含めて
次世代のイザマーレ閣下とウエスターレン長官に
全ての思いを託し永遠の眠りについた
と思われる
さて。このシグナス
広大な魔界の中では様々な悪魔もいて
基本的にシグナスを中心に、天界とこっそりと繋がり
隙あらば王家への反逆を繰り返すようになる
やがて、人間界にも狙いを定め
咲音と亮、花と光の元にも
しょうのない敵を送り込んでくるようになるのだ…
🌷不名誉な事件簿 Fin.🌷
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