流しそうめんとプロレス
- RICOH RICOH
- 10月19日
- 読了時間: 3分
むせ返るような熱波に辟易しながら
格子戸を開け、窓のサンに腰かけて煙草を吸う
エアコンの冷気が逃げるし、けむりっぽくなる空気を
嫌がる者も、家の中にはいない。それにも関わらず
わざわざ狭いこの場所にいるのは理由があった
「おーい、A」
襖の外から呼びかける声に、俺は振り向いた
「…なんだよ」
煙草を灰皿で推し消し、呼びかけてきた声に反応する
「そうめん茹でたよ。昼にしよう」
「…竹筒の準備はできたのか…?」
「いやぁ…やってるそばからJとLは喧嘩し始めるしさ
途中からZもイライラし始めて、『普通に食えや💢💢』って…(笑)」
「…………」
流しそうめんの準備が出来たら、あいつも呼ぼう
俺が秘めていた企みは、儚く消えた
だがそんな事は些細なことだ
ため息ひとつ零す事もなく、俺は立ち上がり
やつらの集う居間に向かう
「あ、俺、これ嫌い」
そうめんをすすりながら、JがIの器にミョウガを移し替える
「J。好き嫌いはやめろ」
「いいじゃん。Aにも頼むつもりだったじゃんね」
悪びれる素振りも見せず、懐にすっと入り込むJ
ごろにゃんと懐いてくるのも慣れたものだ
「…分かったよ。後で聞かせろ」
「そういえば、その日って…例の試合の日じゃない?」
そうめんを咀嚼しながら、Lが何かに気がついて
財布に入れっぱなしのチケットを確認する
「…一応聞くけど…良いの?A…」
「…別に構わないだろ。俺はあんまり興味ないし
好きな奴同士で行ってくればいい」
「…Aがそう言うなら、俺は楽しみだけど…」
(…あいつは恐らく、Aと行きたいんじゃないか…?と思うけどな…)
そんな本音はひた隠し、自らの本望を遂げようと
切り替えるL
「まさか僕が、あいつとデートできるなんてね♪
こんなチャンス、逃す手はないよ(*`艸´)ウシシシ」
(…………💢💢)
あの時の苛立ちが、鮮明によみがえる
試合が終わる時間に合わせて、あいつらを迎えに行った
弟のLなど二の次で、ついでのフリをしながら
本当に出迎えてやりたい相手は、Lの隣にいるであろう
あいつだ
そんな自らの本音にさえ、ポーカーフェイスで蓋をしたまま
電柱の影に立ち、煙草を吸いかけた俺の目に
信じられない光景が飛び込んできた
「…………おい」
観客同士の小競り合いが元で、暴徒化した会場
鳴りやまないサイレンの音と共に駆けつける救急隊
担架に横たわり、運ばれてきたのは…―――――
「あっ!!A!!!こっち!」
俺を見つけたLが慌てて手招きしている
「乱闘に巻き込まれて、ドミノ倒しになってさ」
だからって…そんな目に遭うのが、なぜあいつなんだ
俺が傍に居てやったなら…
そもそも最初から、俺があいつの誘いを断らなければ…
「…D!!!」
俺の呼びかけに、目を覚ましたあいつが
朧げな瞳を彷徨わせ、捉える
「…D!俺が分かるか?しっかりしろ!」
「…………」
僅かに動く唇。
読唇術を操る俺にしか伝わらないように
(ごめん…こうすれば、触れ合えると思って…)
俺は愕然とする
まさか…その為に…?
暴徒を引き起こしたのは、こいつじゃない
それは単なる偶発的な事故だ
「…A?…大丈夫?…」
「…ああ、帰るぞ。」
くるりと踵を返すと、スタスタと歩き出す…
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