事務所
- RICOH RICOH
- 2月4日
- 読了時間: 3分
「ちぃ~っす」
「あ、桜介さん。いらっしゃい。今日は早いんですね?」
事務所に訪れた桜介に、薔子《しょうこ》が笑顔で出迎える
「…この時間なら、まだいるよね?」
「…ああ。そういう事…」
ニヤッと笑みを浮かべ、小声で確認する桜介
薔子は合点が行き、ほくそ笑みながら頷く
「ええ。いつもの所に居ますよ」
桜介を促すと、お茶を出そうと薔子は給湯室に向かった
「匡輝さん、おつです!」
軽快に声をかけて、いくつかの資料を取り出す桜介
「…ああ…」
作業をしていた匡輝は桜介を見ると
デスクの引き出しにしまっておいたパスケースを取り出す
「これ。お前のだろ?」
そう言って差し出したのは稀依の名刺だった
「…ああ!すんません…探してたんですよ~」
桜介はたいして悪びれもせず、軽い調子で受け取ると
ポーカーフェイスで作業に戻る匡輝の様子を密かに観察していた
「この前、このビルで見かけて、あまりにも可愛かったんで
声かけちゃったんです♪」
「…そう…」
(そんなもん、気安く落とすなよ…)
内心、ざわつく気持ちを隅に追いやり、そっけなく相槌を打つ匡輝
「実は今日も、1階のカフェで会う約束してましてね…あ、やっべ」
「?」
騒々しく慌てる仕草を見せる桜介に、若干苛立ち
眉間に皺をよせながら睨み付ける匡輝
「実は今日、ショップの方が立て込んでましてね。
ほら、百花《ももか》さんのアルバムが発売になるでしょ」
「…ああ、そうだったな」
スタジオに出入りしていれば、その程度の情報は耳に入る
「まずいな~…彼女の時間に間に合えば良いけど…」
ブツクサ言いながら、事務所を後にする桜介
「…なんなんだ、あいつは…💢」
好き勝手に捲し立てられ、その上、放置された匡輝は呆れて苛立ち
ついに作業を投げ出してしまった
「…あれ?桜介さん、もう帰っちゃったの?」
お茶を運んできた薔子が声を掛けるが、返事もしない
やがて、大きく息を吐きながら立ち上がり
「出かけてくる」と一声かけて、ドアの外に出ていく…
「…まっさん!…」
いつものように後追いで飛び出す薔子
意外にも、匡輝はドアを出てすぐの廊下に佇んでいた
「…まっさん…どしたの?いつもより早いけど…」
忘れ物だよ、とスマホを手渡しながら、不思議そうに見ている薔子
「ああ…いや」
言葉少なにスマホを受け取り、画面を操作すると
1件、桜介からの着信通知が届く
「匡輝さん、すみません💦やっぱ今日、忙しくて
行けそうにないんですよ💦頼んでいいっすか?
彼女待たせたら嫌われちゃうんで♪」
(…………ったく💢💢)
ふざけるな…と返信する間もなく
立て続けに送り付けられる
「ビルの1階にあるカフェですよ!
いつも15時頃に彼女来ると思うんで。よろしく🙏」
「あっちなみに名前は稀依ちゃん。き・い・ちゃん
小田 稀依ちゃんです。じゃ!あとはよろしくです!」
…………
15時か…
いつも収録に向かう時間
まあ…それなら、通り道だな…
いつの間にか、妥当な理由を探している匡輝
不思議そうに見ている薔子の手前、視線を泳がせながら
スマホの画面を閉じると、
「ああ…じゃ、行ってくる」
薔子から目を逸らし、エレベーターホールに向かう…

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