ラウンジ
- RICOH RICOH
- 2月4日
- 読了時間: 4分
更新日:2月17日
ランチタイム
マーケットで買ったおにぎりとお惣菜を手に
辺りを窺うが、意中の相手は見つからない
「………」
匡輝と初めて会ったあの日から、
毎日のようにカフェに来るようになった彼と
ざっくばらんに話をするようになった
稀依のわずかな休憩時間で
尚且つ匡輝が収録に向かう15時は
会える時間も短い
それよりも、ラウンジで過ごすランチタイムなら
もっとゆっくり話せるのに……
そう思っていたら、匡輝も
事務所に入る前に時々ラウンジに居るという
それならひょっとして、会えるかも…
でも、しつこくて嫌われないかな💦
などと思いながら、そっと足を踏み入れたのだ
だが、残念ながら、匡輝の姿はなかった
緊張の糸がほぐれて、ため息をついて
窓辺の椅子に座ろうとした
その時
「小田さん!」
「!…///」
後ろから呼び止められる声…
稀依は目を見開き、振り返る
……傍目には、ポカンとして固まったように見えただろう
人目に付きにくい、2人掛けのテーブル席の前で
匡輝がこちらを向いて佇んでいた
「……あ…///」
一瞬、どうにかなったのかと思った
金色のベールに包まれて、キラキラと輝いている…?
「…良かった、会えて。こっちにおいでよ」
固まる稀依に手招きして、誘う
「…///はい…///」
何がどう、とか
順番とか、立場とか………
何も考えられない
理由とかも………
何も分からないの
でも…きっと、この人が好き…もう、止められない…かも…
自覚した途端、初めて会った時のように
涙が込み上げる
でも、ダメダメ…堪えなきゃ…
芽生えた気持ちを隠して、匡輝の隣に座る稀依
「…桜介から聞いたんだけど、いつも
俺のアルバムを買ってくれてたって…?」
「!…あ、はい!」
「そうなんだ、もしかしてリスナーさんだった?」
「…はい、すみません…///あ、でも
今までは知らなくて…その、声を聞いて…」
「…ああ!そうか…じゃ、驚かせちゃったね。」
両手を振って首を被り振る稀依
「いえ、あの…すみません、ご迷惑ですよね?こんな風に……💦」
「…何故?」
躊躇う稀依をじっと見つめる匡輝
「え!だ、だってだって…💦」
ますます焦り、困ったように俯く稀依
「職場の近くで、偶然知り合った君と
ちょっとの時間、こんな風に会って話をするだけだよ?」
「…そ、そうですけど…」
わざと突き放すような匡輝に、
ズキっと痛みを感じながら、愛想笑いを続ける稀依
「10代のガキじゃないし、ウチの事務所は
その辺オープンだから。アーティストの前に
1人の男として、君に会うのはダメかな?」
「……あ、でも💦」
まだ何か、言い訳を探す稀依を
じっと覗き込む匡輝
「稀依?」
「!!////」
ドキッとして飛び上がる勢いで驚く稀依
「…そう呼んでも、良い?」
「あ…は、はい///あ、じゃ私は…あの…」
真っ赤になって口篭る稀依に、笑顔を見せる匡輝
「匡輝でいいよ、もちろん♪」
そう言いながら、耳元に口を寄せ囁く
「…稀依…」
途端にビクッと跳ね、真っ赤になる稀依
ドキマギして心臓が爆発しそうだ
返事も出来ずにいると、あるチケットを手渡される
「?」
「事務所で貰ったんだ。今度、同じ事務所の
アーティストがアルバムを出すのに小さなイベントを
やるんだそうだ。桜介のショップなんだけど…」
「! えっ そうなんですね…」
興味ありげにチケットを眺める稀依
「良かったら、一緒に行かない?」
「!!……えっ///い、良いの…?」
再びビクンとして、恐る恐る、俯きがちに見上げる稀依
「勿論。そういう場所だから、事務所の人間が
多く来る。却って安全だろうって。さっき、
会長にも了承して貰えたから」
匡輝の言葉を、一言一句、聞き漏らさないように
じっと見つめながら、それでも俯く稀依
「…で、でも、これって…」
(良いのかな…これじゃまるで…)
言い淀み、口元に手を当てる稀依
匡輝は見据えたように、ニヤッと笑い、再び耳元で囁く
「デートだな♪」
口をあんぐりと開けたまま、
ポカンとして固まる稀依の髪を撫でて
立ち上がると
「じゃ、また連絡するね。稀依、午後も頑張れよ」
面白そうに微笑み、立ち去っていく……
数分間、固まり続けた稀依は、自分の頬を摘んでみる
「痛っ……ゆ、夢…じゃないよね…?💦」
ラウンジの少し離れた場所にある
1人掛けの丸椅子で、古書を読み耽っていた花は
彼らのオーラを密かに観察していたが
ふふっ…と微笑み、窓の外を眺める
今日は穏やかな晴天…
そういう事なら…
眩しい陽の光に、うっすらと涙を滲ませ
目を閉じる……
役に立てることが、いくつかありそうね…
再び目を開けると立ち上がり、30階に戻っていく…
🌷Fin.🌷

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