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第2話

  • 執筆者の写真: RICOH RICOH
    RICOH RICOH
  • 1月18日
  • 読了時間: 3分

霧雨けむる、夜の帳


傘も刺さずに飲み屋街を練り歩く

カッチリした装いは好みじゃなく、ラフなジーンズにシャツを羽織っただけだが

シルエットだけでも様になる蓮


本来の魔性は火だ。雨など瞬時に弾き飛ばしながら、目についた

店の暖簾をくぐる


振り返った複数の影。そのうちの一人がおもむろにグラスを差し出し

にこやかに出迎える


「…やはり来たか。待っていたぞ」


「………………」


蓮は黙ったまま、隣のスツールに腰かけ、差し出されたグラスを煽る


「…なぜ居る?さては、俺様を誘導したのか」


空にしたグラスを乱暴に置き、追加注文する


「久しぶりに、お前とサシで飲める、絶好の機会だからな。

だが吾輩が仕掛けたわけではないぞ。てっきり今夜は

花と過ごすだろうと思っていた」


綺麗な金髪をサラサラさせながら、口元に笑みを浮かべる光


「…馬鹿言うな。俺はあんたらと同じ轍は踏まない。」


光の背後に居る影に、鋭い眼光を一層細めて睨み付ける蓮


「おや…。久しぶりなのにずいぶんな挨拶だな。

レンの罪は、吾輩も被るのか。まあ…それでも良いが」


「…サム」


わざとらしく口を窄めて、グラスの淵をなぞるイザムの隣で

めったに口にしない夢幻月詠の本音に気づき、窘めつつ

何も言わずに受け流す、赤い長髪の男


「…冗談だよ。リリエルはどうしたんだ?放置して大丈夫なのか?」


「ああ、心配いらない。今、我々の世界は正午を回った所だ。

執務をあいつに預け、我々だけのアバンチュールの時間。

どこで何をしようが、自由だ」


「…ふん。大層な御身分だな。っていうか、それなら

なぜ、俺のところに姿を現さない?」


「おやおや…今夜の蓮は、甘えん坊だな(笑)

そんなに吾輩に会いたかったのか?お前には光が居るではないか。」


蓮の不遜な一言一句にも、穏やかな表情を変える事なく

グラスに口をつけるイザム


前世イザマーレの化身、光に寄り添う蓮は、前世ウエスターレンだ

Anyeと3魔で人間界に降り立ち、70年のタイプトリップを経て

魔界で再会を果たした後、彼らと共に現代の人間界に帰化した


現ウエスターレンの世仮の姿、レンの傍で

珍しく本音を零したイザマーレのように

現ウエスターレン自身の本音が、過去の世仮、蓮に感化される

その影響で、レンが地球に降りてくると、蓮は少々

センチメンタルになる


蓮を待ち構えていた訳ではないが、

今夜、人間界で彼らと会うならば、この店に姿を現すことは

端から分かっていた光だ


蓮が出かけた後、花はひとり、エレベーターを降りて

階下のラウンジに向かう


花のお気に入りは、丸みのある1人掛けのソファ

駅前にある図書館で借りておいた歴史書をひらいて

じっくり読み込んでいく


今も昔も…暇を持て余す時、花は読書で孤独を埋め合わす


一度、読み出すと止まらなくなり

いつしか時間が過ぎていく…


そんな自分に、やや呆れがちに笑いながら、優しく触れてくる

相手を待ちわびながら…


ふと、本から視線をはずし、ぼんやりと意識を飛ばし

光(前世イザマーレ)と過ごした、これまでの歳月に想いを馳せる


「………」


小さな星屑ほどだった想いが、宙のように広がり続けて

今でも静かに穏やかに煌めいている…


ふぅっと息を吐きながら、再び手元の本に視線を戻しかけた…

だがその時、気になるオーラを察して、それとなくオーラの発生元を見遣る




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