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第5話

  • 執筆者の写真: RICOH RICOH
    RICOH RICOH
  • 1月18日
  • 読了時間: 4分

更新日:1月25日


「…ふぅ…」




休憩時間で、タワマン内にあるカフェでコーヒーを飲みつつ


稀依はぼんやりしていた




東棟の13階で、エレベーターに向かう匡輝を追いかけて


事務所から飛び出てきた女性




「あ~…💦行っちゃったよ、もう💦」




あわててボタンを連打し、到着したエレベーターに乗り込む




「…あっ、いた!まっさーん!!」




「……」




エントランスでタクシーを待っていた匡輝は


彼女の声に気づいて振り返る




「忘れ物ですよ!ほらっ」




ゼーハーと肩で息をしながら手にしていたものを見せる




「…ああ、悪い。」




事務所のデスク回りには彼の私物が散乱してる


移動時に荷物になるのも煩わしいし


必要なら事務所に戻れば良いだけなので


ほぼ、身ひとつでふらりと外出するのが癖になっているのだ




そうはいっても、スマホや財布やタイムカードなど


他人から見たら驚くような物まで放置していくことが多いのだ


待機する事務員にとってみれば、連絡手段が途絶える事は死活問題なので


慌てて追いかけて届けようとするが


ないからといって困る事がない匡輝にしてみれば、有難迷惑だったりする




エントランスで繰り広げられる光景を、カフェの窓ガラス越しに


眺めていた稀依




(…あの人、たまに見かけるけど…いつも手ぶらなのよね。


後から追いかけてきた人、大変そうだけど…なんか楽しそうなのよ


…好き…なのかな…♪)




ひとり脳内で妄想を繰り広げ、ニマニマしていると


反対側から声がする




「おーい。」




「あ、桜介《おうすけ》さん! お疲れ様です♪」




「こんな所でどしたの?…あ、また、忘れ物届けに…?偉いねえ…(笑)」




「ええ…もう意地になってるんですよね(笑)スタッフ同士で


追いつくか、間に合わないかで、ビール一杯、賭けてます(笑)


…まっさんに用事ですか?」




「うん。だけどもう出ちゃったよね。大丈夫。いくつか


頼まれたデザインを持って来ただけだから…で?今ここに居るってことは


今日は薔子ちゃんの勝ちってこと?いいなあ…俺もなんか、奢って欲しい(笑)」




ざっくばらんに会話しながら軽快に歩いていく2人




(…あれ?あの男の人、どこかで…?)




相変わらず、人間ウォッチャーしていた稀依は、記憶の断片を追いかけながら


思わず凝視していた




そんな稀依の視線に、エレベーターホールの前にいた桜介が振り返る




「…?…あれ…?…」





桜介も、どこかで見た気がする彼女の姿に、首を傾げた




やがてエレベーターは13階に到着し、事務所内に飾られた


匡輝のメガジャケットを目にした途端、記憶の糸が繋がる




「…あっ…あの時の…えっ」




昨日、店で接客しただけの、わずかな記憶だ


見間違いかもしれないし…




用事を済ませ、再び1階のカフェの前に佇む桜介




「…ん?桜介さん?どした?」




見送りに来た薔子が、不思議そうに尋ねる




「…ん、あ、いや…実はさっき、可愛い子がいたからさ。


声かけて、反応良かったらデートに誘おうかと思ってさ♪」




まだ、なんの確証もない


変に騒いで事を大きくするわけにもいかない




勘ぐられないよう、わざと軽薄にカラっと笑う桜介




「またまたあ!もう、相変わらずだね~。」




すっかり信じ込んだ薔子は、桜介の調子に合わせてバシッと肩をはたく




「なんとなく、知ってるかも。いつも大抵、このカフェに居るのよね。


私も何回か、見た事あるし」




「…え。そうなの?…てか、別の子かもしれないじゃんね」




「たしかに(笑)」





自分の言葉が可笑しくて、吹き出しそうな薔子




「多分、あの子のことかな?このビルのどこかで


働いてると思う。…蓮さんなら分かるかも…聞いておこうか?」




「!…あ、百花ももかさん…」




出入り口を塞いでいた2人に声をかけた百花


両手に楽譜といくつかの書類の束を抱えている




「あ、ごめんなさい、邪魔しちゃって…💦」




慌てて謝り、道を譲る薔子




「ふふ…亮さんの現場上がりなの。相変わらず、食堂に行くっていうから


一足先にあがらせてもらったの」




「そうなんだ…お疲れ様です!」




中途半端で投げ出す形となった自分の後釜で


亮のマネージャーになった百花。自身もアーティストのたまごで


案外とオンオフがはっきりしている。だがそれが、気難しがり屋の亮とも


良好な関係を築けているようで、なんとも複雑な気分になる薔子




「ところで百花さん。さっきの言葉が気になるんだけど


なにか、心当たりあるの?」




桜介がそれとなく尋ねると、百花はふんわりと笑う




「先日、勇さんのスタジオで、花さんから聞いたの


クスクス…花さんったら、また若くて可愛い子が居た~って


頭抱えてるんだもの…」




「え…そ、そうなんだ…」


相変わらずな花の天然っぷりを聞かされて、思わず引きつる薔子




「可愛い子ちゃんと知り合えるなら、是非ともお願いしたいなあ♪


その見返りは、ワインとチーズかな?」




改めて、ウインクする桜介に、百花はにっこり微笑む




「…いいえ。いつもこちらのバンドのポップ展示を優先的に


していただいてる桜介さんの恋路のためなら♪」




「取引か(笑)もちろん、百花さんのもやるよ!やらせてください!!」





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