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亮と薔子

  • 執筆者の写真: RICOH RICOH
    RICOH RICOH
  • 2024年12月1日
  • 読了時間: 4分

最新アルバムがリリースとなった。

各種雑誌の取材、ラジオ、テレビ、Web…ありとあらゆるメディアを

積極的に活用したプロモーション展開となり、多忙な日々を過ごしていた


全てが分刻みのハードスケジュールに辟易しながらも

持ち前の眩いオーラを武器に、こなしていく彼ら


各地へ移動する車内が、唯一の休息の場だ。


「…亮!お待たせ。これ、コンビニで買ってきたから

移動の間に少しでも食べて!」


助手席に座り、振り向きざまにコンビニ袋を

差し出す薔子


「……」


アイマスクをして、死んだように眠っていた亮が

物音に気づいて薄目を開け、気だるそうに受け取る


中をちらっと見るが、そのまま隣の座席に放置して

再び眠りの沼に入り込む


(……やれやれ(´-ω-)…💢)


内心、苛立ち、ため息をつきそうになりながら

シートベルトを装着し、運転手に声をかける

「すみません。出してください。」




「…ここのところ、ハードな上にハードなスケジュールで

ギッシリだったけど、今日はこの後、1件の取材が終われば

隙間が空くから。」


「…そうだな…っていうか、ハードなスケジュールなのは

お前もだろうが。移動の時は、俺に気を遣わないで良いから

上手に休めっての。俺が普通にしていたら、お前、休めないだろ?」


「…!…そうだけど…っ 」


疲れ切って、精神的に限界なんだろうと

亮を気遣い、慰めるように声をかけた自分に対して

ようやく反応したかと思ったら、まさかの言葉に驚く薔子


「…コンビニ飯とかさあ…俺、嫌いなの言わなかったっけ?」


「!…えっ…うそ…💦」


「(苦笑)ってなわけで、これはお前にやる。

お前が責任もって食うように。分かったな」


そう言って、助手席に座る薔子にコンビニ袋を押しつける


「そ…そんなわけにはいかないわよ💢」

慌てて大声で言い返す薔子


「…うるせーなあ…だったら、次のが終わったら、あそこに連れて行け。」


「あそこって…?」


「食堂。…この時間なら、間に合うだろ?」

そこまで言い切り、再びアイマスクを覆い、眠りにつく亮


今度こそ盛大にため息をついて、窓の外を眺め

引きつり、苦笑するしかない薔子…




通常のリハやライブツアーとは異なり、プロモーション活動となると

バンド全体で動くより、メンバーが個別に独自の個性を活かし

各方面に散らばって多角的に展開する機会が格段に増える


一樹や拓海は、個別に組んでるソロライブを活発に行う事で

それ自体が抜群の宣伝効果を生んでいる


碧生も、静哉や泉吹も、地方のメディアに露出したり

活動の幅もそれぞれだ


フロントマンとしての役割を担う亮は、その倍以上の

依頼が舞い込み、精力的に動いているのだ


大勢のスタッフがいる中のひとり、ではなく

薔子ひとりで亮のサポートをするのは

マネージャーという仕事に就いてから初めての経験だったのだ


現場に付き添いながら、

亮の丁寧な立ち振る舞い、漲る行動力には

圧倒させられることばかりだ。


実際、すべてを完璧に、責任を持って取り組む彼には

薔子のサポートを必要とする場面など見当たらないのが本音だ

また、他のタレント担当のマネージャーの動きと見比べて

自己嫌悪に陥ったりもする。


初めての現場という緊張感もあって、常にピリピリと

必要以上に気負い過ぎている事も、薄々、自覚していた


都内を移動する時に、常連で使うタクシーを呼び

細々とした雑用を済ませ、停めてあるタクシーに向かうと

当然のように中で待っている亮


顔なじみの運転手は大柄だが柔和で優しそうな顔立ちをしている

ドアの近くに立ったまま、薔子に囁いた




「…今日は、珍しくお疲れの様ですね。中に入り込むなり

すぐに…ほら…」


「?」


中を覗き込むと、アイマスクをして眠り込む亮の姿…


(やばい…休ませなきゃ…オーバーワークだもんな…💦)


次の現場までは、少しだけ時間のゆとりもあった


「すみません。少しだけお時間頂けますか。ちょっとでも

気分転換してもらう為、すぐそこのコンビニで色々買ってきます!」


………


現場にいる間は、休憩時間だろうが移動時間だろうが

「金髪王子」としてのオーラを纏い、見るものを惹きつける


そんな亮が、珍しく「隙」を見せてくれた気がして

嬉しかったのだ。


それがまさか、気を張り詰めすぎている事にすら無自覚で

走り回る薔子を気遣う行動だったとは………


(…分かりにくいけど、優しい…そんな奴なのよね…)


嬉しさ半分、馬鹿にされたような悔しさ半分で

複雑な心境でいる薔子に、運転手がさりげなく声をかける


「では次の現場の後は、いつもの食堂ですね。お任せください♪」



第四章 Fin.




 
 
 

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