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半年後

  • 執筆者の写真: RICOH RICOH
    RICOH RICOH
  • 4月26日
  • 読了時間: 3分

ひとりの青年が、海岸通りの脇道を歩いて行く




綺麗に整えられた庭を過ぎて、サナトリウム施設の自動ドアを開ける




「…あ、Aじゃん」




目の前の共用スペースで本を読んでいた花梨が歩み寄って来る




「…花梨ちゃん。誠先生は何処にいるかな?」




「医務室に居ると思うよ。A、あとで、スクールにも来るでしょ?


作楽さんに伝えておく!」




そう言って、Aの返事も待たずに駆け出して行く花梨


相変わらずな彼女に苦笑いしながら、Aは廊下を進み、医務室の扉をノックする




「失礼します」




「ああ、Aくん。お帰り。」




一緒にいた恵が立ち上がり、お茶を淹れる




「結果は?どうだった?」




「…はい。無事に合格しました!」




「!…本当かい!?…はぁぁぁ…いや…そりゃあ良かった…


おめでとう。よく頑張ったね」




Aの嬉しい報告に、我が事のように喜ぶ出門 誠




「それじゃ、お母さんにも報告しないとね。会っていってあげて」





嬉しそうな恵の笑顔に促され、Aも頷く




「はい。これから行きます。これからの事は、また


報告に伺います」




丁寧に頭を下げるAに、誠と恵は穏やかに見送る




廊下に出ると、待ち構えていた花梨がAの腕をひっぱりながら


渡り廊下を抜けて奥の施設に連れて行く




「ありがとう。先に、挨拶を済ませてくるよ。すぐに行くから


ちょっと待ってて」




Aはそう言って、さらに奥の廊下を進んでいく




ドアを開けると、もう一つドアがあり、手前の空間から


クリスタルの壁越しに中の様子を見る事ができる




ベッド脇の椅子に腰かけ、編み物をしていた女性が


自分に気が付き、にこやかに頭を下げる




「お母さん。簿記の資格試験に合格できたよ。」




壁に設置されたマイクをオフにしたまま話しかけるが当然反応はない


マイクをオンにして、もう一度話しかける




「外美子さん、こんにちは。お元気そうだね。」


「はい…こんにちは」




今度は嬉しそうにお辞儀をする彼女




「…外美子さん、Aくんがテストに合格したそうだよ」




「そう…よかったわねえ。Aちゃん…よく頑張ったのね


(´∀`*)ウフフ Aちゃんは、私の自慢の息子なんですよ♪」




事件の後、不登校が続いていた花梨も一緒に


サナトリウム施設に併設されたフリースクールに通い始めたA。




薬の副作用で脳に損傷が生じた外美子は


記憶が曖昧になり、性格も穏やかになった


見た目はただ、手先の器用な、優しい女性にしか見えない




だがミュンヒハウゼン症候群特有の、ずば抜けた演技である


可能性も否めず、経過観察が必要とされている




母親による蛮行から完全に遮断されたことにより


Aは数か月の間に著しい成長を遂げ、年相応の背格好になり


どこから見ても、好青年の美男子だった




恵から、フリースクールを運営する人材を探していると聞いた花は


タワマン内で知り合いになった作楽を紹介した


週に1回、フリースクールに通う子供たちの話を聞いて


様々な相談に乗る。そんな仕事だ




Aはあの日、12階の部屋で出会った人物(実は悪魔)の姿を


忘れた事がなかった。彼のおかげで、母子共に命が救われた事


感謝を込めて、言われた通り、いつか体当たりしに行きたい


そんな事を夢に見ている




Aの情報を詳細に把握していた光と花は、


光プロダクションのマネジメントの話をもちかけた




12階の百花の部屋で、イザマーレ副大魔王に再会できるのも


そう遠い話ではないかもしれない…





Fin.

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丸太小屋の階段を降りると辿り着く桜の木
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