理仁の画策
- RICOH RICOH
- 4月26日
- 読了時間: 3分
最寄り駅を通り過ぎ、そのまま電車に揺られる事、数十分。
海辺の街に辿り着いた
海岸通りを脇目に、路地を進んでいくと
とある施設に辿り着く
重篤な病を抱えた終末期患者向けのサナトリウム
空気の綺麗なこの場所は、都心へのアクセスも良く
障害のある若者や、特殊な事情を抱えた子供たちが
多く入所している
10年前、前妻が最期に過ごした場所だった
敷地に一歩、足を踏み入れると
とても穏やかなオーラに包まれる
「おや…理仁くんじゃないか。」
個室の扉が開き、出てきた男性が声をかけてきた
柔和で、朗らかに笑いかけてくる
「出門先生…ご無沙汰してます」
はにかんだ表情で会釈する理仁
「それじゃ、メアリさん。失礼します。ユキさん…お大事にね
…あら?理仁さん…お久しぶりね」
出門に続いて個室の中に声をかけながら、出てきた女性が
気が付いて笑顔を見せる
「恵さん。本当にお久しぶりです。10年ぶりとは思えないほど
相変わらず、お綺麗ですね♪」
笑顔で挨拶を交わす理仁の言葉に
しみじみと思いを馳せる2人
「そうか…あれからもう10年経ったんだね…」
妊娠直後に発覚した病。
心臓に負担が大きく、出産は無理と言われていたが
諦めきれず、藁をもすがる思いで辿り着いたのが
出門クリニックだった
24時間完全看護で、医療側も最大限のバックアップ体制で
臨んだ帝王切開。
奇蹟は起こり、元気な女の子が誕生した
その後は、砂がこぼれ落ちるように容体が悪化し
寝たきりの状態が続いていたが、子どもが3歳の誕生日に
ついに息を引き取った
悲しい帰結だが、真っ暗闇の中、覚悟を決めて臨んだ夫婦に
真摯に向き合った出門 誠と恵の2人に
とても感謝していた理仁
悲しみと共に、湧き上がる想いは
残された子どもと共に前向きに生きる糧となった
久しぶりに顔を合わせた理仁
近況を聞かせてもらおうと、3人はテラスに移動した
……
………………
「……そう…」
「…やっぱり、罰が当たったんでしょうね。
俺一人、幸せになろうとするなんて…彼女に恨まれて
当然です」
弱々しい笑顔を見せる理仁
「…そんなことないわ。
いつまでも悲しみを引きずるより、次の幸せを
見つけて、明るく生きて欲しい。私なら、そう思うわ」
「恵さん…そう言ってもらえると、楽になります」
「そうか…晃の懸念がひとつ、解消できそうだね
決断は出来るだけ、早い方が良さそうだ。
理仁君には、苦労をかけるね…」
「ありがとうございます。…いえ、先生方が周知してくださっていると解れば
安心です。その時はまた…厄介になります」
含みを持たせ、入念にお辞儀する理仁

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