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episode 1

  • 執筆者の写真: RICOH RICOH
    RICOH RICOH
  • 1月2日
  • 読了時間: 11分

人は、その一生の中で、

他人に土下座する機会がどれだけあるだろう


ドラマや映画、ニュースで目にする企業の不祥事


テレビ画面の向こうで、そんな場面を目にする事は割とある


だが、実際に経験したことがあるかと問われれば・・・

そう頻繁にあるわけではないだろう


では、土下座される側になった経験は…?


これは、そんな稀有な経験と、それに近い現象が

何故か頻繁に起きる、ある人物の物語である





その人物の名前は、絵里奈《えりな》


制服のブレザーを着込み、スカート丈は膝上。

足元はルーズソックスに、茶系のローファー。


そんな青春真っ盛りの女子高生が、颯爽と自転車を漕いでいる

駅前の駐輪場は混んでるし、料金も取られるので

少し手前の交差点付近にある、無料の自転車置き場に到着すると

鍵をかけて、カゴからカバンを取り出す


あまり人気の多くない場所で、そんな瑞々しい乙女がいれば

痴漢にとって格好の餌食だ


嫌ならもう少し、スカート丈を下げるか、

ボディーガードを付けるべきかもしれない

だが、そんな事には全く無頓着というか、無防備というか…




何の警戒心もない絵里奈は、漏れなく痴漢の被害に遭うのだ

相手は得体の知れない男性で、酔っ払いだったかもしれない


背後から突然、臀部を触られ、驚いた彼女は「キャッ…」と息を呑む

叫びたくても、不意の出来事で身動きできない状態だと、

本来、声も出なくなる


その時は、自転車のガードを下げておらず、両手はサドルを握りしめたまま

無防備にも程があり過ぎる状況で、手も足も出せない


「……っ」


声を出せない代わりに、びっくりして振り返っただけだった


……どうなると思う?


絵里奈がもし、何処にでもいる普通の女性だったならば

痴漢はますます増長し、もっと酷い犯罪になっていたかもしれない


だが…




驚いて振り返った彼女の顔を見た途端、その痴漢は手を離し

「はい…ごめんなさいね…良いものを、ありがとね~…」

と、丁寧にお辞儀までして去って行ったのだ


「……」


絵里奈はその場に置き去りにされたまま、ポカーンとしていただけだ


(いや……謝るなら、最初からするなよ……)


ていうかその前に、もう少し警戒心を持て。な?そう思うだろ?





さて、絵里奈は駅前に自転車を止め、今度は高校までバスに乗る


片道約一時間

ちょうど良い睡眠時間だ。


その日は朝から曇り空。

下校時刻には小雨がパラついていた


学校側にあるバス停は、その路線の終点なので

わりと広く、屋根もあるしベンチもある

それでも、バスが来る直前は長蛇の列になり

ずぶ濡れになるのだが・・・


他の生徒は皆、その一本前のバスに乗ってしまったのだろう

その日、バス停にいるのは絵里奈だけだった


彼女の目の前に、一台の高級車が停まる


「…?」


不思議そうに眺めている絵里奈


車の窓ガラスが降ろされ、中から顔を見せる男…


「乗る?」


サングラスをかけ、インテリ風で間違いなく金持ちそうだ


「…あ、いえ。結構です」


絵里奈が断ると、男は爽やかな笑顔を見せて

「…了解。じゃあね」

現れた時と同じようにスーッと窓ガラスを閉じ、

静かに立ち去って行く




「…なんか…すっごいスマートにナンパされちゃった…(苦笑)」


またしても、呆然と車を見送りながら、ぽそっと呟く絵里奈


良いか。確かに、どんなにスマートでも、インテリ風でも

知らない男の車に軽々しく乗り込んではいけない


それは単なるナンパで、もしかしたら不審者かもしれないからな


だが時には、得体の知れない何かが降臨し、意図的に姿を見せた場合もある。


この場合は後者だ

朝に遭遇した痴漢の事が心配になり、様子を見に行ったのだ…💢





自転車を停めた最寄り駅にバスが到着し、

絵里奈は小雨に濡れながら

徒歩で30分ほどの距離を自転車を押して歩いて行く


やがて現れる大きな門扉を潜り抜け、

広い敷地の片隅に建つ離れに向かう

自転車を押しながら、ふと、母屋に視線を向ける


広いガレージに、見慣れない車が停まっていたのだ


「ただいまあ…」


離れの引き戸を開けて、声をかける

誰も居ない事は分かっていても、反射的に出てしまう言葉


だがその時は、いつもと違った


「…おかえり。遅かったな」


その時刻に絵里奈が姿を現す事を予見していたかのように

淹れ立てのコーヒーを差し出す男


「…!…あなたは…」




目を瞠り立ち尽くす絵里奈に近寄り、

上から下まで隈なくチェックする


雨に濡れた制服ブレザーの肩から肘、腰、胸元まで手を滑らせ

スカートの裾から露出している太腿をゆっくりと撫で上げる


朝、出くわした痴漢の痕跡を塗りつぶすように、臀部を摩る


「…!…//////」


男の視線に捉えられ、震えながら見つめてくる絵里奈の頬を撫で

そのまま顎を持ち上げる


「…っ…んん……//////」


薄紅色の口唇に男の口唇が重なり、あっという間に口内を蹂躙され

口づけはどんどん深いものになっていく


強く抱きしめ、髪を撫でると、絵里奈は安心しきった表情で

幸せそうに微笑んでいる


「…お帰りなさいませ…聖さま…」

「おいで…」


男は微笑んで見つめ返し、再びキスをしながら

彼女の制服を脱がし、風呂場に連れて行く…


………………

……


風呂場やリビング、至る所で貪るように愛し合い

ようやくベッドに横たわり、まどろみ始めた絵里奈

男は彼女の頬をそっと撫で、優しくキスをして消え去る…




母屋では、館の主―聖《ひじり》―を出迎える祝宴が催されていた


荘厳な門扉を過ぎて、一番奥にある豪華な館

その裏手に浮かぶ摩訶不思議な扉


普段は庭の景色に埋もれ、一体化しているが

満月の夜になると、禍々しい紋章が浮かび上がる


それは、とある世界と人間界を繋ぐ秘密の扉…


通常、門扉の中は、向こうの世界に生きる特殊な者だけが

出入りを許される


人間たちは皆、彼らを敬遠し、好んで近寄ることもない

ただ、お互いの均衡を保つため、その地域に暮らす人間の中から

年頃の娘を売り渡す決まりとなっていた


不慮の事故で両親を喪い、身寄りもなく、

人間側にとっても好都合な存在…それが絵里奈だった


事前に様々な噂を聞かされて、ビクビクしていた絵里奈

だが、出迎える聖の姿を見た瞬間、アッと驚く


「…幾つになった?」


「…じ…15…です…//////」


「ふ~ん…まだ、子どもじゃないか…」


「//////…!…あっ…」


真っ赤になり、口を尖らせ俯いたままの絵里奈の腕を引き寄せ

背後から抱きしめて、至近距離で見つめ合う


「…ぷっ」




真っ赤になり過ぎて、垂れ下がった眉

幼すぎる絵里奈に、聖は堪えきれずに吹き出す


「…契約とはいえ、子ども相手では、さすがに無理だな」


「!…そ、そんな…//////」


気色ばみ、青褪めてしがみつく絵里奈

自分が至らないせいで嫌われてしまったら、

人間界が襲われてしまう…

それに…//////


絵里奈を抱きしめる聖の腕のぬくもりは、あの時と同じで

多くの安らぎと幸せを感じるのに…


聖はいつまでも、絵里奈を子ども扱いするのだ


「…そうやって、すぐ拗ねる。分り易いな(笑)」


そう言いながら、聖は絵里奈を離そうともせず

抱きしめたまま身体の線に沿うように手を滑らせていく


「…聖さま…」


吐息がかかる程の至近距離で見つめ合う


「案ずるな。お前が年端もいかない未熟な事は

もとより承知の上だ。今、この時を敢えて選んだのだからな。

なぜだと思う?」


衣越しに胸元の際どい所を何度も擦られ

すでに絵里奈は息も絶え絶えになっている


「…お前を他の蟲どもに奪われる前にな…」

わざと耳元で囁き、耳朶を口に含む

「!!…あ…あん…あ…//////」




それだけの愛撫で、身体を震撼させる絵里奈


「…俺がお前を、極上の女にしてやる。ゆっくりとな…」


乱れた髪を撫で、微笑む聖…


その日から、絵里奈が誕生日を迎えるごとに距離を縮めていく


初めてのキスは、16歳

17歳になると、全身を隈なく愛撫され続け…


毎日のように続く、白い真綿のような時間

永遠に続くものと思っていた…その矢先


突如、聖は絵里奈の前から姿を消した


あちらの世界で急用ができ、その対応に追われているようだ


そんな噂を耳にしながら、絵里奈は館の中を探し回るが

どうやら人間界にすら居ないようだった


しばらくすると、母屋には、向こうの世界から別の夫婦が入り込み

絵里奈は邪魔扱いされ、離れに追いやられた


それでも…敷地内に身を置かせてもらえるだけ、マシだった


他の人間と同じように、制服のブレザーとミニスカートを身に纏い

自転車を颯爽と漕いで高校に通いながら

周りの生徒たちともどうにか折り合いをつけ、日々を過ごす絵里奈


あの、濃密に過ごした日々は、夢まぼろしだったのか…


そんな事を思い出す事すら、止めてしまっていた




「聖。よくぞ戻ったな。しかも…予想外に早く…」


盃に一献を受け、口に含ませながら静かに笑みを浮かべる聖


「魔宮殿の地下に眠る魔宝庫に出向いた隙に

何者かが我が館へ入り込み、不法滞在していると

信じ難い情報を入手しましたので」


「はっはっは……(笑)お前が我が懐へ来ると言うなら

こちらは手薄になる。留守の番が必要だろうと気を利かせたまでだ」


「そうですよぉ…必要なら、お声がけくださればいいのに…

何もわざわざ、聖様みずからお越しにならなくても…

案の定、得体の知れない小娘が無断で入り込んでおりました。

使いの者に命じて、追い出しましたわ…」


得意気に言い放ち、紅茶の香りを楽しむ女―香耶《かや》

聖はわずかに侮蔑の視線を向けるが、相手は何も気づかない


「契約を交わしたとはいえ、母屋に入る事を許されるのは

我々、悪魔だけ。必要なら、いつでもお声がけくださいと

何度もお伝えしているではありませんか♪」


馴れ馴れしく腕に絡みつき、肌を寄せてくる香耶を振り払い、

突き飛ばす


「…!…な…」


聖のまさかの行為に驚き、憤慨するあまり言葉を失い固まる香耶


「契約すら反故にされ、逃げ惑った挙句に魔王に拾われ

早々に鞍替えした貴女こそ、御自分の立場をわきまえたらどうです?」


「…!…//////」


香耶は悔しそうに歯を食いしばり、睨み返す




「…聖。いくらお前でも、我が妻、香耶に対する暴挙、いい加減にしろ。

たかが人間の事ではないか。それに…見たところ、まだ生娘だろ?

不成立という意味では、同じではないか」


「絵里奈は私の正式な妻です。私の許可なく離れに追いやるなど

無礼な真似は金輪際、許しませんので悪しからず。」


「!!…まさか…あんな小娘と…//////」


「契りなら…すでに済ませましたよ。」


シレっと答える聖に、香耶はますます青褪める


「う…嘘よ…!!聖さまが…人間など、まともに相手にするわけない…

だからこそ私は…悪魔になったというのに…//////」


「香耶…おいで…私がいるではないか」


おいおいと泣き喚く香耶を魔王が抱きしめ、髪を撫でてやる


「良かれと思い、お節介を焼いた結果だ。悪気はないのだから

許してやってくれ。お前を敵に回したくはない」


「……」


「…ついに嫁にした、という事か…めでたいではないか」


魔王から差し出される盃を無言で受け取り、頭を下げる聖


「ただ…相手は人間。母屋は時空の狭間だ。そう長く居続ける事は難しい。

香耶の行為も、彼女の命を救うという意味においては間違ってないだろ?」


「……まさか…私を求めて、ここまで入り込むとは、予期せぬ出来事でした。

だが、彼女は身を引き裂かれる事もなく、館中を探し回っていたとのこと…」


「…」




「図らずもその一件が、絵里奈の存在を立証しています。

もとより、私が魔宝庫に出向いたのも、彼女に力を

授ける為だったのですが…」


懐から、ある物を取り出す聖

正式な最高魔の紋章が施された宝石が嵌め込まれた指輪だった

自らの胸元を探り、見せつけるネックレスには

指輪と同じ宝石があしらわれている


「…お分かりですか?その存在の前に、

石など単なる飾りに過ぎないのです」


「……!……まさか…」


香耶は目を見開き、いよいよ青褪め、土下座する


「も…申し訳ありません……まさかあの小娘……い、いえ

彼女が…あの御方の……💦💦💦」


そんな香耶に対し、聖は相変わらず表情を変えない


「それは…私にすべき事ですか?」


「!!…」


聖の纏うオーラから怒りを如実に感じ取り、香耶は恐怖に慄く


「どうしても謝りたいというのなら、絵里奈にどうぞ。

まさか、口先だけで誤魔化そうなどと、お考えではありませんよね?」


ついにガタガタと震え出す香耶

その時、聖の手にする宝石が光を放つ


「おや…目覚めたようですので、今宵はこれで…」


盃を置き、瞬時に立ち去る聖…




翌日


放課後呼び出され、絵里奈は部室に向かう

すると、集まったメンバー全員を前にして

絵里奈に土下座する香耶


「…え…なに…?」


面食らい、目をパチクリさせて首を傾げる絵里奈に

ただひたすら、謝り続ける香耶


「い、いや…ちょっと、あの…訳わかんないんだけど💦」


「無責任な態度で、絵里奈ちゃんをすごく怒らせたって…聞いたよ?」

「っていうか、皆、絵里奈ちゃんに謝れって思ってるし」


口々に言ってくるメンバーの言葉さえ、意味不明でさっぱり分からない

知らない所で何かが起き、勝手に暴走しているのだ


「今後、香耶が活動を続けていいか…絵里奈ちゃんに聞きたいの」


(はぁ…よく分からないけど…それで、土下座…)


「…よく分かんないけど、つまり、活動は続けたいってことね?

別に良いんじゃない?ってか、私が決める事じゃないし」


そう言わざるを得ない絵里奈の困惑した表情に

その場の空気は和らぎ、無事に解決したらしい


実は、絵里奈の背後に見えている聖の視線に、怯えまくっている

香耶の土下座事件であった



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🌷episode1 Fin.🌷



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丸太小屋の階段を降りると辿り着く桜の木
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