Ⅱ 忍び寄る毒蜘蛛
- RICOH RICOH
- 2024年12月24日
- 読了時間: 7分
「…フフ…咲音ちゃん、少し持つわ。たくさんで大変でしょ?」
「あ、いえいえ💦これくらい、大丈夫ですよ。任務ですから!」
百花と連れ立って歩く間にも、行き交う人の波に幾度もぶつかり
押し流されそうになる咲音
「うわっ…!」
躊躇いもなくぶつかってきた人影によろめきながら
振り返った瞬間、目を瞠る
「ごめんなさ~い…って、あら!」
歩きスマホでぶつかっておきながら
適当な相槌で済ませようとしていた相手は
チラッと視線を寄こし、場違いな笑顔を浮かべる
「お久しぶりね! 亮さんたちのライブを見に来たの?」
「…寛子さん…貴女こそ、どうして?」
目を逸らして袋の中身を確認している咲音の隣で
百花がどうにか問いかける
「私は仕事。今度、ウチの事務所からデビューさせる子がいてね。
紹介がてら挨拶回りさせてるの。」
「え…そうだったんですか」
「手ぶらじゃ失礼だから、行きつけのシェフに頼んで
豪華なランチを用意させてもらったわ。」
「!…え…」
あまりの事に目を白黒させる咲音
「…寛子さん…有り難いのだけど、事前に確認なさった?
亮さんたちメンバーの分は、すでに私が頼まれているんだけど…」
努めて冷静に確認する百花。その手に持っている
亮のために買った、咲音特製のランチセットを見遣り
勝ち誇った顔を見せる寛子
「…ふっ、どうせそこら辺の、ケータリングかなんかを
適当に買ったんでしょ?味気ないじゃない…
お祝いなんだから、見た目も豪華な方が喜ばれるんじゃないかしら?」
「…いや、先方に確認もせず、勝手な事をされても…」
呆気に取られ、ドン引きする百花
「そ、そうですよ。それに、亮さんは繊細なので
濃い味付けのものや、甘いものは絶対に口になさいません
せっかく用意していただけたのに…勿体ないわ
事前に確認なさったら良かったのに…」
なぜここまで大雑把に、生きれるのだろう…
手掛けた手間がすべて無になる事態
却って寛子を不憫に思う咲音は、言わずにはいられない
だがそんな咲音に、盛大にため息をつく寛子
「…咲音さん。あなた…そんなに御自分が偉いのね?
心配していただかなくても、きちんと受け取ってくれたわよ。
フェスでしょ?ここで働いているのは、メンバーだけじゃないのよ?
数多くのスタッフさんもいるの。その方たちの分も
百花さん一人に運ばせるっていうの?」
「………」
あまりの言い草に、閉口するしかない咲音と百花
「お~い。お2人さん。どうした?」
ふいに後ろから呼びかけられ、ハッとして振り向く2人
「あ…蓮さん!」
「なかなか来ないから、咲音はともかく、百花ちゃん。
やっぱりアンタも迷子になったか?」
ニヤッと八重歯を見せ、2人を楽屋の中に引き入れる蓮
「あ、庵野。ちょうど良かった。関係者以外の差し入れは
受付けてない。お前の事務所宛に送り付けておくから。
迷惑な部外者共々、さっさと連れ帰ってくれ」
扉越しに庵野 寛子を見遣り、冷酷に伝え、
中から一人の女性をつまみ出す蓮
「な…💢」
「すみませ~ん…自己紹介したら、もういいって言われました~」
つるんとした肌、大きな目をパチクリさせて
退屈そうに髪の毛をくるくると指でまきつける彼女
お人形のように可愛らしい容姿で、その目も人形のように虚ろだ
喧騒をかき消すかのように、無慈悲に扉を閉ざす蓮
「すみません…庵野 寛子にこんな所で再会するなんて
思ってもなくて…//////」
「一樹さんたちに頼まれたランチセットをお届けにきたのですが
大丈夫ですか?」
「すまなかったな。常日頃、我々の胃袋は咲音の味に
がっつり仕込まれてるからな。メンバーはもちろん、スタッフもな♪」
向かった先で目に飛び込んだのは
楽屋のロビーに積まれた弁当の山…
「…ああ、蓮。ご苦労だった。吾輩は勿論、亮たちも
すっかり辟易してしまってな(苦笑)」
「光。待たせてすまないな。良い子にしてたか?」
さも当然のように光を抱き寄せ、そのサラサラな髪を撫でる蓮
「…///だ、だから…皆の前ではやめろって…///」
珍しく、真っ赤な顔で狼狽える光
「…花は?」
「庵野 寛子が登場したおかげで、すっかりご機嫌ななめだが
ちょうど、あいつらが来てくれてな。リリエルたちと一緒に個室にいる」
「間一髪ってとこだな。百花ちゃん。倉ちゃんは何時ころ来るかな?」
「え…先生ですか?13時くらいかしら…」
「倉ちゃんに頼まれて、あいつらを呼んだから」
「…あいつら…?リリエルって…そういえば…先日も…」
倉橋のコンサートの時、楽屋で見かけた女性に
花がそう呼んでいたような気がする…
光と蓮のやりとりを不思議そうに眺めていた百花は
ぼんやりと記憶を辿る
「まあいいや。百花ちゃん。倉ちゃん来たら、知らせてくれるか?」
「あ、はい…畏まりました。じゃ、咲音ちゃん。行きましょ♪」
光の指示に頷きつつ、メンバーの部屋へ咲音を連れて行く百花
「お~咲音。良かった。待ってたぞ」
中から出迎えたのは一樹
「毎度ご注文、ありがとうございます(*^▽^*)」
中では、庵野 寛子から押し付けられたメンバー分の弁当を
泉吹の前に積み上げ、静哉がお茶を淹れているところだった
「亮さんは…やっぱり駄目でしたか💦」
「いや…流石の俺も、ちょっと受け付けないレベルだよ?」
大食漢で知られる泉吹も、一口で飽きたらしい
ガサッ
その時、咲音が手に持っていたビニール袋に後ろから手を差し入れ
一人前のランチセットを取り出す亮
「お♪五色のミニおにぎりか…。咲音のおススメはどれだ?」
「亮さん♪えっと…やっぱり梅かな…コロッケと一緒にどうぞ~」
途端に甘い雰囲気を漂わせる亮と咲音
百花はようやく落ち着き、微笑ましく眺めながら、ぼんやりと問いかける
「そういえば…どなたかいらしてるんですか?光さんにチラッと窺いました」
「ん?ああ、花さんと一緒にいるはず。奥の部屋だよ」
静哉に言われ、場所を確認している百花に、亮が声をかける
「百花、ありがとな。今日はもういいぞ。倉ちゃんによろしくな」
「あ、はい。じゃ、頑張ってくださいね♪後程、先生と一緒に伺いますので」
「百花さん、ありがとうございます♪ランチもお待ちしてますね~」
すっかりご機嫌になった咲音。亮が優しく髪を撫でる
「そうだ…さっき入口で、お会いしました…女優さん?
すっごく可愛かった~(≧▽≦) 今度、亮さんと共演なさる方?」
「ああ…」
目を輝かせる咲音に、若干、目を泳がせる亮
「…?…この前、見せてもらった台本のやつですよね?
亮さんと恋人役の…いいなあ…」
「お前…平気なの?俺が、役とはいえ、別の女とその…」
「え…」
言葉を濁す亮に、咲音はキョトンとする
食堂で見せてもらった台本では、ちょっとした会話を交わす程度で
それだけでも胸キュンものの内容だった
「庵野の奴が、無理やりキャストを変更させて
台本も書き換えさせたんだそうだ。内容はこれから届くそうなんだが…」
「あいつの事だからな。無理やり、キスシーンとか
濡れ場のシーンも付け加えるかもな」
「!…」
「くだらないビジネスのチキンレースに、乗っかる必要はない。
俺の主戦場は音楽だからな。やっぱり光さんに言って、断るわ」
思わず固まる咲音の髪をポンと撫で、決意を新たにする亮
「…でも…亮さん…亮さんは歌はもちろんだけど、お芝居も
大好きでしょ?倉橋さんみたいな活動も、
いつかは手掛けてみたいって…」
亮の前にしゃがみ込み、そっと手を添える咲音
「あ~まあ…確かにな。でも、お前に我慢させてまで
やりたいわけじゃない。これからでも、チャンスはいくらでもあるさ」
「私は…大丈夫ですよ。
亮さんなら絶対、素敵だと思うし…ちょっと、見てみたいかも♪」
想像しながら、ワクワクが止まらない様子の咲音
「……」
やせ我慢している風でもなく、何の気苦労もなさそうな咲音に
安堵しながらも、なんとなく面白くない亮だ
「まあ…いきなりゼロにしなくても、やり方なら幾通りもあるし。
それこそ、亮のやりたいように選ぶことも出来るだろ。」
「そうだよな。光さんにも伝えておけば、大丈夫なんじゃない?」
亮を宥め、諭す一樹に、碧生も追随する
「…分かったよ。濡れ場はNG。キスシーンはフリだけ。それを条件に
受ける事にする」
「………」
「それで仕事が来ないなら、俺もそこまで。そういう事だ。」
むーと口を窄め、やや不満そうな咲音
「…そんな事ないもん…亮さんは絶対…王子様だもん…」
廊下から、爆笑する声
「いや~…咲音。最高だね♪さすがだ。」
「!…蓮さん…?」
八重歯を見せてニヤッとする蓮に、咲音はキョトンと首を傾げる
「言う事も、寛大なところも、あいつにソックリだな♪
あ、まだきちんと紹介してないよな。こっち。おいで…」
手招きされ、奥の部屋に向かう
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