Ⅶ
- RICOH RICOH
- 2024年12月10日
- 読了時間: 3分
さてさて。物語はまだ終わらない
晃を婿養子に迎え、妻の座をつかんだサエ
だが、晃と恵の関係を、これまた知り尽くしていたサエにとって
恵と自分との扱いの違いを意識せずにはいられない
必要以上に邪険に振る舞う事もないが、
あくまでも形式的に扱うだけで、愛情ではない事は
初めから分かっていた事だ
晃は、ただ寡黙に
自分の目標に向かって邁進するのみだ
だが、サエはそれだけでは満たされない
恵に対する執着、
さらに、周囲から執拗に期待される子作りの話…
幼い頃から病弱で、入退院を繰り返していたサエは
子供を産めるだけの体力は持ち合わせていなかった
だが、そんな事はお構いなしに、過度に期待されて
ウンザリしながらストレスを抱え込む日々
つねに心は暴走を繰り返し、やがて
田門クリニックの門扉を開け、誠に相談を繰り返すようになる
その日も、不妊治療の検査の為に外来予約をしていたサエ
偶然、待合室で恵と再会し、その身体に目を瞠る
明らかに安定期を迎える妊婦姿の恵…
自分の診察が終わり、廊下に出たフリをして
診察室にいる誠と恵の会話を盗み聞きしていたのだ
そして知らされる。残酷すぎる真実を…
………
気がつくと、フラフラと公園内を彷徨い歩いていた
気弱に笑い、近くのベンチに座る
…なぜ、いつもこうなんだろう………
誠と恵…
あの2人を前に、いつも感じる劣等感と敗北感
そもそも………誠の事を好きだった筈の自分
笑っちゃう。なんでこうなっちゃったんだろう??
それだけじゃない。
手段を択ばず、確実に手に入れたはずの晃さえ
恵という存在を前に、砂上の城のようにもろく、覚束ない
運命はいつでも彼女の味方をする
「………!!…」
そうよ…こうしちゃいられない…
恵にだけは、絶対に負けられない…
切羽詰まった表情で、何かに憑りつかれたようにスマホを操作するサエ
その姿は、鬼の形相にも見え、異様な空気を纏う
「…サエ?」
呼びかけられた声にハッと我に返る
見上げると、目の前に白衣姿の誠が居た
「公園で遊んでた子供たちが、俺のところに駆け込んできたんだ
変な女性が座り込んでるって…診察は随分前に終わったよな。
何やってんだ?」
ぼうっと呆けているサエの手元には
里親募集のアプリ登録完了の画面が…
続けて通知音が鳴る
「…えっ…里親制度って、こんなに早く成立するもんなの?
って、誰?こんなアプリ登録したの…」
驚いて慌てふためくサエに、誠は深々とため息を付く
「里親になったら、簡単にリセットなんて出来ないぞ?
そんな事、晃にも内緒で勝手にやっていいのか?」
はっきりと指摘され、初めて事の重大さに気づき
青褪めるサエ
「…しょうがねえなあ…」
もう一度、ため息を付き、サエの隣に腰かける誠
「…おい。今回の事は、誤魔化さずに晃に伝えろ。
そして、その結果を必ず俺に報せに来い。愚痴なら、聞いてやるから」
「!…え?」
言葉の真意を測りかね、ハッと気づいて振り向くが
誠はすでに立ち去った後だった
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