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  • 執筆者の写真: RICOH RICOH
    RICOH RICOH
  • 2024年12月10日
  • 読了時間: 3分

恵が誠のグループから離れ、

晃と一緒に過ごす姿を頻繁に見かけるようになった


そうすると、晃と恵を中心に、新たなグループも構築され

恵は案外と穏やかに、幸せそうにしている


それでも誠は相変わらず、恵と会えば気軽に声をかけ

髪を撫でて揶揄う


そんな光景も相変わらずだった


いつの間にか、サエと等の事を誰も気にしなくなり

サエを悩ませていた刃の呪いもなくなった


というのも、やはり等は生粋のプレイボーイ

本気でサエを相手にしたわけではなかった


その頃、等を悩ませていたのは、まったく別の問題だった


あの日、待合室で交わした恵の祖母との会話…

等の胸に去来するのは、強烈な敗北感だった

貴婦人の前で成す術もなく、震えているだけだった自分


儚げで美しい女の姿が忘れられず、それは即ち、恵に対する劣等感となる

あの時受け取った彼女の最期のメッセージを

自分なりに消化する事も出来ず、挙句の果てに体調を崩す有様


そんな時、偶然病室で一緒になったサエは

言葉とは裏腹に、感情が顔に出やすく分かり易い

プレイボーイを自認する等にとっては、ちょうど良すぎる

「手ごろな相手」に過ぎなかった


事を終え、腕の中で甘えるサエは、男としての自信を蘇らせたものの

それ以上でもそれ以下でもなかった




思わぬ形で大きく尾ひれがつき

恵という大切な存在を永久に失った

だが、今となっては後の祭りだ


等が自らをどんなに卑下し、悪びれていても

心の奥底に仕舞い込んだ本音を丸裸にされる

恵が等を見定める目は、いつも変わらなかった

それは却って、等の自尊心を刺激していた

等が恵の視界から消えれば

虚像だけが取り残され、自滅していくだけ


恵が最後まで意地を張り続けたのは、

実はそんな理由だったのかもしれない


仕方のない事だ。

等は、恵にとって本当の王子様ではなかった。

それだけの事だ。


サエも、軽はずみな行動が思わぬ余波を生み

後にも引けなくなり、後悔するばかりだった


本当は、等と過ごす事で、誠が少しでも自分を気にかけ、

あわよくば、女として見てくれるようになるかも…

誠の愛を一身に受けながら、まるで相手にしない恵の

大事な相手を奪う事で、少しは仕返し出来るかも…


そう、心の隅で思わなかったと言えば、嘘になる


等との事は、本当に一夜限りのご褒美。

だから、その後、何も相手にされないのは仕方ないし

サエ自身の望みでもなかった


だが…

なぜだか、猛烈な敗北感に苛まれていた

それは、その瞬間だけでなく、つねにサエの脳裏を占拠する

悩みとなっていく…



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