Ⅵ
- RICOH RICOH
- 2024年12月10日
- 読了時間: 3分
それから数年―
柔らかな陽射しの中、聴診器を腹に当て
状態を確認する誠
「うん。順調だね。この調子だと、夏ごろかな?」
「そうだね…ありがとう、誠」
朗らかな笑顔で起き上がり、身支度を整える恵
「…晃は、相変わらず大活躍だね」
「うん。今度はまた、世界大会だって。」
「…良かったの?本当の事を彼に言わなくて」
「うん。晃はこれまで、充分すぎるくらい、私のそばに居てくれた。
本当にいつも守ってくれた。だから、彼のやりたい事の為に
必要だったなら、仕方ないんだよ。」
「………」
「だからと言って、私の晃への想いは消えたりしないよ。
物凄く、感謝してる。この子を授けてくれたしね♪」
「…恵らしいなあ。仕方ない。それじゃ、俺が
この子の父親代わりになってやるよ。任せな♪」
「ええ~、なんかイヤ(笑)」
「お~い。人の厚意は有難く受け取るもんだぜ?恵ちゃ~ん♪」
屈託のない笑顔を見せ、恵の髪をわしゃわしゃと撫でる仕草も
あの頃と何も変わらない誠だった
物事は、筋書き通りにならない
複雑怪奇に乱れ打ち、幾重にも螺旋を繰り返す
恵は晃に寄り添われ、幸せな日々を過ごしていた
だがその頃、晃の両親が不慮の事故に遭い
大学に通い続ける事も難しくなってしまった
インターハイで優勝し、いよいよ世界進出かと
周囲からも期待され、絶好調の時に襲い掛かった不幸
そんな時、舞い込んできたのが晃の見合い話だった
大学病院を経営する理事長の娘と結婚を条件に
卒業までの学費と、世界戦への出資も約束するという
なによりも驚いたのは、その相手がサエだった事だ
唖然とする周囲。
しかも、等の一件ではオドオドと俯いているばかりだったサエが
勝ち誇った表情で恵の前に立ちはだかり、これ見よがしに
晃にしな垂れかかる
恵は、緊急手術を待つ間、長椅子に座り込んで
頭を抱える晃の姿を散々見てきた
大事な両親を突然亡くし、世界戦への切符も諦めるほかない
激しく打ちひしがれる晃に、心が抉られる思いでいた
そんな中、舞い込んできた見合い話。
自分が諦めさえすれば、全てが丸く収まる
それならば、躊躇する恵ではなかった
恵を強く抱きしめながら、晃は涙を流していた
「…ごめん。恵…本当に…
俺、もうお前の傍にいてやれない。こんな俺に
お前を抱きしめる権利なんて、ないよな」
「…ううん…いいの…逆に、私の方こそ
これまで本当にありがとう。お願いだから、幸せになって?
約束だよ…」
「…大丈夫だから。お前は必ず、幸せになれるから。
これ…俺だと思って大事に持ってろ。
お前の為に、必ず活躍してみせるから…」
最後に恵の髪をポンと撫でる
そのまま、涙に濡れた目で見つめる恵の頬に手を添え…
影がひとつに重なり合う…
コメント