Ⅲ
- RICOH RICOH
- 1月2日
- 読了時間: 3分
ある一定の期間、家族よりも深く濃い時を過ごした仲間たちと
どうにも変えようがない、顧問との煩わしさ
そんな生活を繰り返していた結愛《ゆうあ》
だが時は、ある意味平等に移ろいゆく
雁字搦めのような世界は、時が過ぎれば泡沫のように消え失せ
車輪のように回転していく
彼女に至っては、天界の力もある意味、功を奏したのだろう
数年の歳月が過ぎ、大学を卒業
この春からは、町の図書館で働き始めた
寄進される蔵書を管理しながら
その町に暮らすお年寄りや小さな子どもの為に、
簡単な催し物を企画するのも結愛の担当だ
そんな時に役に立つのが、かつての仲間たちだった
返却された本をワゴンに乗せて、書棚に戻していく
「…あ、大輝」
大きな歴史書や古い地図台帳などが並べられた一角に
よく知る顔を見つけ、声をかける結愛
「……」
いつになく真剣なまなざしで背表紙を見つめる大輝は、
彼女の小さな声に気づかず、そのままその場を立ち去ってしまった
大輝の視線の先にあった書物のタイトルを確認して、
不思議そうに、彼の後ろ姿を目で追う結愛
「…あ~あ。シカトされちゃったね。」
「!!…え…」
突然、逆方向から声がして、驚いて振り返る結愛
「た…崇生っ…あんた、いつの間に…💦」
焦って挙動不審になる結愛に構わず
近くのテーブルの上に「よいしょっ」と座り込む崇生
「ちょっと…!そこ、テーブル!ってか、本当に何しに来たの?!」
「何言ってんの、今さら。俺はいつも、姉ちゃんの傍に居るでしょ。」
慌てる姉の反応を楽しむように、近くの書棚から本を取り出して
読むフリをするが、中身に興味があるわけではない
結愛には見えているので焦るが、館内にいる他の人間に
崇生の姿は見えていない
魔界の官僚魔として生きることを決めた崇生《たかお》
だが、退屈しのぎに時折こうして、人間界の姉の元へ遊びに来るのだ
何しろ、姉の隣には大輝がいる
扉の門番の役目は、あいつでいい
そう思ったからこそ…
ふと、物思いに耽るが、気を取り直し、大輝が見ていた書物を見遣る崇生
「あいつも、知りたいんだろうな。」
「…知りたいって…何を?」
「俺たちの爺ちゃんと婆ちゃんの話。
歴史に埋もれ、埋没してしまった真実を」
「……」
「姉ちゃんは?思った事ない?真相を知りたいって」
「…そりゃ…」
「(笑)恋に奥手で、堅物な姉ちゃんも、
思わず恋がしてみたい。そんな気になれるかもしれないぞ♪」
「…!…よ、余計なお世話です…////」
ニヤニヤしながら揶揄う崇生の言葉にプンスカしながら
ちょっとした冒険心が生まれた結愛
そんな姉の心を逃さず察した崇生は、改めて不敵の笑みを浮かべる
「決まり。じゃ、時間を決めて改めよう。大輝も誘ってやらないと。な♪」

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