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Ⅵ 白昼夢

  • 執筆者の写真: RICOH RICOH
    RICOH RICOH
  • 1月2日
  • 読了時間: 3分

めずらしく、早めの時間に就寝した夜


いつもなら、そろそろ寝ようかと思い始める真夜中の3時

寝ていた彼女は無理やり起こされる

深く眠る彼女は気怠そうに寝返りを打ちながら

薄目を開けて、ベッド脇にいる存在を確認する


今の世界で同じ職場にいる同僚の事務員と

前の世界で自分の上司だった人間


「…まだ、眠いよね~…ごめんね、でもほら、起きて」

「ほらほら、せっかく起きたのに、また目を閉じないの。

起きて。出かけるよ」


「…やだ…行くけど…起きるけど…なんで今なの…」


「いいから、いいから」

「特別な注文が入ったのよ。急いで行くよ」


「…眠いっての…出かけるって言っても…パジャマだし…

ノーブラだし…いいの?これで…」


手を引かれ、引きずられるように連れ出されながら

身振りを一応確認する


「うん。平気平気♪いつもと同じでしょ」

「あなたのスマイルさえあれば、いいのよ、行くよ」


「………………」





眠気に負けて、再び目を閉じたまま

2人に連れられ、車に乗り込む


遠くに行くのかと思いきや、意外にもすぐ近くの路地


「…え、近っ…ここ?」


不思議に思いながら、ウィンドウ越しに覗き込むと

そこは、普段は殺風景な壁に取り囲まれ

静まり返って何があるのか分からない

だが、真夜中のこんな時間に、煌々と明かりがついている

中は、工場になっていて、たくさんの従業員が作業にあたり

活気に溢れている


「…不定期に、数か月に一度、工場が稼働する時間にだけ

注文が入るの。…はい、これ。いつも頼まれる商品」


昔の上司に手渡され、私は納品を済ませる


「…不定期に…真夜中の3時に稼働する業者に…」


「サンプリングしちゃったんだもん。たまたま、道で出会った方に

渡したら、そういう事だと分かって…」


「そんな客、通常顧客として回せないじゃん。

誰も担当にできないでしょ。だから私ら、特別な人間が

請け負うしかないじゃない」


「そうそう。そんなサイクルだから、普段は誰にも会えないし

好きなものを買いに行く事もできないんだって。だけど

私たちの商品は、どうしても飲みたいって言ってくれるんだから」


「…それは分かるけど…なんで私?マネージャーだけ

行けば良いじゃん…わざわざ、家にまで上がり込んでさあ…」


ため息をついてシラケた目で見返す




「え?だってそりゃ、当社一のスマイルも、お届けしないとでしょ。」


一歩進むごとに、場面が変わる不思議な世界

屋内に設置された無数のレールの上を、物凄い勢いで

走り込んでくる沢山の車両


よく見ると、車両の中には、たくさんの子供に夢と希望を与えた

キャラクターやおもちゃたちが詰め込まれ、自動で回転する駅舎の中に

次々と還って行くのだ







第三章 Fin.


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