Ⅳ 魔界
- RICOH RICOH
- 2024年12月24日
- 読了時間: 9分
今日も元気にプエブロドラドの見回りを続けるダイヤ
ベンチに座り、耳にイヤホンをしながらタブレットに何やら
打ち込んでいる女性
(…新参さんかな?)
あまり見かけない顔立ちだ。
ダイヤは会釈するが、相手は気付いてもいない様子で
なんの反応も返さない
信者もいろいろだ
悪魔の世界に惚れ込み、信者となった者の中には
他者とのコミュニケーションを嫌い、自分の殻に閉じこもるタイプも
少なくない
それでも警備という立場上、自分の存在を知ってもらう必要がある
「…こんにちは。新しい方かな?私はダイヤ。よろしくね」
「……」
目の前に立つダイヤに、女性は気がつき視線を向けるが
話す声は聞こえていない。
イヤホンから流れる爆音に酔いしれているからだ。
ダイヤの挙動を不思議に思い、眉をしかめて立ち上がり、
そのまま立ち去って行った
思いっきりシカトされた状態のダイヤ
多少イラつくが、まあ、よくある事……
やるせない思いを抱えながら、仕事を続けた
その日の帰り
自然、イザマーレの屋敷に足を向けていた
リリエルに会って、愚痴を聞いてもらう
または、隣の館でソラ達に癒される
そう目論んでいたダイヤ。門扉の手前で思わず立ち竦む
大きな屋敷を見上げるように佇む女性
昼間に出くわした、あの彼女だった
(え…?なに…勝手にプエブロドラドを抜け出して……
こんなところで、なにやってんの……??)
信者の管理はダイヤの責任だ
最近ではルールも曖昧になっているものの、ここは魔界
自由に出歩いて無事に済む場所ではないのだ
その時
「あれ、お前は…どうした?」
姿を現したイザマーレが女性に声をかけた
「あ…」
「…リリエルに会いに来たのか?中に入れ。遠慮はいらない」
女性の髪をポンと撫で、屋敷に招き入れるイザマーレ
(……????……)
目を疑う光景に、呆然と佇むダイヤ
それから、プエブロドラド内でも彼女のことが話題にのぼるようになった
信者の中でも若く、初々しい彼女
最高魔軍の教典が大好きで、いつもイヤホンを耳に入れて聞いている
そんな彼女が、何故かイザマーレの屋敷に出入りを許されている
しかも、ウエスターレンやセルダまで、時折、親しく声をかけている
「ふふ…あの子、無事にお母さんに会えたのかしらね」
「そのうち、この場所の警備もあの子に…なんてね」
「そうだね。ダイヤさんより、ずっとマシじゃない?何しろ
血を分けた娘さんだもんね」
そんな噂が飛び交い、苛立ちも最高潮のダイヤの前に
現れた悪魔
「…ダイヤ様」
「は~い…あ、リナ様…」
そこに居たのは、ソラとリナ
「姉のリリがお世話になってます」
「!…えっ…姉って…あ、じゃあ…」
驚いて、いろいろ繋がりようやく理解するダイヤ
「リリは、駄目な奴です。嘘も平気で付くし
他者の信頼もすぐに失くす…そんな奴で
人間界に居た頃は、とっても苦労しました」
「へ…?そ、そんなことないじゃない?いくらなんでも…💦」
冷静沈着に語るリナに、慌ててフォローするダイヤ
「いえ。そんな事、あるんです。リリエル様も、大変苦労なさってました
よく、閣下に話を聞いてもらったって…」
「……」
どう反応するべきか判断が付きかねて、
ダイヤはひきつった表情を浮かべて固まる
「あ…リナ。」
そこへ、屋敷から戻ってきたリリ
妹の姿を見て、嬉しそうに笑う彼女
「…リリ…ずるいよ。リリエル様の御屋敷に行くなら、声かけてよ」
「(笑)ごめ~ん。だって、リリエル様に会いたいと思ったら
いつでも来ていいぞって閣下に言われたから…」
「それでもちょっとは遠慮するもんだよ?普通は💢」
「ま、まあまあ…リナったら(^-^;」
ソラがリナを宥める
(………………)
呆気にとられ、苛立ちながら、何も言い返せず愕然とするダイヤ
そこへ、ウエスターレンが姿を現した
「おーい。ちびっ子魔たち、お使いは済んだのか?」
「あ、ウエスターレン様…はい。無事、リリの確保に成功しました」
淡々と頷き、リリの服の袖をつかむリナ
「…ん?どした?」
「そろそろ人間界で、お楽しみの時間だから連れて行ってやろうと思ってな。
イザマーレにも了承を得ているし、何も心配は要らないんだが…」
(…いきなり人間界って言われても…リナだけじゃ…リリも来て。)
バツが悪そうに目を泳がせながら、小声でボソッと伝えるリナ
「(´∀`*)ウフフ…リナったら(笑)
リリ様も、気をつけて行ってらっしゃい♪」
ソラがニコニコと後押しする
「…やれやれ。あ、そうだ、ダイヤ。お前の前世はどうしてる?」
ちびっ子魔とリリのやり取りに苦笑いを浮かべていたウエスターレンは
思い出したように声をかけた
固まり続けていたダイヤだが、ハッとする
「…え。ラディアですか?…そういや、どこ行ったんだろ?」
「ラディア様?そういえば、ちょっと前にダンケルちゃまに言われたの
薔子ちゃんに変身させて、ソラと一緒に遊びに行こうって…
でもソラ、梅の木のリーちゃまと、お話がしたいから、今日はお留守番したいの」
含みを持たせたソラに、ウエスターレンは目を細める
「…理恵か。最近、器が天寿を迎えて、こっちに来たんだから
普通に過ごして構わないって何度も言ってるのにな。まあ…
何だかんだ言って、イザマーレの近くに居たいんだろ」
「だから、ラディア様はダンケルちゃまと一緒に
先に行ってるんじゃないかな…」
口元に手を当てて、ぼんやりと呟くソラ
「…なるほどな💢 長官!!私も是非、一緒に…いい…ですか?」
瞬間的にムカっときて、勢いづいたものの
最後はオドオドするダイヤ
「…駄目だと言っても聞かねーだろが。大魔王后の御意向とあれば
謹んでお受けいたします」
紫煙を燻らせながら、わざと遜った物言いで頭を下げるウエスターレン
「ち、ちょっと…💦やめてくださいよ💦💦いつもの通り
鬼上司でいてくれないと困ります💦💦」
慌てふためくダイヤを後目に、リリとリナを抱きかかえ
瞬間移動で消えるウエスターレン
「あ!!ちょっと…!!マジか💦置いて行くなー…っ」
大慌てで魔法陣を出し、消えて行くダイヤ
………………
……
…
フェス会場では、静哉と泉吹のリズム講座が行われている
時折、拓海がゲスト参加して、楽しい質疑応答の時間だ
響子と凛子は連れ立って、客席で目を輝かせている
「あ、百花さん…いらっしゃい。毎度、御贔屓にどうも♪」
1人、客を捌いていた咲音が笑顔で出迎える
「お、これが噂のランチセットか♪」
「あ、勇さん…」
光と一緒に訪れた倉橋が、いつの間にか百花の隣に立っていた
「2つください。百花、あっちで一緒に食おうぜ」
「…はい。あの、先生…聞いてみたい事が山のようにあるんですが…」
「(笑)どうぞ遠慮なく。それでお前の疑いが晴れるなら♪」
「…!…そ、そういうわけじゃ…//////」
多少ぎこちなさを残しながらも、彼らの周囲は自然と穏やかな空気に包まれる
イザムと光は互いに目配せし、フッと笑みを浮かべている
「咲音さん、お疲れ様です。大変でしょ?お手伝いしますよ♪」
「えっ…よ、よろしいのですか…💦」
微笑むリリエルに、戸惑う咲音
だが、その後ろから花も声をかける
「リリエル様、私もご一緒させてください♪咲音さん、良いかしら?」
「も、もちろんです…💦ありがとうございます、助かります…」
手元を忙しなく動かしながら、くるくると笑顔を見せる咲音
その時、目の前に現れた2つの影
「…お~!!ようやくお目見えできたな。初めまして、お嬢様♪」
「……」
全身黒ずくめの男性の横に立つ、もう一つの影に目を瞠る咲音と花
「薔子ちゃん!!」
一瞬、空気が強張り、フッと震撼したかと思うと
集団で姿を現したレンとリナ、それにリリ…
レンはすぐさま、目を細め
薔子の隣に立つ黒ずくめの男性を睨み付ける
「…おい。何故お前が、ここに居る?」
男性は素知らぬ顔で口笛を吹いている
そこへ、数刻遅れて姿を現したダイヤ
「長官!!待ってくださいよ…って、あ!!ミカエル様~(≧∇≦)」
途端に勢いづいて抱きつくダイヤ
「…ダイヤちゃん、君は相変わらずだねえ」
髪をポンポンとしながら、微笑むミカエル
「ちょっと、ラディアさん…じゃないや、薔子!!
陛下だけじゃなく、ミカエル様にまで優しくされて…どういうこと💢」
「え。ってか別に、昔住んでたアパートの近くで飲んでたら
マスターと偶然会っただけだし…大魔王の事なんか知らないけど」
頭ごなしに怒鳴りつけるダイヤに引きつりながら
シレっと言い返す薔子
「その大魔王に頼まれたんだ。薔子を人間界に連れてくるようにと。
な、薔子。」
「…//////」
呆気に取られ、固まる薔子とダイヤ
一部始終を把握し、げんなりと目配せする
イザムとレン、そして光…
(…いろんな意味で、大丈夫か?)
………………
いつの間にか日が暮れて、夜空に月が輝いている
光と融合した倉橋が織り成す朗読劇
数多の声を変幻自在に使い分け、魔界貴族のメンバーたちによるBGMが
舞台に彩りを添える
夢見心地で酔いしれる百花の脳裏に浮かび上がる、いくつもの景色
心に渦巻いていた数々の疑問符が、パズルのように鮮明な映像となり
倉橋の想いを、誰よりも深く理解していく…
涙で溢れそうになりながら、ふと、すぐ隣で佇んでいる存在に
意識を向ける
「…今日はやけに、桃色だな。倉ちゃん」
「そうですね…物凄く、甘~い雰囲気で、素敵~(*´艸`*) 」
含み笑いをするイザムと、その隣で微笑むリリエル
リリエルの隣で、花もそっと笑みを浮かべる
「勇さん…百花さんの為に、あんなにも慈愛に満ちたオーラを…」
「あら…花ちゃんったら。会長さんもでしょ♪」
「えっ…//////」
リリエルに突っ込まれ、顔を赤らめる花
後ろに振り返り、悪戯っ子のように笑うリリエル
「貴女達も、いつか、あんな素敵な出会いが訪れると良いのだけど…」
場内から感じるオーラに酔いしれながら撤収作業を進めている咲音
キッチンカーの前をふらふらと横切る影に気がつき、視線を向ける
(…あ)
開演前の楽屋口ですれ違った、あの娘だ
退屈そうにストラップをクルクルと回しながら歩いてきたかと思うと
場内の後方を陣取る悪魔なんだか人間なんだかの集団をぼんやりと眺めて
それから、倉橋の演じるステージではなく、客席を見回している
(……?…)
だが、いつの間にか、ステージで奏でられる音に魅せられ
これまでの自分の人生と、今まさ企てている行為の浅ましさに
ほんの一瞬、動きを止める
俯きかけた時、ポンと肩を叩かれ、近寄ってきた人物に目を向ける
大きめのショルダーバッグにカメラを首から下げている風貌からして
カメラマンのようだ。彼女の胸元に紙切れを挟み込み、つと、離れていく
「…」
渡されたメモを見て、彼女は一度、目を瞑る
数秒後、再び開いたその目は、先程までの虚ろなガラス玉ではなく
何かに憑依されたような異様さで、歩き出すその一歩から
ステージに向かう花道のよう
一部始終を眺めていた咲音は、はじめて漠然とした不安を抱く
常日頃から、自らに降りかかる欺瞞や穢れを、
その役になりきる事で受け流しているのだとしたら…
彼女は、虚ろな操り人形などではない
本章 Fin
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