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Ⅰ ホテルフロント

  • 執筆者の写真: RICOH RICOH
    RICOH RICOH
  • 2024年12月24日
  • 読了時間: 3分

野外音楽堂すぐ傍のシティホテル


「すみません…呼び出しをお願いします」


そう言ってメモを見せる百花


「あ、畏まりました。事前に承っております。」


フロントマンはにこやかな笑顔で丁寧にキーカードを差し出してきた。


「エレベーターは右奥になります」


「……」


壁に設けられた見取り図を見ながら、目的の部屋にたどり着く


一応、インターホンを押すが反応がない。

百花は仕方なくキーカードを差し込み、ドアを開けて中に入って行く


ザー…


バスルームから聞こえるシャワーの音


ベッドサイドにあるミニチェアに座り、窓の外を眺める百花

ふぅっと息を吐き、鞄から譜面を取り出す


……


「…お。来てたのか、百花」


濡れた髪にバスローブを纏い、冷蔵庫からペットボトルを取り出す

その間も微動だにせず、完全に譜面の世界の住人になっている様子の百花




相変わらずの百花に、倉橋はふっと笑いながら隣のベッドに座る

ほのかに漂うソープの香りに、ハッと気がつく百花


「…あ」


譜面を鞄に仕舞い、立ち上がろうとしたその時

手を掴まれ、ベッドに押し倒される


「…待ってたぞ、百花…」


微笑み、ゆっくりと口唇を合わせる


「ん…ゆ…勇さん…んん…っ//////」


恥ずかしそうに真っ赤になりながら、倉橋の首に抱きつく百花


「…百花…?」


今はフェスの真っ只中。

夜にはステージに上がる為、時間が無限にあるわけではない

キスだけで、お楽しみは本番後…

そう思っていたのだが、珍しく甘えてくる百花に戸惑い

何度も角度を変えながら深い口づけを交わし合う…


「…本当は今すぐにでもお前を抱きたいが…続きは今夜な」


「…あ、そうだ。楽屋で蓮さんに会いました。

先生が来たら知らせてほしいと頼まれました」


倉橋のぬくもりに、少し落ち着きを取り戻したのか

いつもの調子で伝える百花


「花さんに、お客様がいらっしゃって…」




「ふぅん…百花は会ったのか?」


「…はい…あ、先生、そろそろお支度を。」

少し表情を暗くして、目を逸らし、今度こそ立ち上がる百花


「…?」


蓮からの伝言…ということは、早速来たか…

そう思って尋ねたが、百花の意外な反応に首を傾げる倉橋


この時、百花を抱き寄せ、深く繋がっていれば

あるいは、百花の発する声の響きから、何かを感じ取る事も

できたかもしれない


静かなで穏やかな環境を脅かす毒蜘蛛、庵野 寛子に対し

倉橋の反応が腑に落ちない百花


(…嘘つき……)


自分と出会う前の、過去の事なら尚更、どうしようもない事だ

ただ、隠し事をされるのは嫌なのだ

倉橋の中で、自分がちっぽけな存在なのだと

言われているような気がして……


倉橋と光、イザマーレの秘密の関係を知らずにいる百花

倉橋がリリエルに対し抱く特別な感情を、寛子へのそれと思い込み

感情を揺さぶられる


このところ、譜面のインプットも思うように進まない


一瞬の憂いは隅に追いやり、鞄を手に振り返る


「先生。準備はよろしいですか。そろそろ行きましょう…」





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