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ルディ

  • 執筆者の写真: RICOH RICOH
    RICOH RICOH
  • 2月17日
  • 読了時間: 5分

悪魔との戦いに敗れ、身内である神にも裏切られ


追われるように堕天して、この場所に降り立ち


今はただの人間として生きている




追放したくせに、神はルディの立場を利用して


敵方の情報を報告させたり、相手の行動を監視させる


なにか揉め事が起きれば末端に罪を被らせるための


都合良いスパイ、その程度の扱いなのだ




無責任極まる天界のやり方に辟易しつつ


強く抗うことも出来ない自分が歯がゆく、苛立つ




この長い廊下を歩きながら、手に抱えた物体の重みに


さらにため息をつく




数日前、新たな生贄候補として集められた


少女たちの出自を纏めたリストだった




幾年の闘いが続く最中に、最高幹部が行方を眩ませた事で


終結させることもできず世界は混迷を極めている




元々、戦闘能力が皆無に等しく、戦闘員が激減する中


その癖、裏でネゴシエーションする政治力だけは衰える事のない彼らが


見出した最後の手段は、悪魔が人間との契約で取り決めた生餌の中に


天界の血を紛れ込ませるという…




なんとも姑息なものだった




ようやく母屋に辿り着き、扉を叩く




………………




し~ん…と静まり返ったまま、何の反応もない




「…やられた…てか、またか💢」




ここまでやって来た労力が報われず、ルディは苛立ちながら


なお未練がましく様子を窺う




事前に通達を出して、その時間に合わせ訪問しているにも関わらず


意中の相手が出迎えた事は一度もない




(…どうしてくれんのよ…これ…💦)




何の成果も上げられないルディに、謀略を企てる天界からの評価は


下がりっぱなしだし、里町で待機する少女たちからは、殊更


嫌味ったらしく揶揄される




「ちょっと…ルディさん、きちんとお仕事してくれません?」


「そうよね…毎度毎度、留守だった、なんて…怪しいわ」


「そう言って私たちの目を誤魔化して、本当はご自分だけ


甘い汁を吸おうって魂胆じゃないでしょうね?」




その都度、丁寧に説明を織り交ぜながら、ルディは謝り続ける




だが同時に、心の中はいつも暴風雨だ




(…ふんっ どうせあんたらじゃ、会っても相手にされないわよ)




ルディが心の奥で暴言を吐いた途端、


それまで散々嫌味を言いまくっていた女たちの周囲を


男衆が取り囲む




彼らは主に、里町の治安維持を務める警備員だが


実体は天使が入り込んでいて、管轄内の世論を煽動し


従わない者は公権を振りかざして処罰する




処罰と言えば、まだ聞こえは良い





取り囲まれた女たちは、たちまち彼らの餌食になり


好き放題、食い散らかされるのだ




やがて快楽に溺れ、狂い出す女たち


そして、次の機会を虎視眈々と狙う手駒に成り果てるのだ




ルディはそんな酒池肉林な宴には全く無関心で


相変わらず、天界への報告に頭を悩ませながら


アジトへ戻っていく




敷地との境界線




祠の上に寝そべる存在に気がついた




(あ…あんな所にいる…)




約束をいとも簡単に反故にされた相手だった




やや着崩した袷から、胸元がはだけてる




(それにしても、気持ち良さそうに居眠りして…


こっちの気も知らないで…💢💢)




思わず見とれながらも、次第にムカムカして


声を掛けようか、躊躇っていた




そこへ、里町の住職に命じられてお使い物に出ていた


少女が戻ってきた




祠の上に横たわる悪魔に気づいて


あんぐりと口を開けて、目を見開いている




(…あの子…何やってんの、危ないわ💦)




ルディは焦り、反射的に駆け寄ろうとした




だが.何か言葉を交わした後、祠からスっと降り立ち


少女の目の前に屈み込む悪魔




少女の髪をそっと撫でて、微笑んでみせた




少女を見つめる悪魔の優しい眼差しに、ルディは足がすくみ


手前の柱の影に身を隠して、見続けるしかなかった




ルディの魂に刷り込まれた記憶の中に眠る


何かが呼び覚まされる




あんなに慈愛に満ちたまなざしを、遠い昔に見た記憶があるのだ




柔らかいオーラと、同時に胸に迫る切ない動悸


永遠に続くと信じて疑わなかった、白一色の眩い世界……





短い黒髪を撫でられ、優しく微笑みかけられている少女を


ルディは妬ましそうに見つめていた





翌日




里町に新たな少女が入村した。


ただでさえ約束を反故にされ、順番待ちで大渋滞だというのに


世の中は貧しく、身売りして僅かな銭を得たい


そんな憐れな子羊は後を絶たない




面接を行うルディの前に座るのは


ルックスが良く、綺麗な髪をふんわりとカールさせて


いかにも勝負に挑むような目つきだ




だが、向かい合うルディと目を合わせた途端


その視線は凄みを増す





その日、ルディは館から少し離れた、とある場所にいた




何の疑いも持たず、信じきっている相手に裏切られた事を知り


傷心に打ちひしがれているに違いない、あの少女を探しに…




思ったとおり、彼女は草叢にしゃがんで、俯いていた


初めて会ったあの時から少し時が経ち、まだ大人になりきれない


あどけなさを残しつつ、袖口から覗く二の腕に


花のような色香を感じる




(…ほらね、悪魔なんて信じるからいけないのよ…)




ひとり、ため息がちに呟いて、歩み寄ろうとした




だが、ルディが近づくよりも早く、彼女は何かを見つけた


随分前から草叢に横たわっていた悪魔に


慌てて駆け寄る少女




真っ赤に染まる少女の頬に触れ、その腕で抱きしめる悪魔


呆然と佇むルディの目の前で、ゆっくりと口唇を重ねる…




身動きも出来ず、立ち尽くしているのは


彼らがあまりにも美しく、綺麗だからだ




(あなた達みたいなのがいるから…////)




かつて自分は、無償の愛の力によって、大事な存在を喪った


理屈を並べて諭しても、愛し合う彼らの前に、成す術もなかった


挙句の果てに、捕まえようとする手を振りほどき、突き飛ばされ


粉々に打ち砕かれた隙に、走り去ってしまった




だけど…




あなたたちの血を分けた、大事な置き土産は


健やかに生きている




ルディは、弱々しい笑みを浮かべ、力なくその場を立ち去る



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