Ⅳ 光と影
- RICOH RICOH
- 2024年12月25日
- 読了時間: 5分
更新日:1月1日
大学病院と直結してる本館の事務室で、
次の公開講座の申込と学費の納入手続をしている百花《ももか》
そこへ、山岡 晃《あきら》が現れた
クリニックの問診票と費用精算など諸々の手続のためだ
山岡にとっては数多いる学生のひとりに過ぎない百花は
ほんの少し会釈をして、書類に記入を続ける
「…倉橋は、元気にしてるかな?」
「え…!…は、はい…」
予想に反して話しかけてきた山岡に面食らいながら、慌てて返事をすると
山岡はニヤッとほくそ笑む
「元々、倉橋と私の二人体制なんだ。前期は彼、そして
後期は私の担当。この春に、貴女が受講を始めてからの事を
彼からよ~く聞かされてるよ(笑)」
「…//////」
恥ずかしくて真っ赤になりながら、固まる百花
その時、エントランスに停まった車から、一人の女性が降りてきた
サングラスをかけ、脇目も振らずに窓口に向かってくる
振り向いた百花は、ほんの少し表情を変える
(えっ…もしかして、宇月メアリ…?)
ほんの少し前まで、ドラマ収録の為にスタジオで亮と一緒に居た彼女が
こんな町の大学病院まで…?
いや、偶然かもしれないし、人違いかもしれないけど…
仕事とプライベートの切替えは人それぞれだ
オンモードを全て消してもなお、余りあるオーラを解き放つ
亮のようなタイプもいれば、オフは完全にオーラを消し去る
碧生《あおい》のようなタイプもいる
だが、目の前に現れた彼女は、スタジオ内に居た時よりも
むしろ強いオーラを纏い、周囲の目を惹きつける
「…宇月ユキの今月の医療費をお支払いに来ました」
驚いて言葉を失う百花の前で、受付に告げるメアリ
受付の職員は表情ひとつ変える事なく、デスクのボタンを押す
内部に繋がるガラス扉のオートロックが解除され、メアリは会釈すると
中に進んでいく
事務室の最上階に存在するのは、理事長室…
エレベーターを降りて、一番奥の部屋に向かう
ノックをして扉を開ける
「中に入りなさい」
「……」
返事もせず、応接用のソファーに向かうと
ハンドバッグを置いて、着ていた服を一枚ずつ脱いでいく
目の前には、微動だにせず、メアリの一挙手一投足を凝視する白髪の老人
「…下着も全て、脱ぐんだ。準備が出来たら、こちらに来なさい」
歯向かう事もなく、淡々と応じるメアリ
「…さあ。私の上に跨りなさい」
言われるがまま、逆らいもせず応じるメアリに
心の底から侮蔑した表情を浮かべ、頬を歪めてニヤつく老人
刹那
彼女の肌をいやらしく舐め回し、思うが儘に蹂躙し続ける
真昼間の理事長室で、狂気の情事……
「……」
全ての事を終え、気怠く横たわるメアリ
早々に仕度を整えた理事長が、デスクの上にあるPCに
手早く入力し、マウスをクリックする
「…ご苦労さん。お姉さんの費用は、私が立て替えた。
ネットニュースで君の事を見たよ。女優デビュー、おめでとう。」
「…」
本来なら、礼のひとつでも言うべきだろうが
それすら億劫で黙り込むメアリに
先程とは異なり、異物でも見るような目で理事長は告げる
「さっさと出て行きたまえ。誰かに知られたら、君も困るだろ?」
苦笑いを浮かべ、仕度を済ませるメアリ
早々に礼をして、部屋を後にし、エレベーターに乗り込む
艶々に磨かれたタイルに自身の顔が映る
(……汚い……)
いつもなら、こんな感情を抱く事もなかった
だが最近になって、自身の汚らわしさに目を背けたくなるのだ
あの金髪王子、亮に出会ってから…
夕闇の高速道路
一定の速度で進んでいくタクシー
遮光フィルムが貼ってある後部座席は、夕闇の帳に溶けて
なおいっそう、秘密の逢瀬が続いている
今夜だけは特別に…
亮の依頼を快諾した運転手は、穏やかな表情のままだ
都内を抜けて数時間
やがて車は浜辺にたどり着く
磯の香り、夕日が沈むと星屑の夜空が味わえる
知る人ぞ知る秘湯
服を脱いで恥ずかしそうに俯く咲音の手をとり
優しくエスコートする亮…
都内からタクシーの跡をつけていた黒塗りの車が
停まらぬ車体をどこまでも追いかけていく
混浴でゆったりと温まった2人は、近くの民宿に寄った
和室の畳にほっとする
窓を開けると、波の音が聞こえてくる
「素敵…//////亮さん、ありがとう…」
さっきから惚けた顔を浮かべる咲音を亮が背後から抱きしめる
「気に入ってもらえたか?」
「でも…こんなところ、誰かに見られたら…あ…っ//////」
「ん?ダメ…?それなら俺が隠せばいい…?」
胸をまさぐり、先程付けたばかりの赤い刻印に、口唇を押し当てる
「そ…そういうことじゃ…んんっ…//////」
戸惑いながら甘い吐息が漏れる咲音の口唇を塞ぎながら
服を一枚ずつ脱がしていく…
「…心配するな。お前の女の顔も、熟れた肌も
全部、俺だけのものだ…誰にも譲らない…」
「亮さん…//////」
涙に濡れる咲音に微笑み、優しく口唇を重ね
肌の隅々まで舌を這わせ、愛撫を深めていく……
潮騒を遠くに感じながら、幾度も押し寄せる波に
何度も絶頂を繰り返し、いつしか満開の花を咲かせていく……
………………
……
………………
……
走り続けたタクシーがパーキングエリアに停まっている
運転手が車体を降りて、建物の中に入って行く
黒塗りの車から、すかさず黒い影が降り立ち
タクシーに近づいてフロントガラスを覗き込む
「…!…な…なに…?」
もぬけの殻の車内に、愕然とする影
怒りまかせにタイヤを蹴り付ける
「…やられたっ…畜生…っ」
自販機で買った煙草をポケットにしまい
フッと笑みを浮かべるタクシー運転手
(ご苦労なこって♪…)
その髪に座る女性がこっそりと囁く
(長官へのお土産ですね…(´∀`*)ウフフ…)
民宿の一室で重なり合う二つの影
波の音も、周りの喧騒も、夜の帳に遮られ
闇夜に溶け合う2人には、もう何も聞こえない
お互いの息遣いと熱いぬくもりだけ……
第5章 完結
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