Ⅰ 女優と毒蜘蛛
- RICOH RICOH
- 2024年12月24日
- 読了時間: 3分
毒蜘蛛の怨嗟―
さとえの死をきっかけに倉橋を思い出し
難癖つけて金儲けしようと近づいた。
その周囲の人間関係に興味はないが
好調な光プロダクションに目を付け
新たな金づるにしようと画策している。
実は、かつて副大魔王の地位を狙い
敢え無く失墜した亡霊が入り込み、
前世イザマーレとAnye、さらには現イザマーレとリリエルに
潜在的に恨みを持っている
何をしても、誰からも認められない、褒められる事のない人生
それを卑下する事もなく、むしろ高慢に誇り高く生きている
だが、どうかすると心の隙間に無造作に入り込んでくる
何かに怯え、苛立つのだ
それが何なのか、正体すら掴めずにいる
打算ではなく、互いを想い、寄り添う彼らが解き放つ
眩しくて、穏やかなオーラ
儚げなのに、たおやかで、決して自分に平伏す事のない
絶対的な壁…
思い通りの自由を手にするために
ある意味、全てのことを犠牲にしている寛子
実際、殆どの事柄は寛子の手中にある
最後の最後で、どんでん返しを食らう事だけは許せない
かつての忸怩たる記憶に捕われ、
なお一層苛立ちを増していく
女優 宇月《うづき》 メアリ
彼女には父親と姉がいた
生まれつき身体の弱い姉のために、
他人の嫌がる仕事でも馬車馬のように働き
医療費の工面をする父親のために
身体を売りながら、仕送りを続ける
だが、いくら自分が明るく振る舞い、励ましても
姉の容体は一進一退。
痛みや辛さを我慢できず
懸命に働く父親にも激しく当たり散らすのだ
そんな我儘三昧の姉に正直ウンザリしていた
パトロンの一人から噂を聞きつけた毒蜘蛛、庵野 寛子の検索網に
引っかかり、さっそく声をかけられた
生まれつき器量が良いのか、汚れた服を着替えさせ
豪華な食事を与えただけで、何の疑問も抱かずに
寛子の思うままに動く道具に変貌を遂げていた
すぐに嫌気がさし、逃げ出した倉橋に比べ
彼女は何でも喜んで受け入れた
自らを差し出す、途方もない時間は
闇夜に孤独に降り立つステージにすぎない
ステージ上の夢物語だと思えば、どんな事でも乗り越えられた
今宵も、柔肌を縦横無尽にナメクジのように這いまわり
足を割って侵入してくる、どこの誰だか知らない相手は
そんな彼女の演技に魅了され続ける
だがふと、数時間前の光景が脳裏をよぎる
そして、昼間に挨拶回りした時の、儀礼的な仕草を思い出す
(…そうよ、今夜は…)
瞳を閉じれば、目の前にいるのは汚らわしい獣ではなく
眩い金髪王子
耳を澄ませば聞こえてくる、倉橋の魅惑の声…
………
壁越しに響く、メアリの喘ぎ声
庵野 寛子は相変わらず、退屈そうに異音を撒き散らしながら
スマホを持ち上げては放り出す
しばらくして、異様な声も止み、寛子の前に姿を見せる影
大手広告会社の代表という肩書きでありながら
地味で貧相な顔立ちの男
眼光だけは鋭く、睨みつけながら口元を歪ませる表情は
爬虫類を思わせる
「…随分と、お楽しみだったようね。」
特に何の感慨もなく、グラスを傾けながら
数枚の写真を差し出す
「…ドラマは視聴率がすべて。成功を願っているわ🎶」
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