Ⅲ 王子の誘い
- RICOH RICOH
- 2024年12月24日
- 読了時間: 3分
ガラッとドアが開き、白髪の老医師が姿を現した
「…ようやく帰ったか…お。これはこれは…咲音ちゃんか。
暫く見ない間に、綺麗になったなあ…」
「小倉先生、御無沙汰しております♪」
「…院長。またしても、狸寝入りですか」
にこやかに会釈する咲音の横で
やれやれとため息交じりの晃
「雪姫の我が儘にも困ったもんだな。儂が相手だと
端から相手にされないと分かっているんだろ。仮病を使う前に
お前を御指名だったんだから、仕方なかろう♪」
「…ここは、ホストクラブですか」
すっかり呆れ顔の晃
「しかし…それだけの理由でも診察費用はかかる。
その費用を捻出しているのは、妹だ。おやっさんは、最近はすっかり
身体を弱めてしまったらしくてな」
咲音の淹れたお茶を美味そうにすすりながら
小倉は渋い顔を浮かべる
「あ、いや。ホンモノのお姫様を前に、下世話な内容ですまなかったね。
今日はもういいから、晃先生。」
「咲音。お父さんは本館に寄ってから研究室に戻るよ。お前はどうする?」
「お構いなく。私も失礼するわ。」
スマホを取り出し、時間を確認する咲音
「おや。ひょっとして…デートか?
晃先生。こりゃ、ウカウカしてられないね♪」
ニヤッと笑う小倉に、咲音は真っ赤になって俯く
「…ち、違いますよ、もう…💦」
慌てて訂正しながら、プンスカする咲音だが、ふと思いを馳せる
…そういえば、デートって…
亮のマンションで逢瀬を続けているものの、どこかに出かけた事など
一度もない…仕方ないけどね…
自分の置かれた状況に苦笑いを浮かべながら、クリニックを後にする
そこへ、スマホの通知音が鳴る
『まもなく、王子様をお届けに参ります。
今、どちらにいらっしゃいますか?百花』
クスッと笑みを浮かべ返信すると、すかさず通知音が鳴る
『あと数分で到着見込みです。
駅前の広場でお待ちくださいませ。百花』
(…えっ?)
思わず足を止め、百花からのメッセージに驚くが
とりあえず指示通り、駅まで急ぎ戻って行く咲音
すると、駅前の噴水広場に停車してある黒塗りのタクシーが
咲音の前に滑るように近づき、中から百花が降りてきた。
「驚かせてごめんなさい。実は今日、大学に行く用事があって
途中まで同乗させてもらったんです。ちょうど今頃、咲音さんも
この近所にいらしてるはずだと、亮さんから…(*´艸`*)」
「百花さん、お仕事お疲れさまでした♪大学って…父の?」
「亮さんに聞いて驚きました。まさか、咲音さんが
山岡先生のお嬢さんだったなんて…」
百花の言葉に、咲音はさらに目を丸くする
「そうだったんですね!!百花さん、まさかリケジョ?」
「あ、ううん。本館の方。スポーツ医学部の方ね。
実は、倉橋先生からの推薦だったの。」
「へえー!!…やっぱり、歌の基本は体ですものね」
妙に納得しながら深いため息をつく咲音
「というわけで、お邪魔虫はここで消えます♪
運転手さん、王子様とお姫様を丁重に送って差し上げてね。」
「畏まりました」
常連の運転手は柔和な笑みを浮かべ、穏やかに返答する
後部座席に乗り込むと、アイマスクをしている亮が
咲音の肩を抱き寄せる
「…亮さん…//////」
後部の窓ガラスは黒フィルムが貼られており、一定のプライバシーが守られる
運転手は、2人の事情をよく理解していて、義理堅く
外部に漏れる心配は皆無といって良い
「ちょっとの時間だが、マンションで待ち合わせるより
デートっぽくて良いだろ?」
「……//////」
思いがけない亮の言葉に、咲音は幸せそうに微笑む
「…それじゃ、出してくれ」
「はい」
亮の指示に運転手が短く応え、車が滑り出す…
遮光フィルムの貼ってある車内は、外から窺い知れないが
車内にいると外の景色も忘れがちになる
亮たちの乗ったタクシーと、反対方向に進む車
その車に乗っている人物の事など、気づく事もなく…
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