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Ⅳ 六角星

  • 執筆者の写真: RICOH RICOH
    RICOH RICOH
  • 1月2日
  • 読了時間: 12分

更新日:1月18日


クリスタルの壁で覆われた三角体。理想の世界…


永遠に続くと信じていた、2人だけのしあわせな空間


合わせ鏡に引き寄せられ、運命の歯車が回り出す………………


光の大悪魔は、美しい花のために夢を与え、愛をささやき

運命を共にした炎の悪魔は、夫婦の為に竪琴を奏でる


花の乙女、由奈が眠りにつく間

クリスタルの扉の外で、夢幻の愛を育むマーリとキーユ


繭で包まれたような、白の世界で

薄っすらと目をひらく由奈


マーリが創り出した、優しい鎖で縛られた自分の境遇も

すべて初めから、分かっていた


だが、いつの頃からか、苦悩に苛まれるようになっていた


目覚めはいつも、靄がかかり、気怠さの中で忘れてしまう

そして、マーリのぬくもりに包まれて、僅かな杞憂も消えてしまう


大悪魔の愛する可憐な花が、美しいだけの人形ならば

楽園はいつまでも光を失わなずに済んだかもしれない


だが残念なことに、生まれ持った優れた情報処理能力で

真実に辿り着いてしまう


物語には、すべて始まりがある

発端となった事柄は、必ず過去から続く因縁………………


心から愛する大悪魔、マーリと強靭な絆を誇るキーユ

彼らの絆に綻びを与えた元凶………





彼の地で、身を挺してかばい、そのせいで

変わり果てた姿となったキーユ…


そして、キーユを放置したまま、天使たちに連れ去られ

強烈な光一色のクリスタルの壁に幽閉された、あの女性…


実は、天界の中で、かなり高位の称号を持つ女神だった


他の神々のように世界を統治するといった退屈なことには

何の興味もなく、全知全能の神ゼウスとは敵対する間柄だったが

知性に溢れ、生まれながらの美貌で周囲を虜にする彼女は

宮廷のシンボルとして人気も高かった


ゼウスは、彼の地の優位奪還を狙うには、マーリとキーユ

この悪魔たちの固い絆を引き裂くことが必至と考え

ユナに毒薬を飲ませて気を失わせ、地上に送り込んだ


人間の姿に変貌を遂げたユナは、期待を裏切らず

華やかなオーラで男心を擽る絶世の美女となる

その姿を目にした途端、天使たちは我を忘れ、残虐な行為を繰り返した

神の名のもとに……


そこに、駆けつけたのがキーユだ


そして、神によるその後の非業な仕打ち…


ユナは、あまりの惨劇を目前にして、自我に目覚めるが

茫然自失となったまま、天界の一室に幽閉された


そして、壁に飾られた鏡に彼の地を映し出し

マーリとキーユのその後を見続けていた


キーユを覚醒させたマーリの涙…その無償の愛に

猛烈な痛みを感じるユナ




怒り狂い、周囲の壁を叩き壊し

遂には女神の象徴とも言える天の輪を投げつけ

鏡を叩き割る


瞬く間に時空が歪み、吸い込まれるように堕ちていく…


……気づくと、リクルートスーツを着こなし

研修を受ける小原由奈に……



……!!!……


弟の魔術で、大輝と共に再び訪れていた不可思議な世界で

結愛の脳裏に大きな思念が湧き上がる


蒼白となり、ガタガタと震え出す結愛


取り乱して目の前の扉を蹴破り、飛び出して行こうとした


「姉ちゃん!!!」


崇生にガシッと腕を掴まれる


「ダメだよ、姉ちゃん!何処に行くの!!!」


「分かったよ…崇生…これは過去の話なんかじゃない

私自身の罪…そうでしょ?」


震えたまま言葉を絞り出し、振り返って愕然とする


「…っ どうして…そんな姿なの?

どうしてそんな……幼子の姿で……」


「結愛?」




彼女の異変に大輝が眉をしかめて呼びかける

大輝に視線を向けた結愛は、さらに愕然と震え出す


「キーユ…わ…私は…貴方に優しくされるような

そんな資格なんて、最初から……っ」


「…姉ちゃん!違うったら!そうじゃない。

頼むから行かないでくれよ、この空間が壊れたら…っ

全てが………っ」


腕を掴む指先の力に、切羽詰まった崇生の言葉に

結愛はハッと我に返り、その瞬間、

全ての想念が脳裏を駆け抜けていくのを感じた


…まさか………


愕然としながら振り返る

そこに居たのは…


「…本当は、我々が目を離した隙に、駆け出していくお前を

すぐにでも追いかけて行きたかった…」


崇生を器として入り込んだマーリの想念が語り出す


「…1度目は、どうにか間に合った。だが2度目は

この空間を守るため、強力な結界で覆う必要があった。

キーユはすぐにお前を追ったが、私は…遅れてしまったのだ」


「…!」


「そのせいで、今生では生まれる順番を違えてしまった

だが、それでも良いと思った。キーユが命を賭けて護ったユナ

お前の元に、キーユが居るならば…」


「…! それってもしかして、大輝のこと…?」


一瞬、結愛自身の意識が戻り、ぼんやりと呟く




「姉ちゃん!」


マーリの強力な魔力に抗い、意識下にいる崇生が叫ぶ


「じいちゃん、頼むよ。待ってくれ!

姉ちゃん!行っちゃダメだよ、絶対!!

姉ちゃんはユナじゃない。結愛《ゆうあ》じゃないか!!

居なくなったら…母ちゃんが泣くよ?父ちゃんも……激おこだよ!?」


「…崇生…だけど…」


弟の必死な呼び掛けに、結愛は涙を浮かべる

零れ落ちた結愛の涙が結晶となり、崇生から抜け出した悪魔が

姿を顕現させる


「…貴方様は…おじいさま…?」


目を瞠り、問いかける結愛に、穏やかな表情で微笑み返すマーリ


「…君たちは、私たちの孫だね。当然、君たちには、何の罪もない。

君たちの両親にも…勿論、由奈にも、キーユにも…

だからこそ、存在を無にされ、ただ消滅するのを許す事はできない

お前たちの幸せを守る。それが私に課せられた責務だ。

我々がここを立ち去れば、今ある地上の世界は崩れてしまう」


重みのあるマーリの言葉を、全身で受け止めながら

迷いが生じる結愛


崇生は改めて結愛の腕を取り、捲し立てる


「そうだよ、姉ちゃん!これからも大輝と一緒に

麻婆豆腐を食べたいでしょ?」


「……でもっ でもさ…」


迷いながらも、結愛自身に湧き上がる想いは留まらない




「こんなのって、悲しすぎるよ。誰一人、悪くないのに

お婆様も、こんな壁に閉じ込められて…私は辛かったよ?

高柳にずっと意味の分からないイチャモンをつけられて…

なぜ、あんな奴らが威張ってるのよ。

それこそ、大罪に匹敵するんじゃない?」


「お願いだから、無実の罪の意識に支配されないで!

俺、皆の事を守るためなら、婆ちゃんに夢をプレゼントするくらい

どうってことないんだから!」


弟のあまりの剣幕に戸惑う結愛の脳裏から、ある想念が抜け出す


「…ごめんなさい。あなた達の世界をこれ以上

邪魔するわけにはいかないわね…」


「!…由奈…」

「…ば、婆ちゃん…」


マーリと崇生が同時に呟く


無数の綿毛がふんわりと舞い上がり、そのオーラの中に

女性の姿が浮かび上がる


女性はマーリを見つめて、静かに微笑む


「…やはり、貴方が呼んでくださるのは、由奈という

人間女性の名前なのね。当たり前よね。由奈が愛したのは、信人。

そして信人が愛してくれたのは、由奈だもの…

信人の中に居る、マーリ様が愛しているのは、キーユ様だけ…

そうでしょ?」


「…そうだな…だからこそ、お前には何の罪もない。

キーユの事も、お前には何の責任もないのだ。私にとって、そんな事は

とるに足らない事だ。ユナだろうと、由奈だろうと…」


マーリの意識下で信人が女性を引き寄せ、抱きしめる




「お前という存在は、ただひとつ。そうだろ?」


マーリの言葉に涙が込み上げるユナ


「私も…私もね、ずっと幸せだった。信人、貴方の愛に包まれて…

出来る事ならこの先も、永くお傍に居られたら…マーリ様は

そんな私の我儘を、聞き入れてくださっただけ…」


「…それで良いではないか。何故お前が退く必要がある?」


「でも…でもね…誰にも罪がないというなら…マーリ様。

貴方様のような御方が、なぜこんな花園で泡沫のような

危うい存在に甘んじていなければならないの?」


「!!」


女性の言葉に初めて動揺し、視線を逸らすマーリ


「私が彼の地に降りたのは、

マーリ様…貴方様の御心をお慰めする為…

でも、私ひとりの為に、貴方様を縛り付けてしまっては

申し訳なさ過ぎます。

貴方様はこのような場所で、燻っていてはいけません。

宇宙の為に…この世界の行く末の為に…

その御力を思う存分、鼓舞してくださらなければ…」


「…そうだな。その通りだ」


「!…キーユ…」


女性に同意を示す言葉に、振り返ったマーリは更に驚く


「マーリを雁字搦めに陥れたのは、俺にも責任がある。

お前を愛でる喜びを、こんな限られた空間でしか

味わえないのは口惜しい」


「なっ…//////」


抱き寄せて髪を撫でながら語って聞かせるキーユに

顔を真っ赤にさせて動揺するマーリ




2魔のやりとりを、誠に微笑ましく思いながら

ユナは改めて向き合う


「マーリ様とキーユ様…全宇宙を司るに相応しい御二方が

なぜ、このような場所に…ひょっとしたら、それこそが

天界の仕掛けた罠かもしれないのです」


「…!…」


刹那、風塵が舞い上がる

砂埃に目を眩ませた隙に、真綿のオーラの中から解き放たれた

女神ユナが正体を表す


「“由奈”という名は、返上するお約束だったのに…

ずっとお借りしたままで…

それでも聖さまは、あの娘をお救いくださった。

それだけでなく…」


結愛と崇生を順番に見つめ、慈しむように微笑む


「こんな可愛らしい孫たちとも、巡り合えた…」


「…婆ちゃん」「おばあさま…」

同時に呟きながら、涙が止まらない2人


「そう…あの夢列車を走らせてくれたのは、あなただったのね?」


崇生の頭を撫でて、決意を固めたユナはマーリを見つめる


「私の罪を御赦しになり、また、この世界を維持したいのならば

守られるのは、由奈だけで良い。私は、私自身の真実に

落とし前をつける為、行かなければならないの」


「…止めても無駄なようだな」


「…ごめんなさい。でも、どうしても…

気になった事は、自分の目で確かめなければ納得できないの…」


「…………」




小原由奈と出会った頃の記憶がよみがえり

湧き上がる想いを堪え、強く抱きしめるマーリ


何度も愛されたマーリのぬくもり…

後ろ髪を断ち切るように身体を離す


「…お別れです。マーリ様…そして、キーユ様も…

今度会う時は、敵同士かもしれません。でも…」


涙を堪え、とびっきりの笑顔で見つめ返すユナ


「見つけてください。名は変わっても、きっとまた出会える。

聖さまの言葉が真実ならば…」


突如、亀裂が走り、時空の狭間に消え去った


ユナの言動に圧倒され、あっという間の出来事に

マーリは密かに拳を握りしめ、別離の哀しさに耐えていた


「…おのれ…黙って聞いておれば、言いたい放題…

私に弁解のひとつもさせないまま…そうではないか?

なあ…キーユ?」


「…やれやれ。こんな事では、我慢ならない。そうだよな?マーリ」


こうなる事と、分かっていたかのように、満更でもない表情で

マーリに寄り添いながら、次なる予感に鋭い視線を向けるキーユ


様子が著しく変わり、荒ぶるマーリの姿に

呆気に取られる結愛と崇生




この間、ずっと後ろに控えていた大輝が、

結愛の肩をポンと撫でながら、ため息を付く


「俺がおじい様から言われていたのは、この事だったんだよ。

おじい様の一番の宝、マーリ様がもう一度、世界に君臨するために

力を貸せと、夜な夜な告げてくるんだから…」


「…そ、そうだったんだ💦」


引きつって固まる結愛


突如、ワナワナと溜め込んだ魔力を全開に放出させ

高笑いをするマーリ


「グワハハハハ…あの、じゃじゃ馬め。

かくれんぼより、追いかけっこを望むというなら

応じてやるまでよ…吾輩の想いの強さを思い知るが良い。

必ず、捕まえて見せようぞ♪」


「お…おじい様…💦」


タジタジになる結愛に、振り返るマーリ


「おっと…そうであったな。

お前たちの世界「も」守らねばならんな。

大丈夫だ。見ろ…」


マーリが指さす方向に、視線を向けると


三角体のクリスタルの壁に覆われた空間の中で、信人に寄り添い

微笑む由奈。2人の傍で、竪琴を奏でる清…


「これで、お前たちの生活は、半永久的に守られる。

結愛。お前はこれからも、大輝と一緒に麻婆豆腐を好きなだけ

食べられるぞ」




「…//////」


マーリの言葉に心底ホッとして、何度も頷く結愛


「じいちゃん…行くの?」


結愛の横で、真剣なまなざしで尋ねる崇生


「…崇生。吾輩はお前の爺ちゃんではない。大魔王マーリだ。

お前は今、次期魔王となる為の修行の身だったな」


「…!…うん。」


「それならば、自覚を持て。返事は「はい」だ。」


「…はい、マーリ閣下…」


「よし。崇生。時期魔王となる皇太子よ。お前に最初の命題を与える。

信人と由奈、それからお前たちの世界すべてを守りつつ、吾輩の鎖を

断ち切る為には力が要る。それも、強大な…案ずるな。お前の力ならば十分だ」


崇生の手を取り、その目を見据える


「崇生。跪け」


言われるがまま、従った、次の瞬間

崇生の手に衝撃が走り、「ウッ」とうめき声をあげる


驚いた大輝は、すぐさま駆け寄り、崇生を支える



「案ずるな。崇生の体内に楔を打ち込んだだけだ。

痛みはすぐに消える」


大輝を後目に、これまで見た事もない真剣なまなざしで口を開く




「厳命を下す。吾輩とお前の力によって、二重の次元を作り出す。

そして、吾輩の旅立ちを見届けた後、六角体の星となるこの空間を

お前の力で守るのだ。」


「御意!必ず、守り通して見せます。」


頭を下げて拝命する崇生に、先程よりは柔和な顔つきに戻り

付け加えるマーリ


「お前一魔だけで背負い込む必要はないのだぞ?

お前には、仲間も大勢いるようだしな。時には皆の力も借りて

あいつらの笑顔を守ってやれ」


「…はいっ…ありがとう…じいちゃん…」


力強く返事をしながら、目にいっぱい涙を浮かべて

しゃくり上げる崇生


「…だから…じいちゃんではないと言うのに…💢

…今だけ。特別だぞ…?」


苦笑いを浮かべながら崇生を抱きしめ、頭を撫でてやるマーリ


やがて…


三角体のクリスタルが二重に浮かび、中心線を軸に

ゆっくりと回転し、六角体の星に変化する


その狭間に、赤と黄金の光がものすごい勢いで

闇夜に放物線を描きながら宇宙の彼方に飛び去って行く…





「行ってらっしゃい。マーリ様…キーユ様…

きっといつか…戻って来るよね…そのために

俺と約束してくれたんだ…」


クリスタルの壁越しに、変わらぬ笑顔で寄り添う祖父母の姿

決意を新たにする崇生の手に、刻印された最高魔の紋章が煌めく


「…よぉ~し。そろそろ戻るか。」


「やっべえ!あんまり遅いって、母ちゃんに叱られるぞ💦」


「結愛♪麻婆豆腐は、また今度な」


「ほんと!?やったああ☆彡 じゃ、崇生。急いで帰ろ♪

大輝、今日は本当にありがとう…」


大輝の提案に大喜びで、崇生と共に帰って行く結愛…




Fin.


物凄い勢いで旅立って行った彼ら…

いつかどこかで、また出会える日が来るかも…?





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丸太小屋の階段を降りると辿り着く桜の木
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