Ⅰ
- RICOH RICOH
- 1月2日
- 読了時間: 3分
夕刻
館内は閉館のアナウンスと音楽が流れている
結愛は図書館を後にする人たちを見送りながら
データ入力を済ませた貸出票を揃え、整理整頓していた
「ゆ~あ☆彡」
「…!…あ、大輝…」
カウンターに姿を見せた、昼間見かけた時とはガラリと異なる
大輝の表情に、結愛は気持ち、ホッとしている
「もう仕事は終わりだろ?飯食いに行こうぜ!」
「え、うん…いいけど…」
「じゃ、俺、外で待ってるから。」
軽やかに手を振り、鮮やかに立ち去って行く大輝
結愛はスマホを取り出し、母親宛にLINEを入れる
『ママごめん。今日、ご飯いらない』
『はいはい♪分かってるよ~。大輝君によろしくね~』
…
まるで、結愛から連絡が来ることを事前に分かっていたかのような
母の口ぶりに、多少の違和感を覚えるが、言うのが遅くて叱られる心配が
杞憂に終わり、ホッとする。そんな結愛に同僚の女性が興味津々に
話しかけてくる
「ねねね。いつもお迎えに来る、あの素敵な王子は誰なの?」
「…幼馴染です。家も隣で…」
さも当然のように応じる結愛だが、ニヤニヤして、もっと
他の事を期待している同僚の視線に面食らう
「…お、お先に…失礼します💦」
引きつりながら、職場を後にする結愛
「…へえ…昼間にそんな事が?」
「うん」
行きつけの中華料理屋で、熱々の麻婆豆腐をレンゲですくい
ふうふうしながらパクつく
いつの頃からか、結愛といえば麻婆豆腐。麻婆豆腐といえば結愛。
そう言われるくらいの大好物だ。
一緒に食べに行こうと誘われれば、断るはずがない
そんな結愛の事を知り尽くした大輝ならではの手段だ
「ごめんな。俺、その時は気づいてやれなくて。
…で?どうだったの?」
結愛は、人付き合いにおいて、駆け引きというのが性に合わない。
本音や建て前といった言葉遊びも苦手だ。
なので、昼間の出来事も、包み隠さずありのままを伝える
それでも、あまりにも不可思議な内容に、どう説明すればいいのか
分からない。言葉足らずな彼女の話を、きちんと咀嚼して理解してくれる。
結愛が分かるように、なんでも丁寧に話してくれる
そんな大輝の事が、やっぱり好きなのだ
「…崇生の魔法が途中で途切れたのか、それとも途中でワープしたのか…
きっと、あの場面は事故が起きるより、少し前の出来事。それから…」
場面が転換し、ただ見惚れるしかなかった、2人の赤裸々な情事…
「//////」
「結愛、顔真っ赤だぞ?麻婆豆腐、辛かった?」
急に真っ赤になり、固まった結愛を介抱する大輝
「…あんなの…無理…だし…//////」
「ったく…崇生のやつめ。俺からも叱っておくよ。
姉ちゃんを揶揄うのも、いい加減にしろってな。
それから、お願いしておく。今度は俺も一緒に連れてけってな♪」
「…!…え」
びっくりして顔を上げて、目をパチクリさせる結愛
「途中で途切れた物語には、どうせ理由があるんだろ?
結愛が俺に話して聞かせる事も、崇生には想定内だろうし」
同級生なのに、大輝はどこか大人びていて、傍に居ると安心する。
結愛も本当は、そう思っていた。知らない世界に冒険に行くなら
ひとりじゃ怖い。でも、大輝となら…
「…迷惑じゃ…ない?」
上目遣いでボソッと呟く結愛に、大輝はニヤッと微笑み髪を撫でる…

コメント