北の町
- RICOH RICOH
- 2024年12月1日
- 読了時間: 7分
ラディアがこのフェアリーの国に来たのは神の厳命だった
雷神帝の娘を天界に連れてくるようにと…
天界から舞い降りて直ぐにAnyeを見付けることができた。
ふんわりした面持ちで街でも人気者であった。
民衆たちは皆、彼女の笑顔に魅了され、
いつもAnyeの元の姿、百合の花を愛でたり
歌を歌ったり…楽しそうに過ごしている
静かにAnyeの前に立ち微笑んだ
「はじめまして…貴女がAnye?」
不思議そうな顔しながら首を傾げる
天空で舞う天使たちも、その姿に魅了され、息をひそめる
…ゼウスが好きそうなタイプだ…
ラディアはそう思いながらも微笑み続ける
「…私、ラディア。よろしくね(≧▽≦)」
なるべく警戒心を持たれないように手を差し伸べる
Anyeもキョトンとしながら手を握り返した。
…なんだろう…オーラが天界の者と似ている…
優しい微笑みに周囲の者も笑顔が溢れる…
あの爺さんに喰われるとも知らずに…
心で思いながらラディアは微笑んだ。
「この国に来るのは初めてなの…分からないこともあるし…
仲良くしてくれると嬉しいな…」
天界の社交スマイルで微笑む。
ラディアも天界の方では美人の方だったので
周囲もウットリして2名の様子を見つめている。
「えぇもちろん」
Anyeは微笑み返す。これがAnyeとの出会いだった。
数か月Anyeと過ごすようになり
ラディアもAnye同様、中心的な者として人気を持ち始めた。
しかし…Anyeと過ごしていくうちに…
あまりの天然が多くで初めは驚いていたが、
天然すぎるのにいつの間にか周りから信頼され
ラディアが中心ではなくなっている事に
イラつくことが勝ってきてしまっていた。
本来の『ゼウスの元へ連れていく』事の目的すら忘れ…
Anyeをズタズタにしてやりたいと思い始めていた。
既に心はこの国を潰し、Anyeを絶望させ
あわよくば放置してやろうと計画を練り始めていた。
そのためにラディアはこの国の上層部の者に甘い誘惑し、仲間にした。
そして…
自分の手を汚さずに
悪魔達にこの国を襲撃させるようにフェアリーを送り込み
再三魔界からの忠告も無視をし続け今回の事件と発展した。
イザマーレ族が襲撃してきた時、
仲間になった幹部の者に隠れてろと指示を受けていた。
その時になりふり構わず逃げてれば…
関係者しか分からない所で身を潜め
襲撃が収まるのをひたすら身を隠し待っていたが…
聞こえてきたのは
『イザマーレ様、こちらに主犯格の女が居ます』
聞き覚えのある声だった。ラディアが最も信頼し右腕としている者だった
裏切られた…愕然と固まってることしかできなかった
『ご苦労であった。
お前と他の者は隠れている輩が居ないか探してこい。
ここは吾輩だけで始末する。』
扉の閉まる音…
そして隠れているところから引きずり出され、
Anyeの前で翼をもがれた
そこまでの記憶しか残っていない…
気が付いた時にはボロアパートに居たのだから…
翼をもがれ、金髪の髪から黒髪に変色し、天界からも見捨てられ…
挙句にラディアの翼はイザマーレの戦利品とされ
魔界美術館で今では見せ物となっている。
翼をもがれたのを見ていたAnye…
助けにも来ず、今やイザマーレと恋仲…
口も聞きたくないし会いたくもない。
どうやら彼女は探しているようだが…
どうせ逃げたとイザマーレと一緒になって笑ってるのだろう…
展示を目の当たりにしたラディアは
毎日のように仕事が終わると酒場に繰り出し飲んでいた
ちょうど酔いが回ってきた頃…
横に座ってきた悪魔が居た。
ラディアは酔いも回り、ぼんやりしながら横目で見つつ
酒を飲んでいた。
髪は金髪、顔だちも綺麗な美男子だった。
一緒の連れはどこかで見たこと有るような…?
と思いながら酒を飲んでいた。
ラディアが横で見ていることに気が付き、微笑んで声を掛けてきた。
その時は気が付かなかった
店内は一瞬にして静かになったことすら分からないほど酔いが回っていた。
たわいもない話をしてその日は帰宅した。
しかし、次の日もまた次の日も
必ずラディアが酔った頃合いに美男子は店にやって来る。
それも決まったように横に座って話しかけてくる。
ラディアもかなり酔っているので、顔も薄っすらとしか覚えていないのだ。
ただ、私に声をかけるなんて…変わった奴と思っていた。
初めは警戒して話しかけられても返事しかしていなかったが…
何度も会っているうちに、気さくに声を掛けられると警戒心も溶けてくる。
名前も知らない美男子に会うのも楽しみになっていた。
そして…仕事場でAnyeがゴシップで載っているのを見た日…
ストレスから仕事終わりの酒場に行き、
フラフラになるまで飲み続けていた。
酒場でもゴシップ記事になった話題で周りが盛り上がっている。
『あの2魔様はお似合いだ。
お妃になれば魔界も盛り上がり、平穏な時代も長く続くだろう』
『あ~ん!!私も素敵な女性になりた~い!羨ましいわ…』
そんな周囲の言葉が刺さって項垂れる。どいつもこいつも…
「こんばんは」
聞き覚えのある声にラディアは顔を上げる。
微笑んで見つめてくるいつもの悪魔だった
「…こ、こんばんは…」
ラディアはグラスを置いて引きつりながら微笑んだ。
「…どうしたの?何か思い詰めてるようだな…?私なら話を聞くよ」
そっと背中に手を添えて悪魔は微笑んだ。
悪魔に微笑まれいつの間にかラディアは涙が溢れていた。
今まで天界でもここに堕ちてきた時も誰にも相手にされず
身分を隠し今まで生活をしてきた。
酒が入っているのもあるが
初めて味方になってくれる存在が現れたと気が緩み
不覚にも涙を見せてしまった。
この悪魔なら…
身分を明かしても大丈夫だろうと思い始めポツポツと語り始めた。
正直、自棄になっていたのかもしれない。
全て悪魔に話をした。身分も分からない悪魔に…
魔界の襲撃を企てた主犯者である事、
ゴシップ記事に載っていたイザマーレに翼をもがれ
自らが陥れようとしていたAnyeが
いつの間にやらイザマーレの恋仲になって
何故か自分を探している…
笑い者にしたいのか?
敗北した首謀者を…裏切った自分を探して…
ラディアは泣きながら話した。
「…襲撃に失敗して今は魔界にいる。また襲撃をしようと考えてる?」
話を聞き終わった悪魔が優しく問いかける
「…もう私にはそんな力もないのに襲撃はしない。
むしろ此処に来るくらいなら…
天界にも見捨てられた時点で消滅してしまえば良かった
結局はAnyeに負けてしまったのだから…」
細々と話して無理に笑顔を見せた。
「…ラディアを助けたのはAnyeだぞ。
そして、お前の命を簡単な物としかみない天界から
引き剝がし魔界に連れてきたのは私だ」
時が止まったように固まった。…この悪魔は…まさか…
魔界美術館で会った…この魔界を総括する大魔王…
酔いが回ってる頃にラディアの前に姿を見せるのは
気が付かれない為だったのか…
「…」
何も言えないまま黙って見つめていた
「Anyeがあの翼を奪った悪魔に頼み込んだから?
なんで…そんな余計な事を…」
ふと何かを忘れている記憶が徐々に蘇ってくるラディア。
翼をもがれた後、そのまま刑務所に送られ
自分の悪事を吐かせる為に、拷問されていた事を…
単なる拷問では絶対に言わないため、
手足を縛られ、身ぐるみを剥がされ
絶妙な攻めに簡単に心を丸裸にされ…弄ばれ…
惨めで自死を試みても直ぐに助けられ、繰り返し…。
…確か…その時、大魔王も…
記憶が蘇り、愕然として固まるラディア。
あの悪魔もAnyeも…ボロボロになった私を見て
せせら笑っていたのかと思うと……
「…何故…今更近寄ってきたのですか?私はAnyeと違って、
痛めつけられたのを忘れてホイホイと恋仲になるような
お頭がお花畑になる女じゃありません。
私の悪事は話した通りです。これ以上お話しすることもありません。
それにこの世界を統括するお方が、
こんな酒場まで通うのはどうかと思います。
変な噂が立って、またこちらが拷問されてもいい迷惑です。
私を処刑するならどうぞご勝手に。後悔なんかありませんから」
ラディアは席を立ち机にお金を置いて店から出て行った。



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