Ⅳ スタジオ
- RICOH RICOH
- 2024年12月24日
- 読了時間: 2分
グランドピアノの前で、譜面と対峙する
静かで穏やかな時間は相変わらずだ
「…どうにか…インプット出来たかな…」
身支度を整えていた倉橋は、百花の呟きに微笑む
「お♪時間ギリギリだな。さっそく、お前の声を聞いてやりたいが…」
忙しなく時計を確認する倉橋に、百花は首を横に振る
「まだまだです💦先生にお聞かせできるようになるには…
やっぱり結構、難しいです…」
五線譜のシナリオを何度も繰り返し再生させていく百花の脳内に
映り込む主役たち…思い通りのストーリーに描いてみたい
そんな百花自身の意思が加わる事で、初めて自由に飛べる翼となる
(…あの人たちを見ていたら…ね…♪)
食堂で出会った恋人たちの語らいが、目に焼き付いて離れない
印象に残るシーンや景色…網膜に映り込んだ物事は皆
音に彩りを与える材料となる
新しい宝物を見つけたように、ウキウキしている百花
「…ずいぶん楽しそうだな?」
倉橋はワザと覗き込むように顔を近づけ、その口唇を奪う
「…あ…もう…///」
「…ん?」
予想外に不満そうな様子の百花に、倉橋はとぼけて首を傾げる
「せっかくのストーリーが、変わっちゃったじゃないですか…
バグになったら大変。追い出さなきゃ…♪」
ぷぅっと頬をふくらませながら、最後は小憎らしくおどけて
倉橋の首に腕を回し抱きつく百花
「…こいつめ♪」
悪態をついて笑いながら深い口づけを重ね合う
………………
数十分後、スタジオの前に停まる一台の車
「倉ちゃん、待たせたな。」
数人のスタッフと共に現れた光は、百花を見て告げる
「百花ちゃん。この後は、花に面倒を見てもらえ。外に車を待たせている。」
「はい。では先生、楽しみにしています。行ってきますね♪」
軽やかに答え、スタジオを後にする百花
部屋には倉橋と光が残った
「では、早速…」
お互いに目を合わせた瞬間、二人は一つの影に変身する
「…居心地はどうだ?」
『それは俺のセリフだ。お前こそ、どうなんだ?』
意識下に潜った倉橋の声が響く
「問題ない。今宵、あいつを召還するのに相応しい名器として
これ以上ない心地よさだ。折角だから楽しもう。よろしく頼むな♪」
上機嫌で告げた途端、その姿は瞬間移動で消えていた
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