Ⅱ 大学病院
- RICOH RICOH
- 1月1日
- 読了時間: 3分
病室の扉を開けると、柔らかい陽射しに包まれている
部屋の主はベッドの上で、退屈そうに窓の外を眺めている
メアリは無言で近づき、戸棚に入っている洗濯物を袋に入れて
持って来た着替えを仕舞う
「…お水、入れ替えてくるね」
窓辺に飾られた花瓶を手に、ボソッと呟き部屋を出て行く
その間、極力、視線を合わそうとしないメアリを
ユキは気怠そうに凝視し続けていた
ふんわりと艶やかな髪
ついこの前までと同じ人物とは思えない、妹のオーラに
苛立つ感情を隠した虚ろな表情のまま、退屈そうに手元のボタンを押す
呼び出しの音に、駆けつけるナース
「どうしました?」
「…雑誌を買いに行きたいの。付き合って」
「あら…先程、妹さんが来てたわよね?
今、医師からの説明を受けてますから、もう少し、待ってあげてくださいね」
「のろまの妹なんか、待ってられないわ。
私は今、雑誌を読みたいの。分からない?」
ユキの言い草に、ナースは呆れ、諭すように言い渡す
「こっちは暇じゃないんです。ユキさん、それならご自分で
買いに行かれたらどう?この時間、院内なら、自由にお散歩していいわよ」
「…!…生意気な小娘ね。あんたなんか、すぐにクビにさせるわ」
そういって、キャニスターの引き出しからPHSを取り出し
秘密の番号を押す
「…なんで繋がらないのよ!!あの、エロ親父!!!」
ついに怒りをぶちまけ、ワナワナと震える
「…ユキさん。病院長なら、国外に出張中です。
残念ながら今後、そのPHSが繋がる事はありません。」
「!…あんた…」
驚いて振り向き、目を瞠る
そこに居たのは毒蜘蛛、庵野 寛子だった
「…メアリを思う存分、痛みつけてくれるんじゃなかったの?
その為に、私も少なからず協力したのよ?」
「…ええ。そうね。立派に役目を果たしてくれたわ。
だけどこれ以上、この病院内に貴女の居場所はありません。
先程、医師からも通達がありました。今後の身の振り方を
考えなくては…」
「!…どういう意味?」
「今週末の退院が決まったのよ。おめでとう。
今まで、辛い思いもしたでしょう?」
「!…そんな馬鹿な…今さらここを追い出されて
どこに行けって言うの!!」
顔面蒼白になるユキに、手を差し伸べる庵野
「私の所へどうぞ。メアリも一緒だから、気苦労もないでしょ。
ま、貴女にそんな心配は要らないと思うけど(笑)」
「……」
やけに優し気に、聖母のような表情を浮かべる庵野に
怪訝な表情で見返すユキ
「これからは、ユキさん自身の幸せを第一に
考えなくちゃ。貴女に相応しいお相手も、私がすべて
用意します。なにも心配など、要らないのよ?」
「……!……あら…大丈夫なのかしら?
私はこれでも面食いなの」
庵野の魂胆に気づいたユキは、落ち着きを取り戻す
そんなユキに、庵野は笑顔で応える
「お任せください。じゃ、準備ができ次第、お迎えに上がります。
後程また……」
………………
……
…
急遽、決まった姉の退院
庵野 寛子がユキにあてがう相手の前に
当然のようにメアリを差し出し、肉奴隷の生贄にされる
自分だけの力とは言わないけど、ようやく闇から抜け出せる…
そう思っていたメアリを、容赦なく奈落の底に縛り付ける罠に違いない
でも、所詮、自分は人形…
意志を持つ事など許されない
それは、とっくの昔から、分かり切っている事だ
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