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Ⅲ 渡り廊下

  • 執筆者の写真: RICOH RICOH
    RICOH RICOH
  • 1月1日
  • 読了時間: 2分

山岡と倉橋の両氏から、7月の院内コンサートに参加するように言われ

百花は下見を兼ねて病院棟に向かっていた


「…あら…メアリさん?」


渡り廊下の端っこで、黄昏ている人物に気づき

思わず声をかける


「!……あ」


呼ばれた相手はビクッとして、声のする方を見て驚く


「……亮さんの…マネージャーさん…?」


百花は笑顔で会釈する


「お久しぶりです。先日もお見かけしたの。やはりメアリさん

どこか具合でも…?」


「…あ、いえ。私ではなく、姉なんです。」


「お姉さん?」


「…あ、でも…それも、今週までです。実はさっき、退院が決まって…」


「そうでしたか…良かったですね。おめでとう…とは言いづらい

お顔をなさってますが…?」


メアリの表情をじっくりと見ながら、遠慮がちに様子を窺う百花に

一瞬、視線を泳がせ、それでも何かに躊躇い、何も言わず、首を横に振る


「…メアリさん!」




そのまま会釈し、立ち去ろうとするメアリを呼び止めた


「…今週末、ここでミニコンサートを開くの。

山岡先生や、倉橋先生に勧められて…

もし良かったら、聞きにいらして。山岡先生のお嬢さんや

亮さんも、お招きするから」


「…マネージャーさんが、歌を…?へえ…すごいのね。

必ず行くわ。姉の退院の日だもの…約束します」


今度こそ元気よくお辞儀をして、立ち去るメアリ


初めて…


心の底から笑う、メアリの本当の笑顔を見た気がした


倉橋が、大事な相手を恋人だけに留まらず、百花自身の意志に委ね

歌わせようとした意図が、漠然と見えてきた百花


なぜだろう…

今は、あの子のために、歌いたい…




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