Ⅳ 院内コンサート
- RICOH RICOH
- 1月1日
- 読了時間: 8分
更新日:1月2日
待合室や受付ロビーなど、至る所に飾られた七夕の笹飾り
虚偽も妄言も、本当の病も
それぞれに苦しむ患者と、寄り添う医療従事者たちに、
一時の癒しになれば…
そんな意向で始められた、伝統的なこの催し
山岡と倉橋が、公開講座を受講する学生向けの企画として
毎年のように行われている
今年、そこに抜擢されたのが、愛弟子の百花だ
倉橋から噂を聞いた花が光に懇願し
魔界貴族のメンバーとセッションする事となった
CLOSEDな催しではあるが、
山岡教授の愛娘、咲音を亮の正式な相手として披露させるのに
これほど相応しい舞台はない
細々とした計画に、嬉々として協力したのが、あのカメラマンだ
これまでの淫行を赤裸々に綴ったボラを病院長にチラつかせ
外部との完全シャットアウトを約束させた
魔界貴族の奏でる音に、サポートする倉橋の歌声が響く
ふっと息を吐き、歌い出す百花…
…諦めないで…
自ら泥を被り続けた、ほんの少しの罪も
逃げ出したくなるような、その闇も
心の窓を開いて、一歩、踏み出せば
そこに、きっと光があるから…
一種のトランス状態に陥った百花の様子を
見守り続ける倉橋
百花の歌声に浮かび上がる様々な風景
山岡から教わった体幹の基礎知識と
倉橋の厳しいトレーニングの成果で、力強さを増した百花の声は
倉橋だけでなく、その場に居合わせた
すべての人に、同じ景色を見せていた
…人はただ、風の中を、迷いながら生きている…
渾身の歌唱に、たくさんの拍手が送られる
百花の恩師として、倉橋と共に山岡が紹介され
山岡の手引きで、純白のドレスに身を包む咲音が
ステージにあげられる
たった今、感動的な演奏を行ったばかりの魔界貴族のメンバーが
結婚行進曲を奏で始める
タキシードを着こなす金髪王子、亮が迎えられ
居合わせた者が立会人となり、その腕に抱きしめられる咲音…
白髪の老医師、小倉が司祭を務め
好々爺のまなざしで、言葉を告げる
「咲音ちゃん。貴女がこの世に生を受ける23年前。
突然の事故に遭い、私たちは、君のお父さんとお母さんの幸せを
公に祝福する事が叶わなかった。」
山岡の隣で、涙を浮かべる恵
会場の後ろに控える田門誠と新藤等、壁に隠れるように立つ
サエの姿を捉え、懐かしそうな表情を浮かべる小倉
「貴女のお母さんを愛した3人の王子の手によって、
螺旋迷宮に迷いかけた恵くんを救い出し、守られた大事な宝が貴女だ。
勇敢な騎士、誠君の強い意思の元、
宝を守るべく誕生させた王子が、貴女を愛するのは当然のことであり
見えない力で定められた運命に違いない。
他の誰が何を言おうとも、ここにいる我々はそれを認め
祝福しなければならない」
小倉自身、胸に去来するのは、
かつて密かに思いを寄せていた、恵の祖母の姿…
巣食っていた病魔の前に、成す術もなく儚げに散った、美しい命
ゆりかごから墓場まで…
大学病院とは、まこと人生の縮図である事を
改めて思い知らされる
小倉に勧められ、亮と咲音は見つめ合い、
互いに誓いの言葉を交わし合う
「咲音。これからの俺の人生を、お前の澄んだ目で
見届けて欲しい。俺の居場所は、お前だから…」
「///亮さん……今は…言ってもいいよね…
亮さんが好き…大好きなの…」
思わず涙が溢れ、堪えきれずに俯く咲音を
亮が優しく抱きしめる
「そんなの…とっくの昔から知ってる。
今まで、我慢させてたよな。ごめん…
俺もお前を愛してる。咲音……」
観衆の拍手と大歓声の中、そっと口づけを交わす2人…
百花の歌と、お互いを愛し、信頼し合う恋人たち
大きな感動を前に、メアリの中に湧き上がる想い
流され、受け入れるしかないと諦めかけていたメアリ
だが、亮と共演することで芽生えた、憧れの気持ち
亮が愛する咲音のように、忍び寄る危険を自然と回避し
たおやかに生きる
そんな方法も、あるんじゃないか…
「大丈夫。きっと出来るよ。貴女なら…」
いつの間にか、メアリの隣に控えていた田門誠は
新藤等に揶揄われ、真っ赤になる咲音の横で
嬉しそうに笑う恵を、やはり愛しそうに見つめながら
にこやかに告げる。
そこに、忸怩たる思いで苦々しく見つめる存在
庵野寛子と宇月ユキだ
緊張の伴う大舞台を終え、ほっと深呼吸する百花に近づき
怒りに満ちた表情で睨み付ける庵野
だが、庵野の動きを注視していた倉橋が
百花の盾になり立ちはだかる
「……っ……//////」
倉橋もそうだった
さとえも、メアリまでも……
最初は自分が救い上げたはずの者が皆、
百花の存在に覚醒し、自分の元を離れていく……
こんな……地味な小娘が……💢💢
「何が違うのよ……何が…っ」
「…せ、先生…//////」
庵野の異様な雰囲気に、倉橋の背に隠れて震える百花
イザムや光、花や蓮、魔界の最高魔族に言わせれば
チンケな私利私欲にまみれた、ゴミ屑以下の存在だとしても
庵野寛子の根本にある不器用なまでの純粋さを
俺だけは理解してやれる
「認めろよ、寛子。お前はただ、羨ましいだけだ。
無償の愛の気高さに、平伏す事もできないお前を
憐れにすら思うよ。」
「…!…」
「お前なんかに、世界を転覆させる力など、確かにないな(笑)
イザムちゃんが、高みの見物と余裕かましていたのも、頷ける。
お前の刃は、リリエルには届かない。」
「…なんだと…?!💢💢」
「残念ながら、俺も人間としての能力しか持ち合わせていない。
だから、偉そうなことは言えないけどな。だが、大事な女くらい
守り抜いてみせる。未来永劫な♪」
「せ…先生…//////」
庵野寛子の目の前で、優しく抱きしめる倉橋に
百花は恥ずかしそうに戸惑う
「お前の大事な相手は、俺に決まってるだろ?
分かり切った事を言わせるな♪」
「…!…//////」
飄々と笑みを浮かべ、真っ赤に固まる百花の髪を撫でる倉橋
「……ふんっ」
現れた時と同じように、異音を振り撒きながら
ドスドスと退散していく庵野
一部始終を、冴え冴えとした目で見続けていた、宇月ユキは
退屈そうに欠伸をして、庵野の背後に忍び寄る
「…結局は、使い物にならないじゃない…つまんない」
ユキの目配せに、従えていた黒スーツの男たちが庵野を取り囲む
「…!…」
驚き、身を竦ませる庵野を、シラケ切った眼差しで見上げる
「ま…退屈しのぎになるかと、利用しただけで
少しも信用してなかったけどね…手段なんか、どうでもいいのよ
リリエルは渡さない。私のものだ。私の元に縛り付け、跪かせてやる
悪魔などに奪われてなるものか…!!」
刹那
宇月ユキの身体から抜け出し、異彩のオーラを解き放つ影
影に操られたユキの指から繰り出される攻撃に、
敢え無く一網打尽にされるかと思いきや
轟音と共に弾き飛ばされる
「…!!…っ」
身構えた庵野は驚き、固まる
目の前に居たのは、眩い光のオーラを纏うイザマーレと
その髪に座るリリエルだった
取り囲んでいた黒スーツたちは、背後に現れたウエスターレンと
情報局職員の手で取り押さえられる
呆然と立ち尽くすユキを睨み付け、喉元に剣を突きつけるイザマーレ
「神も地に落ちたもんだ。人間界などに潜伏するとは、天界は暇なのか?
度を越した執着だな。嫌われるぞ?」
リリエルは倒れた庵野を支え、抱き起こす
「まさか…私を助けるのか…?」
困惑する庵野に、リリエルは困ったような表情で見返す
「…花ちゃんは、貴女の事を許せなかったみたいだけど…
私は…勇様と同じ。どうしても憎み切れなくて…」
「……」
「…ひとつだけ、お礼を言わせて。
あの時、勇様を救ってくださって、本当にありがとう。」
「…!…」
庵野は驚いて固まるが、それを後目にリリエルは立ち上がり
宇月ユキを見定める
「だけど…貴女はどうなのかしら?
欲しいものが手に入らず、駄々をこねるだけの甘えっ子ね。
貴女自身が、強い意志で生きてさえいれば、
天界に入り込む余地などなかったのよ。」
「…!…」
ユキに潜む影ではなく、ユキ自身が諭され、圧倒される
動揺するユキに、影の力が弱まる
「あ、そうそう。入り込んでる天界の方?
あなたなんか、願い下げよ。何回言っても分からないんだから……」
「…くっ……💢💢」
はっきりと断るリリエルに、ユキに潜む影は悔しそうに歯ぎしりし
それを見ているイザマーレはプッと吹き出しそうになるのを堪える
「………………」
実はこの場面、当然ながら肉眼で見えているのは
魔界のメンバー以外は倉橋と百花だけだった
一部始終を感じ取っていた百花に、リリエルが視線を送り
ウインクして微笑み、イザマーレと共に消えて行った…
………………
ユキの中に忍んでいた影は、イザマーレたちに拘束され
自我をなくしたユキ自身は、呆然と座り込んでいた
車椅子を運び、介助するメアリに田門誠が近づく
「困ったことがあったら、何でも相談しなさい。
君のお姉さんの事は、僕たちが責任もって診察を続けるよ」
「…!…」
手渡された名刺を見て、驚くメアリ
「これまで、よく頑張ったな。もう君ひとりで抱え込まなくて良い。
食堂に行ってごらん。君の助けに、きっとなるから。」
「…//////」
視線を泳がせ、涙を浮かべるメアリに
誠がウインクして微笑む
「片思いの極意なら、僕は誰よりも知っている。
亮のファンになることくらい、許して貰えるさ」
会場では、響子がケータリングのお弁当を振る舞い
一緒に運びに来た蘭パンダ宅配便の凛子や
一樹、碧生、泉吹、静哉、拓海ら、魔界貴族のメンバーに取り囲まれ
幸せそうな笑顔を浮かべる亮と咲音
山岡と並んで小倉と挨拶を交わし、穏やかに笑う恵
久しぶりに再会した新藤等とサエは、会場の片隅で
祝杯を傾け、誠に声を掛け手招きする
それぞれの解き放つオーラが融合した色合いに、
ほっとして嬉しそうに微笑む花
花に寄り添い、優しく見守る光…
オーラを消し、密かに見守っていたイザマーレとリリエルは
お互いに顔を見合わせ、満足そうに微笑むと
リリエルを髪に乗せ、静かに帰還していく…
🌷赤の紋様 Fin.🌷
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