Ⅳ
- RICOH RICOH
- 2024年12月9日
- 読了時間: 5分
「リーフ様。皆様方の御志で、見事に完成しつつありますな」
「…ありがとうございます。皆様のお力添えのお陰です。」
局員の呼びかけに、リーフは振り返り、頭を下げる
「ところで…312番はどこですか?」
「あら…?先程まで、そこの隅で休憩していたはずですが…」
「リーフよ…あいつはろくでもねー奴だ。こうして我々が生み出す繊維を
与えても、真面目に紡ぎもしねーで、暗い顔で膝を抱えてるだけじゃねーか」
作業台を挟んで、正面に座るブランチが言い捨てる
「…おや。でも、私は見たよ。確かに糸紡ぎにはあまり参加しないが
そこらじゅうにある端切れを拾って、何かを刺繍していたようだよ」
手を止めずにスタンプが口を挟む
「…糸紡ぎは、私たちの志をイザマーレ様に汲み取っていただいたもの。
決して無理に強制するものではありませんから…」
リーフはため息をつきながら、ブランチとスタンプを宥める
「…いえ。あなた達のお手伝いをさせていただく事で、
我々も、ぽっかりと穴が開いたままの心を埋め合わせているのです。
お手間を取らせました。自分で探してまいります。では」
3名のやり取りに、局員は丁寧な物腰で言い繕い、
その場を立ち去る
ダンケルの前で査問を受けた後、
ラディアは再びリーフたちの元に戻された
目覚めた直後には分からなかった糸紡ぎの意味も、
その目的も、なんとなく分かり始めていた
魔界への制裁を企てた天界から
ダンケルを庇い、魔界を救うために
イザマーレ自ら魔身御供となり、ヨッツンハイムに
囚われるという最悪な事態
イザマーレを救うため、自ら天界に命を差し出した
最愛の妻リリエルが、さらに卑劣な仕打ちを受け
非業な死を遂げたということ
そして、気の遠くなるような、
細かく丁寧な手仕事で紡ぎ上げているのは、
無残に散ったリリエルの死装束だということ…
こんな糸紡ぎに何の意味があるのか…
作り上げたところで、リリエルの命は浮かばれない
これまでラディアは、誰からも必要とされず
無意味に生かされていることを受け入れられず
反発して目を背けてばかりいた
リリエルの涙、そして森の精霊たちの糸紡ぎ…
命を喪うということが、どれほど空しく、果てない虚無ということを
嫌でも痛感させられた
それに比べ、過去の自らの行為に対し、
いつまでも拘り、いじけてるラディア自身にさえ
向き合うことから逃げているだけ………
ますます塞ぎ込み、膝を抱えて落ち込むラディアの脳内に
リーフはある映像を送り込み、悟らせる
イザマーレとリリエルの出会い、プロポーズまでの馴れ初め
ヨッツンハイム事件が起こり、引き裂かれた瞬間の映像…
Anyeとの違いを比較するばかりで、意地を張り続けていた
自分の過去を振り返り、そろそろ真実を受け入れなければいけない…
出会ったあの瞬間から
心の底では、イザマーレに惹かれていた
そして自分ではなく、Anyeだけが選ばれたことに、ただ嫉妬していた
イザマーレとAnyeにしか分からない深い絆がある事など、
考えもしなかったのは、認めたくなかったからだ
ただ惹かれ合い、愛し合い、寄り添う2魔が、
本当に羨ましかったのだ
自分の心を素直に見つめ出したラディア
そんな時、地下にいる全ての者が集められ、
あるモニターを見せてもらう機会があった
イザマーレ副大魔王就任のニュースが放映されたのだ
「キャー(≧∇≦)♪イザマーレ様だわ…やっぱり素敵ねえ♪」
「これでようやく、魔界も安泰かな…」
「イザマーレ閣下、万歳!!」
モニターを見ながら、歓喜に溢れる彼らの傍らで
ラディアもじっと見つめていた
(…たしかに、魅力的だし…カッコいい…実は結構…
タイプなんだよね…//////)
翌日
局員や雇われ魔たちがこぞって情報誌を買い漁って来た
「…?…どうしたんですか?これ…こんなに買って…」
「あ!ちょうど良いところに♪見ろよ、これ。」
呆れて問いかけるラディアに、雇われ魔が興奮気味に答える
「…?…なんですか?これ」
水を得た魚のように目を輝かせる雇われ魔
「フフフ…聞いて驚くな。なんと、
イザマーレ副大魔王閣下、直筆のサインだぞ♪」
「!…へえ…」
流れるような、それでいて丁寧で拡張高い筆跡に、
食い入るように見つめるラディア
「副大魔王様に就任されただろ?それで、大魔王陛下からは
妃を勧められたそうだが、固辞されたそうだな。」
「…リリエル様があんな事になったばかりだし…
当然だよな。固辞されるイザマーレ閣下も流石だな♪♪」
「………」
「大魔王陛下に忠誠をお誓いになり、それに対し
陛下からもまたイザマーレ閣下への忠誠を請われたそうだ」
「その結果、大魔王陛下も不可侵とする大原則を打ち立てられた。
本日を執行日とし、発令された内容が、イザマーレ閣下の直筆で
記されている」
説明された内容にも驚き、改めて情報誌を手に取り
繁々と眺めるラディア
「!!…へえ…ほんと…凄いですね。何もかも完璧にこなされて…
皆さんの言うように、カッコ良くて素敵なのは…認めます…///」
「本当ね♪もうこれ、家宝にしなきゃ♪♪」
リーフたちもキャーキャー言いながら、嬉しそうに眺めている
「良かったなあ、312番。
自らの意思で堕天した者は、この原則に抵触しない。
執行日より過去に償いを済ませた罪も、恩赦されるとの事だから」
「…!…え…」
ブランチの言葉に驚き、固まるラディア
慌ててオーラを探り、書かれている内容を把握した
「………」
顔面蒼白になり、周囲の喧騒がなにも聞こえなくなるほど
ショックを受けるラディア
ラディアを様子を気に留める事もなく、
魔界中の老若男女がこの日刊行された情報誌を読み漁り
魔棚に飾り、重宝され、やがてこの原則が、魔界における
非神大原則となる
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