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riparia

  • 執筆者の写真: RICOH RICOH
    RICOH RICOH
  • 1月2日
  • 読了時間: 3分

川原―


戸惑う絵里奈を抱きしめながら、聖はかつて、この地で出会った

女―小原由奈―を思い出していた


……………………

……


由奈に託された赤子は、一日生き延びて、夕暮れと共に

命の灯火を消そうとしていた


(…さて…魔界に引き寄せるか…)


赤子から魂を抜き取ろうと、額に手を翳した

その時


眠っていたはずの赤子がぱっちりと目を開き

つぶらな瞳で聖を見つめてきた


黒装束を纏う悪魔の姿に

曇りなき眼で、目の前のキラキラと眩き存在を捉え

次の瞬間、火が付いたように泣き出す


「ま…待て…💦 そう泣くな…💦」


ハッとした悪魔は慌てて、魔力で哺乳瓶を取り出し

腕に抱いて赤子の口に含ませる


(…💦な…なんで俺が、こんな事を…//////)


照れ隠しに真っ赤になりながら戸惑う悪魔を余所に、

無邪気な眼でゴクゴクとミルクを飲み続ける赤子


「…悪魔の血を分け与えてしまった…💦 お前が悪いのだぞ?

そう急かすから…💦」




小原由奈と池端信人


この2人の命を奪った真犯人は、いつか必ず

お前の命を奪いに来るだろう…



だが、諮らずも

悪魔の血を与えられた赤子は、無事に成人を迎えるだろう


「…なるほど。あいつめ…こうなる事を、見越しておったな…」


小原由奈の最期の表情を思い浮かべ、

苦笑しながら聖はその場を立ち去った




その後


池端夫妻の悲劇を嘆き悲しむ人々の涙が川のように流れ続け

ついにこの場所に道を作る事を断念した彼ら


いつしか巌が砕かれ砂となり、たい積した砂利の上に土が盛られ

豊かな草花が生い茂る土手地となった


……

…………


「…まさか…お前をこんなにも、愛することになろうとは…」


「…え?」


聖の呟きに、不思議そうに首を傾げる絵里奈の頬を手の平で包み

口唇を重ねる…


聖はその後も、定期的に人間界にひっそりと降臨して

館を設けて、由奈に託された子供―絵里奈の様子を見守っていた


何事も、気になり始めたら動かずにいられない、律義な悪魔だ


高柳にP社の人間…あの後、絵里奈の存在を嗅ぎつけ

二重三重の罠を仕掛けていた奴らを一網打尽に処刑した


その結果、人間を襲う悪魔と恐れられ、年頃の女を差し出すという

契約まで生まれたが…


すべては絵里奈 お前を愛でる為




「…お前の母親は…」


「え…」


「最後の最期に俺を振り切り、お前の父親に導かれて姿を消した

その魂は、いまだに輪廻の旅を彷徨っている事だろう」


「…母の事を…ご存知なんですね?」


「ああ。とても美しく聡明で…悪魔の俺を見ても

怯むどころか、指南してきやがった。あんな人間は、初めてだった」


「…」


生まれた時に亡くなった母の面影を、知る由もない絵里奈は

聖の言葉を反芻して、想像するしかない


だが、絵里奈の脳裏に浮かぶ姿は、小原由奈そのものだ


「最後に連れ去ったお前の父親は、相当、欲深で

母親への執着は凄まじかった。それは大魔王に匹敵するほどだった

もしかすると、愛する者を守るための力が、魔性を呼び覚ましたのかもしれんな。」


「えっ 呼び覚ますって…まさか…」


絵里奈の父親―池端信人は、元は聖たちと同じ、あちらの世界に身を置く

悪魔だった。新天地の創造のため、降りたこの地で魔力を封印させ

小原由奈と出会い、添い遂げた


P社にいた社員の多くは、魔界から潜伏している悪魔たちだった

生粋の人間は、小原由奈と高柳の2人だけだった

だが、小原由奈が選んだのは、高柳ではなく池端信人だった


業績でもプライベートでも、すべての名誉を奪われた高柳は

いつしか心を見失い、この世界の覇権を狙う天界に付け込まれ

道路が出来上がる直前に、現場の従業員を無断で解雇させていたのだった



第二章 Fin


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