Ⅵ スタジオKurahashi
- RICOH RICOH
- 1月1日
- 読了時間: 4分
昼下がりの長閑な時間帯
玄関の前に停まっている黒塗りの車
ミキシングブースで、手渡された画像を見ながら
音源に耳をすませる倉橋
「…たしかに。この時通り過ぎた車体に間違いない。ナンバーは…」
ヘッドホンで注意深く確認しながら、メモ書きしていく
「撮影現場から後をつけられていたのか、偶然を装ったのか…
百花と同じ大学病院に向かい、その後、亮の乗ったタクシーを
尾行したんだな」
紫煙を燻らせ、目を細める蓮に頷き
倉橋はふぅ…とため息を付く
「女優のたまごちゃんの行動を、一から十まで見張っているようで気味が悪いな。
逆にその欲が仇となり、イザムちゃんの付け入る隙になったわけだな」
「…よく分かるねえ。さすがだな♪」
倉橋の言葉に興味を示し、面白そうに眺める蓮
「ああ、まあ…直接聞いたわけじゃないんだが…//////」
多少、気恥ずかしそうに鼻筋をポリポリと掻きながら
視線を泳がせる倉橋
「ここ最近、百花の脳内は、彼女の事ばかりで(苦笑)」
意味深な物言いに、蓮はニヤッと笑う
「…なるほど。相変わらずの公私混同、仲が宜しいようで♪
…案外、光より、倉ちゃんの方が器用かもしれないな…(笑)」
蓮の洞察に、心の底からげんなりした表情を浮かべる倉橋
「…勘弁してくれよ💦俺には蓮ちゃんのような存在が居ないんだぞ?
せめて、女を独り占めにするくらい、許されるだろ(笑)」
「はいはい。この事は、特に魔界の副大魔王には黙っておいてやる(笑)
ところで、そんな倉ちゃんの、愛しの姫君はどうしたんだ?」
「ああ、今日は大学の講義があってな…」
言いかけたその時、スタジオの玄関ドアが開き、
渦中の姫君、百花が姿を見せた
「ただいま戻りました…あら?蓮さん…こんにちは♪」
丁寧にお辞儀をする百花に穏やかな笑みを返し
スタジオを後にする蓮
「百花、おかえり。」
「…すみません、お仕事の邪魔しちゃいましたか?」
「構わないよ。おいで…」
荷物を置いて、楽譜を取り出そうとする百花の腕をとり
抱き寄せる
「先生…//////」
真っ赤になって俯く百花の顔を覗き込み、髪をポンと撫でる
「…どうした?」
「……んっ……」
思いあぐねた表情で見つめる百花が言葉を発する前に
その口唇を塞ぎ、舌を絡め合う
倉橋の首に腕を回し、抱きついて来る百花
そのぬくもりを愉しむように、ソファに押し倒す…
…しばらくして、見つめ合う2人
「…よし。百花、聴かせろ。」
「///はい…」
相変わらず、情事よりも昂った表情で、大きく息を吐く百花
「…ダメだ。そこはもっと、お前自身が主役になれ
この小節のアタマから、もう一度だ」
「…周囲の喧騒に惑わされるな。お前はいつでも不動の精神で
可憐に咲き誇る花になるんだ。リズムを掌握しろ。振り落とされるな」
………………
……
…
厳しい叱咤激励が続くスタジオ…
「…はぁ…やはり難しいですね💦」
一曲を終え、項垂れて落ち込む百花
「(笑)とくに今の、百花の状態では難しいだろうな」
フッと笑って指摘する倉橋に、むっと頬を膨らませる百花
「…相談させて貰えなくて、そのくせ、全部お見通しなんですから…」
「…はいはい。だがそれは、俺のせいじゃない。
お前が可愛いのが悪いんだぞ?」
飄々とした笑みを浮かべ、自宅の寝室に誘う倉橋
…
倉橋の腕に包まれ、まどろみながら
様々な想いを巡らせ、呟く百花
「可憐に…柔らかく咲き誇る…
それは…決して弱くてはいけない、強くなければ…
無償の愛…それは、不動の精神…
優しさだけでは足りない…厳しさも…」
そんな百花に微笑み、髪を撫でる倉橋
そんな資質が、自分にあるだろうか…?
だが、目の前にある譜面を歌いこなすには
まさにそのすべてが必要なのだ
「…リリエル様は…凄い方なのでしょうね。」
改めて痛感する想いを吐露する百花に
倉橋も遠くを見つめ、想いを巡らせる
「そうだなあ…だが、百花にも出来るはずだ
俺の知る、リリエルの凄さは、イザムちゃんへの愛。
イザムちゃんへの想いだけで、すべてを跳ね返し、乗り越えていく」
「……」
「自らを高めて鼓舞する言霊ではない。
そんな高飛車な曲ではないだろ?お前なら出来る。
大事な誰かを思い浮かべるだけでいい」
「…それは…//////」
言いかけた百花の想いを汲みながら、口唇を重ね
再び愛撫を深めていく…
(勇さんの事だと、言ってくれないの…?)
第六章 Fin.
次章にて、ついに完結…?お楽しみに…
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