top of page

Ⅳ メアリの飛躍

  • 執筆者の写真: RICOH RICOH
    RICOH RICOH
  • 1月1日
  • 読了時間: 3分

亮の事を好きになっていた

だが、その自覚もはっきりしてない。おまけに自分のような存在が

亮の相手に相応しくないと分かり切っている


無自覚のまま亮を想うがあまり、

夢と現実の境界線が曖昧になっていく


亮が喜んでくれること、亮が認めてくれること

それだけのために演技に臨むメアリは

いつの間にか役のキャラが憑依したように

自然で、かつ愛らしい恋人を演じる名女優に変貌を遂げていく


無限に続くと思われていた闇のステージで、

繰り返し思い描いた、金髪王子が愛する女性…

それは、亮の本当の恋人、咲音の生き写しのようにも見えた


亮とメアリの好演は評判を呼び、高視聴率を叩き出していく


メアリ自身が掴み取った成功体験だが、役が終われば

亮との関係もそれまで…


恋愛ドラマではよくあることだが、ストーリーが人気となり

多くの人に受け入れられたドラマであれば、俳優自身もお似合いの

本当の恋人同士のように扱われがちだ


もちろん、そんな筈はなく

個々にプライベートはあるわけで、私生活に侵食する部分と

どうにか折り合いをつけているのだが…




ドラマの高視聴率が功を奏し、メアリのギャラも跳ね上がった


もはや、闇蜘蛛の苦行に喘ぐことなく、姉の医療費も

ポケットマネーから支払える


病院長も、知名度が上がったメアリに対し、

危険を冒してまで卑劣に扱う事は避けたい


メアリ自身の努力の賜物であり、喜ばしい結果だが

気に食わない人物が2人…


メアリの事務所の代表、庵野寛子と

メアリの姉、宇月ユキだ


蜘蛛の闇営業が行えなくなり、パトロンからの要求が債務不履行に陥る

メッキが剥がされ、毒蜘蛛としての本性を隠しきれない庵野の前に

ひとりの男が立つ


イライラとスマホを手にとっては放り出し、異音を撒き散らしながら

男を睨み付ける庵野


「…こちらの意図する結果になっていない。報酬は出せないわよ」


「馬鹿言っちゃ困りますよ。アンタの要求は、ドラマの視聴率。

それだけだったはずだ。応じないというなら、アンタらがやってきた

これまでの事も、すべて曝け出してやりますが?」


パンっ…


激しくスマホを叩きつける音


「…ふんっ、小娘と一度寝たくらいで、いい気になってんじゃないわよ

良いのかしら?セクハラとパワハラ、買春…あんただって、無傷じゃいられないわよ?

…!…何すんのよっ」




憤慨して罵倒する庵野など意に介さず、ふいに近寄り

顎をくいっと持ち上げる男


「…悪いねえ。どうせ、こちとら闇稼業のようなもんで。

提示した金額が支払えないというなら、それなりの見返りを

示して貰わないと…だが、アンタじゃ無理だ。

賞味期限をとうに過ぎたババアじゃなあ…」


「…!……」


気色ばむ庵野を後目に、男は踵を返す


「…また伺います。報酬をいただくまで、何度でも…」


爬虫類を思わせる貧相な目つきでニヤリと笑い、事務所を後にする




「……ケッ」


近くにあったゴミ箱を蹴り上げ、駅の売店に並んだ雑誌を手に取る


ドラマの好調で話題のトレンド、亮とメアリの2人が

記事に取り上げられていた


亮の隣で微笑むメアリの名場面が載せられている


(…見事に化けたねえ、蜘蛛ちゃん…)


自分の腕で、好き放題食い散らかした、あの人形のような女と

記事になっている女の姿がどうも、一致しない


(…どちらかというと…)


煙に巻かれ、スクープしそこねた、あの夜

一瞬目にした、あの時の彼女にそっくりだよな…




庵野 寛子との仕事上のつき合いは、これっきりだ

メアリにも、何の未練も興味もない


だが…


ファインダー越しに映る姿を想像し、惹かれるものに

興味を示すのは…カメラマンとしての性か…





最新記事

すべて表示
Ⅵ スタジオKurahashi

昼下がりの長閑な時間帯 玄関の前に停まっている黒塗りの車 ミキシングブースで、手渡された画像を見ながら 音源に耳をすませる倉橋 「…たしかに。この時通り過ぎた車体に間違いない。ナンバーは…」 ヘッドホンで注意深く確認しながら、メモ書きしていく...

 
 
 
Ⅴ 花の影

食堂― 季節はいつの間にか移ろい、桜からハナミズキ、 コブシ、ツツジと、街路樹の華やかな彩りが次々と変化し、 やがて紫陽花が曇天の野路を優しく労わっている そんな中、今日も相変わらず、次の季節に向けて 試作品を作り続ける咲音 じめじめとした湿気と、びっくりするような猛暑に...

 
 
 
Ⅲ 続き…ようやく先に進みそう…

扉越しに感じる紅蓮のエレメンツに、光はベッドから抜け出し 部屋の入口に向かう 「…よお♪姫はお休みか?」 「ああ…っていうか、気になるじゃないか…お前がそこに居るって 分かってるのに///」 八重歯を見せて笑う蓮に、照れくさそうな顔を隠そうともしない光...

 
 
 

コメント


丸太小屋の階段を降りると辿り着く桜の木
bottom of page