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Ⅵ 溶解と洞察

  • 執筆者の写真: RICOH RICOH
    RICOH RICOH
  • 2024年12月24日
  • 読了時間: 4分

トイレに向かう途中の廊下で、亮が窓の外を眺めていた


「…亮」


サエに呼ばれ、亮は振り返る


「…さっきはごめんなさい。寛子さんに流されるだけで

反論すらできなかったけど…亮は、私と誠さんの子供だから。

今さらって思うかもしれないけど、お父さんのことは

信じてあげて」


「亮さん、お待たせ…あ…」



トイレから出てきた咲音が声をかけようとして、立ち止まる

サエの前を素通りして、咲音を引き寄せる亮


「…母さん」


サエとは反対方向を向いたまま、声をかける


「俺は、あんたらが勝手に産んで生を受けた。

どこから産まれるかなんて、息子の俺に決定権はないからな。

だが、俺の人生は俺が決める。こいつと一緒にな」


「…えっ…//////」


ポンと髪を撫でられ、呆然と固まる咲音


「そう…大丈夫よ。あなたには間違いなくお父さんの…

誠さんの血が流れてる。私も…あなたを大切に思ってるから。

…咲音さん…実は、貴女を抱っこした事もあるのよ♪

恵ちゃんと晃さんにそっくりね。亮のこと…よろしくお願いね」




食堂―


やるせない思いを抱きながら

きちんと故人の旅立ちを偲びたい


いつものメンバーたちは、食堂に集合していた


一樹と碧生は、恥ずかしさで自爆寸前の百花を慰めつつ

拓海と泉吹から話を聞き、同じように憤慨している響子


「そんな事があったんや…そりゃ、私も参戦して

石を投げつけてやりたかったわ(苦笑)…百花ちゃん

お疲れ様ね♪」


「しかし…凄かったね(^-^;」

改めて、やれやれと深い息を吐く静哉


「我々、ロックミュージシャンは日頃、喧しいとか

うるさいとか言われるが、何なんだろね、あの腹立たしさは(笑)」


「普通、陰口ってのは、ヒソヒソと、あえて一部分だけ聞こえるように

やるのが、最低限の礼儀ってもんだろ?」


「(爆笑)だよなー…」


的確かつ、悪魔的物差しで断罪する彼らに、

百花はどうにか救われた境地になる


「…うるさいのさえ、どうにかやめてくれたら…(^-^;」


「ものすごく同感!!ワハハハ…」


倉橋の弟子で、亮のマネージャー(見習い)。

百花との距離感を掴めずにいたメンバーたちは、彼女の一面を

垣間見ることが出来て、いつの間にか打ち解けていた



レコーディングスタジオ―


「そろそろ、次の舞台に向けて、準備を始めないとな」


「ちょうど良いネタが拾えたんじゃないか?なあ…倉ちゃん」


リハ室で打ち合わせ中の倉橋と光


「…しかし、寛子が里親だったとは…縁とは不思議なものだな」


さとえの存在を百花に聞かされ、そこで繫がった

寛子との因縁に、倉橋は改めて思いに更ける


「倉ちゃんのDVDを観ていたんだってな。それで

過去の事を思い出し、懐かしくなって会いに来たのか」


「………」


そんな面倒な事を、するだろうか?

寛子の性格を知る倉橋は、光の言葉にも首を傾げる


そこへ、お茶を運んできた花


「…噓なんじゃないかしら」




「…嘘?」


「ええ。」


思わず聞き返す倉橋に、花は表情を変えず頷く


「花?…嘘とは?どういうことだ?」


隣に座らせ、光が問いかける


「…寛子さんにさとえちゃんと接触したオーラは

まったく感じなかったの。少なくとも…20年くらいは」


「…百花ちゃんと同じくらいなら…彼女は25歳くらいか?

保護施設で引き取った直後くらいから、何も面倒を見ていない

…そういうことか?」


「はい。里親っていうのも名ばかりで、実際には制度を悪用した

もっと汚いものだったのかも…」


寛子のオーラから感じ取れた様々な光景を思い出し

目を顰める花


「里親って、片親だけでは難しいのでしょう?彼女、御主人は?」


「…寛子は早くに夫を亡くしている。再婚した話は聞かないな」


花に聞かれ、倉橋は記憶を辿るように呟く




「…金儲けの商売品として利用され、生贄にされ続けた…

嫌気がさし、どうにか逃げ出したものの、

一度囚われた悪循環から抜け出せずに、

藻搔き苦しんだ生涯だったのかも…」


無償の愛、百合の花の化身だからこそ受け入れ難いのか

厳しい表情を浮かべる花に、光も深い息を吐く


「…それでも、そんな彼女の唯一の光が

我々、最高魔軍だったわけだ。花、心配いらない。

今頃、あいつらに迎えられて、楽しく過ごしているだろう」


「!…あ、そうですよね♪」


光に諭され、ハッと我に返り、嬉しそうに笑う花

そんな彼女に光も優しく微笑む


2人の様子に、倉橋も笑みを浮かべながら

やや思案気に黙り込む


「それにしても…いや、だからこそ解せない

寛子の目的はなんだ?」


「ん?」


倉橋の呟きに、光が首を傾げる




「…光ちゃん…蓮ちゃんと連絡取れるか?…イザムちゃんと

会いたいんだが…」


「どういうことだ?勿論、必要ならすぐ可能だ」


倉橋は、数日前に自宅に訪ねてきた寛子の事を話した

かつての自分との因縁も含めて…


「…なるほどな。確かに、不可解だ。」


全てを把握し、熟考し始める光


百花に咲音、そして花までも…

共にLilyの輪廻に由来する彼女たちが、こぞって怒りを露にする


万が一、リリエルに波及したら…世界はどうなる…?



第二章 終わり


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