Ⅷ 訓示とおまけ
- RICOH RICOH
- 2024年12月14日
- 読了時間: 6分
更新日:2024年12月24日
とにかく、何があろうとも、
イザマーレの敷地に許可もなく勝手に居座るなど論外なのだ
想像してみなさい。
自国の美しい領土に、他国からの不法滞在者が
勝手に居座り不法占拠。挙句の果てに
「自称:自暴自棄♪ 命なんて惜しくない。どうにでもなれ
どうだっていい 生きる事なんか馬鹿らしい 邪魔ならさっさと消滅させろ」
とボードを掲げ、周りの声に耳も貸さず、傍若無人に振る舞っていたら…
景観は悪くなるし世界遺産は取り下げになる
イザマーレの品位を貶める行為であり、迷惑以外の何物でもない
それだけではない。
ダイヤ(の器)は、自分が居る身近な世界の中だけで架空の世界を作り出した
だが、そんな尺度でしか測れない小さな世界に、高貴な悪魔は存在しない
もっと大きな視野で、命の行く末を厳正に裁く
尊い存在であることを、なぜ簡単に忘れるのか…?
ダンケルが世に生み出し、魔界を統治する彼らは…
宇宙の誇る、高貴な存在の彼らは…
あなたの周りにいる、あなたの負のオーラが招き寄せただけの
つまらない人間に置き換えられるような、低レベルな存在ではない
せいぜい、犯罪魔や天界からの不法侵入者、その程度の類だ
それは、自分の殻に閉じこもり、悪魔の実像すら捻じ曲げる行為
リリエルが猛烈に怒り狂うくらい、当然なのが
お解りいただけただろうか?
そして、決して忘れてはならない大事な真実がもうひとつ。
最初に触れておいただろ?
これはあくまでも、人間界にいる
ダイヤの器のコピーモドキが作り上げた架空の物語
我々の世界にいるアイツも、そこまで卑下する程
どうにもならないクズではない
ただ、心と言葉が裏腹で、意地っ張りで甘ったれ
魔界の誰からも愛される、磨けば光る原石なのだ
ダイヤはさすがに懲りて、敷地の周りをうろつく真似は止めた
何もなくても…自分を必要とされてないと感じていても
あんな恐ろしい場所に比べたら、自分のやりたいようにさせてもらい
我が儘を言っても許される魔宮殿の方が、極楽である
それは、薄々気が付いている
(薄々じゃねーよ)
だが…
とにかく、安心して引き籠れる場所がない以上
諦めて魔宮殿に戻るダイヤだが、心に溜め込んだ膿は
ちっとも解決していない事に気が付く
本当に、これで良いのかと…
現実逃避して逃げ込むのではなく、きちんと考える時間が欲しくなったのだ
なにが駄目で、いけなかったのか…
ダイヤ自身、こんな自分は嫌で仕方ないのだ
考え込みながら歩いていると、思わぬ場所に辿り着いた
(ここ…)
一面に広がる湖
向こう岸で白馬がのどかに牧草を食べている
ダンケルに連れられ、よくデートした場所だった
(…ここなら、怒られないよね…)
多少、ビクつきながら、湖のほとりにテントを張る
中に入って寝っ転がるが、夜になったら、真っ暗じゃん
そう気づいたダイヤは慌てて起き上がり、ランプを取り出し
灯りを付ける
「あっつ!!!」
こすったマッチに火傷して、盛大に叫ぶが
誰も居ない湖で、何も反応しない
ぼんやりとテントの中から空を見上げる
そろそろ夕日が沈む時間なのか、真っ赤に染め上げている
「…腹減ったな…しゃーない。料理でもすっか…」
だが、料理しようにも、食材も調理器具すらない
仕方なく、魔力でカップ麺を取り出し、また困る
お湯…!!
アタフタと動き回りながら、ダイヤはだんだん、情けなくなってくる
こんな小さな事すら、自分ひとりでは何もできない
泣きたくなるのを誤魔化すように、煙草を燻らせる
その時
すぐ傍に、何かが居るのに気が付いた
よく見ると、小さな生き物が大きな鍋をかついで、湖畔へ移動している
興味をそそられて、追いかけていくダイヤ
「…!…あなたは…」
ダイヤの呼びかけに、
振り向いたオルビガーノは、ダイヤを一瞥すると
何も言わずに、並べた鍋を丁寧に磨き始める
目を丸くして、固まっているダイヤを後目に
得意気な表情を浮かべて、ピカピカに磨かれる鍋…
一瞬のうちに消え去ったかと思うと、向こう岸にある森の中から
採れたての野菜を両手いっぱいに抱えて戻り、大きな袋に入れていく
オルビガーノが両手に持つ赤い実を、物欲しげに見つめるダイヤ
(…フフフ…欲しい…?)
楽しそうにお尻をフリフリさせながら、
にっこりと笑うオルビガーノの声が聞こえた気がした
「…欲しいです…お腹空いて、死にそうなの…」
素直に懇願するダイヤの様子を、キョトンと眺めた後
ポケットのなかからコップを取り出し、水筒のお湯を注ぐオルビガーノ
ウエスターレンに作ってもらった、
特別なブレスレット(ポケットに入ってる♪)は
何でも持ち運べて、とても便利なのだ♪♪
ダイヤの目の前にコップを置き、赤い実を入れるよう促してくる
「…ん?ここに入れればいいの?」
尋ねるダイヤに、オルビガーノは満足そうに笑顔を見せて
お尻をフリフリさせている
(…こうすると、美味しく味わえるからね♪)
大好きなリリエルに教えてもらった素敵な魔法を
得意気に披露するオルビガーノの楽しそうな声が
やっぱり聞こえた気がするのだ
半信半疑で口に含む
絶妙な塩加減と酸味…
疲れ果てた身体に、染みわたる、深い味わい…
「…うんま~~~い!!!!」
思わず涙ぐみながら、誤魔化すように叫ぶダイヤ
どうして…傍に居すぎると気が付かないのだろう
いつも、いつでも見放さず、居てくれる存在の有難さに
どうして…すべてを台無しにするような真似を…
オルビガーノから貰った梅湯の味に
ダイヤの脳裏にダンケルの微笑みが浮かんでは消えて行く
もう…許してもらえないかも………………
再び落ち込みそうになった、その時
ダイヤの肩を叩くオルビガーノ
視線を向けると、もう一つ手にしていた赤い果実を差し出してくる
「…季節外れなのに…なんで??」
赤い表面に、金のつぶつぶが輝く苺だ
ダイヤの元に行くなら、苺にしてやれと
ダンケルの言い付けを守っただけのオルビガーノ
本当は、りんごの果実を出したかったのだけど…
ダイヤに苺をあげた代わりに、手に残ったりんごは
リリエルに渡して美味しく料理してもらおう♪♪
そう思ったオルビガーノは、躊躇なく飛び上がり
光の筋を残して消えて行く
ダイヤは、オルビガーノが立ち去った方向に目を凝らし、驚く
「…へ…陛下……それに…………」
パラソルの中で、赤ワインを片手に微笑を浮かべるダンケル
「ようやく来たか。お前のキャンプごっこに付き合っていたら
まともな食事にありつけるまで666年はかかるからな」
ダンケルの言葉を合図に魔法陣が出され、
イザマーレとリリエルが姿を現した
「は~い。お待たせしました。素敵な場所にぴったりな
お食事をお持ちしましたよ。」
手に持つ鍋は、さきほどオルビガーノが磨き上げていた、あの鍋だ
「オルビガーノのお土産の林檎も入れて、カレーにしました。
ワインにも合いますよ♪」
「…リリエル様…//////」
「あとは、陛下と水入らずで、ゆっくりと過ごせ」
ニヤッと笑うイザマーレに、真っ赤になって俯くダイヤ
「…本当は、御屋敷じゃなく、こんな場所で
Anyeちゃんたちのような幸せごっこを
真似したかったんでしょ?ダイヤ様」
「…!…幸せごっこって…そんなんじゃ//////」
「待たせて悪かったと、このページは
里好からお前へのプレゼントだそうだ。遠慮なく受け取れ。じゃあな」
リリエルと、オルビガーノを髪に乗せ、消えて行くイザマーレ…
🌷さみっと Fin.🌷
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