Ⅲ 闇のない罪
- RICOH RICOH
- 19 時間前
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カラン♪
「いらっしゃい!好きなとこ座って~…」
…………
…
今日も向かいの大衆食堂から、景気の良い明るい声が聞こえてくる
女は、スマホのネットサーフィンを中断し、首をストレッチさせながら
立ち上がる。売店に向かい、コーヒーと雑誌を手にすると、元居た場所に戻る
他人の目を気にせず、天候にも左右されない
コワーキングスペースは、他人との距離感に敏感な現代社会において
年々、需要の高まりを感じる
女も、気軽に立ち寄れる貴重な場として重宝していた
何しろ、夫や子供に見られたくない内職も惜しみなく出来る
SNS上に飛び交う話題、目を惹き付けるネタ
それらを適当に拾い上げ、さも自分が見聞きしたかのように
コピー&ペーストして、指定された文字数に達すると
内容に見合った見出しを当てはめて、送信する
主婦にでも出来る、小遣い稼ぎだ
指定されたタスクをこなした回数に応じて、
より多く稼ぐことが出来る
昔から、自分ではあまり意識したことがないが
親しく話しかけても、相手からは何故か嫌われる
だいたい、会社で上司とネゴシエーションすること自体
時間の浪費でバカバカしい
主婦として、喰うに困らない寝床を手に入れ
母親として、効率的に子が成長できるよう、無駄な事は排除させ
面倒な人付き合いを出来るだけ回避し
今日も無駄なく生きている自分に満足している
フリールポライターの内職も、自分にとっては好都合だから
選んだだけだ
彼女にとって、音楽は耳の上を通り過ぎる風でしかなく
だからと言って全然興味がないわけではなく、学生時代は
吹奏楽部に所属していた経験から、街中に貼ってあるポスターを見ると
その時の都合があえば、フラッと立ち寄る事もある
…こういう所って、必ずダフ屋が待機していて
自分のような人間が座っていれば、運よく中に入れることもある
それを狙っていたのだが、この時の主催は
セキュリティも万全で、違法に入り込む余地はどこにもなかった
(…たかだか新人のくせに…生意気ね)
自分のすぐ横に貧相な顔つきのおばさんが居た
彼女は…もしかして出禁?
一緒にされるのは心外だ。さっさと諦めて会場を後にした
会場内で音楽に触れる事は叶わなかったが
貴重な情報をいくつか入手した
「百花」という新人アーティストの名前
カッコいいバンドが在籍する、結構有名なプロダクション
結婚しているメンバーも居て、奥さんはご懐妊なのか…?
その奥さんの知り合いっぽい女性も、別の男性と親しそうにしていた
(…あんな世界もあるのねえ…)
少しだけ羨ましく思うが、やはり自分には
要らないものばかりだ
数か月後、ネットニュースで報じられた
SNSに特定の人物に対する虚偽の情報を拡散させ、
誹謗中傷を繰り返したとして都内に住む50代の主婦が逮捕された
女性の供述によると、頻繁に見かけた真贋疑わしい情報を
無作為に切り張りし、さらに誇張させてリツイートを繰り返し
名指しされた特定の人物への名誉棄損、業務妨害…etc
警察によると、女性が噂の根源としていた大元の情報を流していたのは
別の女性。アカウントからすでに身元を特定し、行動を監視しているとのこと…
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