Ⅳ
- RICOH RICOH
- 2024年12月10日
- 読了時間: 6分
翌日。校内は噂で持ちきりだった
映画館でサエと等の姿を見かけた学生たちが
大騒ぎしていたのだ
「等のやつ、サエと付き合ってるみたいだぞ」
「うんうん…昨日、見かけた。凄い良い雰囲気だったもんな」
「等~!!お前、相変わらずだな♪」
「サエちゃ~ん♪等は優しくしてくれんのか?良いねえ~♪」
噂話に留まらず、面と向かって冷やかしてくる者も後を絶たない
こんな事になるとは思ってもなかったサエは
恥ずかしさと整理しきれない気持ちとの狭間に揺れ動く
その噂を耳にした恵は、もちろんショックで
それでも2人の事を羨ましそうに眺めてくる
恵の後ろを当然のように陣取る誠も
いつものように一緒の席に座る彼らに対し
大らかに揶揄しながら受け入れる
「等~。お前、ほんと、見境ねーのな(笑)
でもま、おめでとさん♪」
あっけらかんと祝福する誠に、却って複雑な表情を浮かべるサエ
「見境ないって…そんなの、サエちゃんに失礼だよ💦誠ったら💦」
そんな2人の会話を聞きながら
恵に対する申し訳なさでいっぱいになるサエ
それでも恵は、サエに言うのだ
「…サエちゃんさあ…そんな目で私を見ないでよ。逆に失礼だよ。
王子のハートを射止めたんだからさ。もっと堂々と幸せそうにしてくれない?
等もさ、サエちゃんを他の女のように、軽々しく扱わないでよね?
さっさと終わらせたりしたら、許さないからね!」
そう言い捨てて、講義室から駆け出して行く恵
その恵を追いかけて行く誠…
誠の事はもちろん、恵が等を思い続けている事さえも
周知の事実だった講義室内は、様々な怨嗟の感情が渦巻き始めた
「サエってさ、いつも、なんだかんだ恵ちゃんにくっついてさ。
そのくせ、恵ちゃんから等を奪うとか、酷くない?」
「ホントは、誠が好きだったよね、あの子。
健気な顔して、尻軽女よね」
「調子にのっちゃって。等があんな子、マトモに相手するわけないのに(笑)」
………一方、こちらの2人は・・・
「恵、お前さ。等との追いかけっこも、そろそろ諦めたらどうだ?」
「…!…//////」
追いかけてきた誠に指摘され、悔しそうに俯く恵
「…等が私を受け入れてくれない事くらい、分かってるよ。
でも、それなら私は、好きでいることも許されないの?
等に、どうして欲しいとか言ったりしないし、
サエちゃんの事も、良かったねって言えるよ?」
「いや、俺はさ。お前が誰を好きでも構わないんだよ。
それでお前が楽しそうに笑ってくれるならさ。
でも、苦しくなってまで頑張る事じゃないだろ?」
相変わらず、恵の髪を優しく撫でながら
諭すように語って聞かせる誠
「…ムカつく…誠のくせに…(笑)でも…ありがと」
わざと悪態をついて、スッキリしたのか笑顔を見せる恵にホッとして
誠はその場を離れる
しばらくの間、廊下の階段に座り込み、考え込んでいた恵
すると、吹き抜けになっているアリーナから、
ボールを叩きつける音が聞こえてくる
何とはなしに、その音に惹かれ、観覧席に向かい覗いてみる
ひとりの男が、黙々とシュート練習をしていた
単調なリズムでドリブル、ターン、そしてシュート…
鮮やかすぎる身のこなしに、思わず見惚れていた
(…たしか…経営工学科の…山岡って言ったっけ。凄いな…)
学科が異なるが、同じ講座を受けることもあり、顔は知っていた
そして、少なからずその名を聞いたこともあった
(山岡って、あいつスゲーよ。運動神経抜群。この大学に入ったのも
スポーツ推薦だったらしいな。特にアルペンスキーは…
オリンピックも狙えるほど、なんだってな)
…たしかに、凄い。他の人と全然違うわ…
しばらくの間、山岡の事を見続け、ハッと気づいてその場を立ち去る恵
講義室は、さらに不穏な空気が満ち溢れていた
「恵ちゃん、サエのこと嫌いでしょ?
それなら私らも、あの子を許すなんて出来ない
前から大嫌いだったしね」
行き過ぎた怨嗟や嫉妬、それらが刃となり
サエを集団で無視するようにまでなっていた
「…私にとって、サエちゃんは恋敵。
だから、ちょっとは嫌だなって思ってる。だけど、周りの皆は何なの?」
恐ろしい集団心理に、却って冷めた目で見ている恵だが
「それなら自分がサエと仲良くすればいいの?それも違うんじゃない?」
複雑な乙女心の事情もあり、さすがに悩み始めた
一番、恐れていた事なのだ
(等は…皆が思ってるような軽薄な人じゃない。
誰よりも優しくて、カッコいいから好きになったの。
等の事を、寄ってたかって悪者にしないでよ………)
等が、誰でもいいからと相手にしたわけではなく
サエだから選んだ。
その事を誰よりも理解している恵
だがそれは、恵がどうしても言いたくない事だ
意地もある。
どうにもできない時間だけが無駄に過ぎて行き
サエはどんどん暗い顔になっていくのだ
そんな中、講義室の中で見知った顔に気づく恵
「…あ」
そーっと近寄る恵に気づいて、相手は気さくに笑顔を見せる
「よお。」
「うん…山岡くん…だよね。」
朗らかに微笑む恵に、山岡は頷きながら話を続ける
「晃《あきら》でいいよ。俺も『恵』って呼んでいい?
一応、同級生だし。よろしくな」
「そう?…分かった。晃ってさ、スポーツしてると
全然印象が違うね。すっごくカッコ良かったよ♪」
「(笑)なにそれ。普段の俺は範疇外ってことか♪」
「そんな事ないよ💦ごめんね、言い方間違えた(笑)」
恵の言葉に笑いながら、楽し気に切り返す晃
慌てて手を振り、フォローする恵も、なんだか楽しくなっていた
「…等には負けるか。仕方ないよな♪ま、それでもいいや。
先日は、熱い視線をサンキュー♪」
「…ダメな女って思うでしょ?好きになってもくれない相手を
ずっと諦められなくて、迷惑だよね…最低だよね…
私、本当に自分勝手で、重いよね…」
誠以外の男に、等の事を面と向かって言われるのは珍しかった
恵は初めて冷静に、自分の気持ちを打ち明けていた
「そんなことないじゃん。等だよ?カッコいいもんな。
男の俺でも、カッコいいって思うし。お前が惚れるのも、分かるよ」
「…!…」
「良い奴だよな。あいつ。等の事をずっと好きでいる
お前の事も、俺は凄いと思ってるよ」
「…そんな事ないよ。しつこいって、皆から言われてる。
誠にだって…もう、諦めなきゃいけないって、分かってるのに…」
「諦める?何を?そんな必要ないだろ。
いつまでだって、好きでいたら良い。無理して嫌いにならなくて良い。
それは、恵の宝物だろ?大事にしないとな」
「………」
「それでも辛いなら、また俺の所に来ればいい
等ほど、虜にさせられる自信はないけど(笑)
俺がお前を、満開の笑顔にしてみせる。任せな♪」
「…いいの?晃のカッコいい姿、また見たいかも♪」
この時以来、アリーナの観覧席に足蹴く通うようになった恵である
数日後、いつものように席に座るが
誠は恵の髪に触れる事もなく、静かに見守っていた
そんな誠に、恵が振り向き、声をかける
「誠…ありがとね。私、等を追いかける事、やめたよ。」
「!…そ、そうか…?良かった、
俺、お前に酷い事言ったって、気にしててさ…」
「ううん。あの時、あんな風に言ってくれたの、誠だからだよね
私の事を思って…感謝してる。ありがとう」
「…よく決断したな。偉いぞ!!」
屈託のない笑顔で、恵の髪をワシャワシャと撫でる誠
「…それで?どうするんだ?誰か他に良い奴、いるのか?」
…それは、誠?それとも…
チラッと考えつつ、静かに笑う恵
「…そうだな…自分勝手な恋は、少しの間、お休みかな
また、好きって思える人に出会うまではね♪」
そんな恵を、誇らしげに見つめる誠
「うん。俺は、そんなお前の事をずっと見ててやる。
だから、俺に遠慮したりしないで、お前も堂々と幸せになればいい
間違えて俺の所に来てくれたって、全然構わないよ♪恵ちゃ~ん♪」
「…(´∀`*)ウフフ…バーカ♪そんな手には乗らないよ♪」
楽し気に語り合う、誠と恵…
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