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  • 執筆者の写真: RICOH RICOH
    RICOH RICOH
  • 2024年12月9日
  • 読了時間: 7分

「…!!!!!!」


ガバっと起き上がる

動悸が治まらず、いやな汗をかいている

部屋の中を見回し、深いため息をつく

(まただ…何度目だろう…嫌な夢…)



もう一度、ため息をついて、ふと気がつき

周囲を見回す


(……?…)


そこは、魔界高等専門学校の校舎でもなく

眩い光一色の天界でもなく

薄暗がりの中に、ほのかな光に包まれて

夢見の悪さを一瞬で忘れさせてくれるような

安心感が漂う空間だった




「…あら。312番。お目覚め?じゃ、休憩終わりね。はい、これ」


すぐ隣で作業していた女性が気づき、ラディアに手渡した


「…え、あの…」


受け取りながら、不思議そうに首を傾げるラディア


「もう…まだ寝ぼけてるの?まあいいわ。ほら。こうやるの。」


いくつかの繊維を束ね、手の平で縒りをかけ、次々に巻き取って行く

紡がれた糸が五線譜のように空間を漂い、その中央に飾られた

単衣の襦袢に変化していく


「…ありがとうございます💦あの、先程、数字で呼ばれたけど

あなたは?」


「私たちに名などないの。でも、貴女だけは最高魔様たちに

そう呼ばれていたから…」


「!…そ、そうなんですね💦」


「あなたが呼びたい時は、“リーフ”で良いわ。

あちらはスタンプ。それから向かいにいるのがブランチよ」


ラディアは慌てて頭を下げ、それぞれに会釈する


「魔界には2つの名が存在するのよ。ひとつは大魔王様から

お許しいただく名前。もうひとつは、自分の魂に宿している名前」


「…そうでしたか…」


初めて知る話に、素直に聞き入っているラディア




「私たちが自然と始めた糸紡ぎを、イザマーレ様とウエスターレン様が

お認め下さって、イザマーレ様の御屋敷の地下を、

こんな風に提供してくださったのよ」


「あちらの方で、糸車を運び込んでらっしゃるのは

別の種族の方たちね。あまり会話はできないのだけど…」


「リリ様は、本当にたくさんの民衆にも

慕われてらっしゃったから…」



(………)


ところどころ、意味が分からず無言になって聞き入っているラディアに

気づかず、井戸端会議のような会話の花を咲かせる彼女たち


その時、入り口の扉が開き、紅蓮の悪魔が颯爽と姿を現した





ラディアが目を覚ましたちょうどその頃

はるか地上にあるイザマーレの屋敷と隣接する文化局の森では

最高魔軍によるお茶会が催されていた


イザマーレの心境を慮り、欠席でも仕方ないと

思っていたが、届いたのは参加するという吉報

ラァードルの他にダンケルも嬉々として駆けつけ、

久しぶりに穏やかな時間を過ごしていた


話題と言えば、年中ひっきりなしに発生する悪魔のたまごや

天界や人間界から送り込まれる霊魂の行く末についてだ


「そういや、レオンから噂を聞いたんだがな」


紫煙を燻らせながら、思い出したように話し出すウエスターレン


「天界から堕ちてきた者の中で、妙な奴がいるんだと」


「…ほう?」


天界を己の棲み処としていた者など、初めから相容れぬ存在だ

中には僅かに魔力を有したままの天使も少なくない

基本的には、魔界に入り込んだ時点で即処刑。

これが大原則となる現在よりも、はるかに昔だった当時は

丁寧に審判にかけ、記憶をすべて抜き取り、人間界に捨てるか

最悪拷問所に永久投獄されるか、そのどちらかであった


含みを持ったウエスターレンの口調に、イザマーレは

興味を持ち、その先を促す


「魔力はほんの僅かで、たいしたレベルではない。

早急に人間界行きだろうと判断したんだが、

何故だか抜き取り出せない記憶のコアが残ってるようなんだ

レオンが魔術を駆使しても、強固に掛けられた鍵が外れんのだと」




「…それで?そいつの処遇はどうなったのだ?」


「対応に苦慮している間に、目を覚まして

拷問所の局員や雇われ魔たちと一緒になって

地下の糸紡ぎに参加するようになったらしい」


「………」


一瞬、怪訝な表情を浮かべるイザマーレに気遣い

ウエスターレンは続ける


「もちろん、そこで何かしでかせば、即座に対応する

だが、何故だか森の精霊たちに受け入れられて

彼女たちの言葉には真摯に耳を傾けている」


「…!……」


イザマーレは驚いて視線を泳がせるが、すぐに押し黙る


「そいつが頑なに守っている記憶のコアとは

我々にとっても、何か大事な秘密なのかもしれない

…そういう事か?」


静かに呟くイザマーレの髪を撫で、目配せするウエスターレン


「…ダンケル…どうなの?」


新しいお茶を注ぎながら、問いかけるベルデ


「…見極めるまでは何とも言えんな。

だが、イザマーレが知るべき大事な情報であれば

何としても開示させる必要があるだろう。

私で良ければ、力を貸すぞ?」




ヨッツンハイムから脱出を遂げ、魔界において

再び自らの元で忠誠を誓い続ける、最愛の臣下

イザマーレに対し、何でも良いから力を貸してやりたい


それは、大魔王として君臨し続けるダンケルが

いつでも心に抱く願いなのだろう


「ウエスターレン。そいつの居場所を知っているのだな?

私を案内せよ。良いか?イザマーレ」


「陛下の御所望とあれば、勿論です。

ウエスターレン、よろしく頼んだぞ」


イザマーレの返事を受けて、ダンケルとウエスターレンは立ち上がる


3魔のやり取りを聞きながら、ベルデは魔法陣を出現させる


刹那―


森の中は元の穏やかな静けさを取り戻していた…




査問―


「……」


ウエスターレンの指示を受け、

拷問所の局員がラディアの元に近寄る


「312番。立て。

今からお前の査問を行うとの事だ。ついてこい」





局員の後をついて行くとウエスターレンと

ダンケルが待ち構えていた


「ダンケル陛下。こいつです」


形式的に遜り、頭を下げるウエスターレンに

ダンケルは退屈そうに合図して

ラディアを正面に来させるよう指示する


「………」


またか…

ようやく自分に対する処遇が決まり

判決が下されるのだろう…


いろんな記憶が錯綜し、諦めにも似た心境で佇むラディア

だが、冷徹な目で見つめるダンケルに、これまでとは違う印象を抱き

逆らって逃げ出すどころか、身動きすら取れずに立ちすくむ


一方、ダンケルは…無言のまま、

ラディアの脳裏に浮かぶ心象を見つめていた


かつてイザマーレの妻として

自分の前に堂々と立ちはだかった女、リリエルに対する

天使どもの卑劣極まりない行為の数々、そして、ある日付…


(………)


イザマーレを取り戻した今となっては、

ダンケルにとっても忌むべき記憶であり、とるに足らない事案だ


次第にラディア自身、落ち着かない気分になり、思わず問いかけた


「…どうして?」


壁に埋もれる程の小さな声


だが聞き逃さずに、声の主に視線を合わせるダンケル




「なぜ誰も、私に問いかけてくれないの?

なぜ、私に沈黙させたままなの?私は…」


ラディアの告白をじっと聞き続けるダンケル


「何のために生きてるの?

問いかけてくれなきゃ、話す事ができない

彼女の事を、貴方なら知ってるんじゃないの?」


「…誰のことだ?」


「しらばっくれないで!!アンタたち悪魔が、

やたら大事に守ってたはずよ!!それが、どうしてあんな…に…」


ムキになって噛み付きながら、泣き出すラディア

涙を手で拭い、しゃくり上げながら、話を続ける


「あんな…に…悲しい涙を…初めて見たわ…

…なによ、それなら打ち明けなさいよ!!

何でも話してくれれば良かったじゃん!!!…あの馬鹿!!」


(…なるほど…)


ラディアの言葉に、ダンケルは確信した


ゼウスがラディアを見限り、堕天させた訳を…


天界でリリエルの解き放つオーラに触れた直後に起きた

痛ましい事件の事を、目の当たりにしたラディア


ショックの余り、自我を覚醒してしまったのだ


欺瞞と虚構でしかないゼウスの呪縛が効力を持たなくなり、

追放するしかなかったのだろう




「…私は…そんなにも必要ない?

居ても意味がないなら、さっさと消滅させてよっ」


「…なるほどな。どうしようもない程の甘ちゃんだな。

ひとつだけ良いことを教えてやろう。

世界にとってお前が必要なのか。

その方程式は、一生解けない愚問という。

お前にとって大事なものは何なのだ?

そこから目を逸らしてはいけない。

生きる意味など、お前以外の誰かに決めさせるな。」






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最終章

魔宮殿― 部屋の中で、緊張した面持ちで 落ち着きなく右往左往… 椅子に腰かけて、服を握りしめては、また立ち上がり……… 顔は寸分前から引きつったまま、百面相を繰り返している 「…クスクス……ダイヤ様…」 遠慮なく笑みを零す使用魔たち 『間もなく来る。ダイヤ、落ち着け(笑)』...

 
 
 

……………… ……… … 重たい瞼を開くと、ぼんやりと映り込む無機質な壁 「…!………っ」 ハッとして、起き上がろうとするが、 身体が変に重く、身動きできない 仕方なく、視線だけを動かし、周囲を確認する (………) もう何度目だろう………...

 
 
 

一方、あまりのショックでラディアの記憶がフラッシュバックし 翼をもがれた痛みと、悪魔の恐ろしさに震え、その場から逃げ出す 時空で待ち構えていたのは、全知全能の神、ゼウス 怯えて震える我が子、ラディアを 美辞麗句で取り囲み、安心させ、眠りについたところで...

 
 
 

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