Ⅰ
- RICOH RICOH
- 2024年12月10日
- 読了時間: 6分
「お~っす、恵。今日も相変わらず、シケた顔してんなあ(笑)」
「…ちょっと!もう…それがレディに向かって言う台詞?」
講義室。
成績は常に学年のトップでありながら、
サラサラな長髪が周囲の目を惹きつける、なかなかのイケメンだ
すぐ後ろの席に座り、ポニーテールで結んだ髪を
クルクルと弄び、揶揄しながら話しかける誠に
毎度のごとくプンスカしながら苦笑いする恵
「はよ~っ お前ら、相変わらず仲いいな。」
鞄を肩にかけ、風を切るように颯爽と現れ
周囲に笑顔を撒き散らしながら、恵のすぐ隣に座る等
「…あの…恵ちゃん、隣の席空いてる?」
控え目な声で話しかけてきたのはサエ。
「サエちゃん!おはよう~♪勿論だよ(*´艸`*)
今日は調子が良いんだね。」
振り向きざまに眩しいほどの笑顔で応じる恵に
はにかんだ表情を見せて微笑むサエ
「うん。たまにしか来ないから、私の存在って忘れられがちで…
よく知らない人たちの傍だと何となく怖くて…💦」
サエが話している間にも、誠は常に恵にチョッカイを出し
その度に恵からの鉄槌をもらい、等はニヤニヤしながら眺めるだけだ
「…それで恵の隣をゲット出来るんだから、良いよな」
「誠…お前、毎回思うけど
それなら初めから堂々と隣に座ればいいだろうが。
わざわざ後ろの席になるのは何でだ?」
「ん?恵の髪で遊びたいから(笑)」
「…//////もう~ったく~💢」
等のツッコミに、シレっと答えながら
終始、恵の髪を触り続ける誠に
恵は突き放す事も諦め、青筋を立てながら
満更でもない様子…に見えるのだ
サエはひと知れず、ため息を零す
サエが恵の隣を選ぶのは、もう一つの理由があった
最初の講義で出会った瞬間から誠に恋をした
だが、恋の自覚と同時に失恋を味わう事になったのだ
講義室のど真ん中で
公然と恵に愛の告白をする誠
目を白黒させながら毅然と断る恵
周囲は騒めきながらも、恋に破れた誠を励まし
めげずに恵にアタックを繰り返す誠を
自然と応援する空気が生まれるのに時間はかからなかった
つねに話題の一等地。
かたや、存在すら忘れられそうな、影の薄いサエに
割って入る余地はなく、抱いた思いは心の奥で
冷凍パックしたまま保存させておくしかなかった
恵と2人きりになった時、それとなく聞いてみた事がある
「恵ちゃん、誠くんのこと、本当にいいの?
私、誠くんのことが好きだったけど、
ああもはっきりと言われちゃ諦めるしかないよ」
「うーん…恋ってさ。自分の事を好きって言ってくれるから
その人を好きになるわけじゃないのよね。
もっとこう…何て言うか、自分発生地だと思うのよ。」
「………」
「それに、あんな告白ってどうなのよ?
悪い奴じゃないって分かってるけど、今ひとつ真剣みに欠けるというか…」
「…本気じゃないってこと?」
「私があいつを好きでもないのに、こう言うのもなんだけど
だからこそ、本気の好きは、もっと別にあるんじゃないかな?って思っちゃう」
「………」
冷凍パックした割には、まだその想いから抜け出せずにいる
そんなサエに言わせれば、恵を見つめる誠のまなざしや
つねに髪に触れる誠の仕草には、恵への愛が駄々洩れに感じるので
ますます、腑に落ちない
「…ごめんね。エラそうな事言っちゃったけど、本当の理由はもっと単純。
私、他に好きな人がいるのよ。」
「!!…え、そうなの?」
「うん。これがまた、相手は全くの無しのつぶてで
私の事なんか、全然見向きもしてくれないの♪」
眩いオーラを纏う恵でさえも、思い通りにならない
そんな相手がいるんだ…
サエの心が、泡立ち始めた
それから、体調と相談しながら
大学へ行く度に、恵の事をこれまで以上に注視していたサエ
観察していれば、これほど分かり易い事はなかった
恵が常に視野に入れ、熱いまなざしで見つめる相手の事を…
数か月後
サエは再び、病室のベッドに臥せっていた
ちょうど同じ時、風邪をこじらせて入院してきた等と同室になり、
退屈しのぎにいろんな会話をしていた
「失礼します…お婆様、お加減は如何ですか?」
廊下越しに、聞き馴染みのある声がする
「恵だな…あいつの婆ちゃん、ここにずっと入院してるんだよ
あいつもああ見えて、大変なんだよな…」
ポソっと呟く等にハッとするサヤ
「…あいつだけは、軽々しく相手にしちゃいけない
俺には、そんな資格なんかない…そんな風に思っちまうんだよ」
「…等くん?まさか…等くんも、知ってるの?恵ちゃんの気持ち…
それだけじゃない。やっぱり等くんも、恵ちゃんを…」
つい、そんな聞き方をするサヤ
「…(笑)誠と同じくらいの勢いで、何度も直接言われてるし
知らないふりは出来ないよな」
「…!そ、そうなんだ…え、だけど、応えてあげないの?」
「俺さ、これまでは軽~い付き合いしかしてなかったのよ。
一度受け入れたら、いつかは終わりが来るだろ?
でも、あいつとは終わらせたくないんだ。
このままでいい。それならずっと、一緒に居られるだろ?」
「………!!…」
等の本音を知り、言葉を失う
それと同時に、浅ましい自分の欲に悪酔いしそうなサエ
「…終わっちゃうとしても、少しだけでも傍にいられるなら
すごく嬉しいと思うな…私には、全然ムリな世界だけど…
羨ましいな…」
俯きがちに引きつり笑いするサエに、等はその端正な顔で
目を細めて見つめ返す
「お前はまず、その「私にはムリ」っていう諦め癖を何とかしないとな?」
「!…//////」
思いがけない等の言葉に驚き、固まるサエ
等は、サエの強張る様子などお構いなしに
窓の外に広がる空を仰ぎ見ている
「…こんな狭苦しい病室なんか、さっさとおさらばして
早く外に行きたいよな。お互いに」
う~ん…と腕を持ち上げて、伸びをしながら
独り言のように呟く等
一つ一つの動作、全てが結晶のように輝いて
魅せられるって…こういうことなのかな…
そんな風に、ただぼんやりと眺めているサエ
すると、途端に振り返った等と目が合い
気まずくなって、慌てて目を逸らす
「おや~?面白い反応するね。ひょっとして今、俺の事
見とれちゃってた?」
「!…え…//////」
図星を刺され、ますます真っ赤になるサエ
「(笑)隠しても無駄だよ。俺、そういうのを察するのだけは
得意だからさ。」
自他ともに認めるプレイボーイである事を、隠そうともせず
あっけらかんと言ってのける等に、サエはますます追い詰められ
逃げ場を失ったウサギちゃんのように震えるだけだ
そんなサエに、ニヤッと笑いかける等
「別に、構わないよ。さっきも言ったとおり、こんな俺でも良いならね。
だが、そうだな…まずは一日も早く退院しないことにはな。
お前が無事に退院したら、その時は俺が、お前をどこかに
連れて行ってやる。約束な♪」
「えっ…本気で言ってる?」
驚きの余り、聞き返すサエ
「俺様と一日限りでもデートできるんだぜ?
それなら、『私なんか』っていう諦め癖を払拭できるだろ♪」
「…一日限りって…あー、そういう事か…」
不遜な等の言い草に、拍子抜けしそうになりながら
どこか心が軽くなり、自然と笑みがこみ上げてくるサエ
「…ありがとう…こんな私のことまで気遣ってくれて…
って、あ💦」
言いながら、眼光鋭く睨んでくる等に
自分の言葉を反芻して慌てるサエ
「…ご、ごめん…つい、口癖にもなっちゃってるのよね…
でも…うん。それじゃ、お言葉に甘えちゃおうかな?
本当に、約束してくれる?」
「…はいはい。分かったら、そろそろ休め。お前、もうすぐ
検査だろ?」
サエの反応に満足したのか、等はゴロンと寝そべり
退屈そうに欠伸する
そして逆向きに寝返り、再び窓の外を見遣る…
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