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  • 執筆者の写真: RICOH RICOH
    RICOH RICOH
  • 2024年12月10日
  • 読了時間: 3分

ほんの一か月前の事だった


等が怪我をして入院した時の事

待合室の椅子に座っていた時、隣の病室から出てきた貴婦人に気づく


おしとやかな風貌、くっきりとした目鼻立ちで

上品な所作は、高潔さを漂わせる。惚けている等に向かい

優雅に微笑む


「貴方…もしかして、等くん?

恵ちゃんが話してたわ。同じ病院に居るはずだって」


「…!…え…恵の…お母さんですか?」


貴婦人の言葉に驚き、聞き返す等に

口元をハンカチで塞ぎながら、クスクスと笑い出す彼女

そのあどけなさは、乙女のようにも少女のようにも見える


貴婦人の反応に眉を顰める等


数多くの女を相手にしてきた

自他ともに認めるプレイボーイ。その等が

いとも簡単に翻弄されている事を自覚する


「ごめんなさいね。夢を壊すようで申し訳ないけど…

私はあの子の…恵ちゃんのお婆ちゃんなのよ」


「!!…//////そ、そうだったんですか💦

あまりにもお若くて、全然、そうは見えませんでしたよ💦」


失態に気づいた等だが、それでも驚きを隠せない




「(´∀`*)ウフフ…今日は、私の母の…あ、恵ちゃんにとっては

ひいお婆さんね。その人のお見舞いに…お別れの挨拶をしに来たの」


穏やかな口調で話す婦人の言葉に、更に目を瞠る等


刹那


すぐ隣にいるはずの婦人が

軽やかな蝶々にでもなって消えてしまう


そんな錯覚を覚えた


だが、すぐ次の瞬間、打ち消す


(気のせいだ。きっと、ひいお婆ちゃんの方が、容体が悪いのかもな…)


ここは病院で、そこに長期入院しているお年寄りがいる事は

等の耳にも入っていた。そう考えるのが自然だ。

それなのに、何故今、自分は

目の前の婦人に死の影を感じてしまったのか………


バツが悪すぎて、そして、あまりにも縁起が悪すぎて

そんな事を思ってしまった自分を殴りつけたい

密かに拳を握り、感情の起伏に耐える等


その間、婦人はキョトンとした顔で

楽しそうに等の様子を観察していたが

今度こそ、まっすぐに視線を捉え、静かに口を開いた


「等くん…恵ちゃんの事を、どうか、よろしくお願いね」




数日後、怪我も無事に治り

退院した等は、いつものように颯爽と講義室へ向かう


「等…!…良かった。退院おめでとう」


いつものように明るく振る舞う恵に

等も笑顔で応える


「おう。ありがとな。そういや、お前の婆ちゃんに会ったよ」


「うん…聞いた。お婆ちゃんったらズルい。私より先に

等に会っちゃうなんてさ(笑)等が入院してたことは

私しか知らない秘密だったのにね♪」


「すっげえ驚いたよ。お前の婆ちゃん、すごい美人だよな

退院できたよって伝えてくれよな?」


そう言いかけた等の言葉に、恵は目を逸らし、俯いた


「お婆ちゃんね…亡くなったのよ。つい先日。」


「…え……」


目の前の景色が、モノクロになったかのような錯覚を覚えた等


「等に会った日は、別の病院から、ひいお婆様のお見舞いのために

一時外出されてたの。だから、私から等の退院を伝える事はできないけど…

きっと、見てくれてると思うな………」


目の前で涙を堪える恵を慰める事もできず

とてつもなく大きな喪失感に打ちのめされる等


次の瞬間


誠が恵に絡みつき、いつもの喧騒に戻って行った…




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