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Ⅲ オルビガーノ

  • 執筆者の写真: RICOH RICOH
    RICOH RICOH
  • 2024年12月11日
  • 読了時間: 5分

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イザマーレの懸念は、思い過ごしとも言えなかった

その後、ベルデや他の構成員にも紹介した。

オルビガーノの正体や、その目的は分からなかったが

少なくとも、最高魔イザマーレ族の長の敷地を気に入り

リリエルの傍でおとなしく過ごしているだけならば

特段、何の問題もないように思えた


第一、イザマーレの敷地になんの恐れも抱かずに居座る精霊を

他の悪魔がどうこう出来るわけもなく

ソラや他のちびっ子魔と同様に、リリエルの元に仕える

愛獣(ペット)くらいに捉えれば良いのでは…


というのが、ベルデの見立てだった


屋敷内の掃除をするリリエルの元に必ず訪れ

鍋や薬缶を丁寧に磨くオルビガーノの姿に

リリエルも、いつも以上にご機嫌だ


屋敷のいつもの風景、代わり映えのないスケジュールを

自然と把握して、イザマーレがリリエルと扉を消す時間は

きちんと巣に戻り、ジュースのガラス瓶を丁寧に磨き

藁を轢いた寝床に寝転がる


相変わらず、イザマーレのプライベートルームから

解き放たれるオーラに酔いしれながら

衣服のポケットの中から、あるものを取り出すオルビガーノ


丁寧に糊付けされた、お洒落な一通の手紙だった




オルビガーノは深草色の三角帽子を被り、

ピエロのような衣服を身に纏う小人サイズで

その容姿は幼子にも老人にも見える


だが実は、満月の夜になると、

普通の人間の背丈ほどに変化する


その容姿は性別を超越し、

精悍な美男とも麗しい美女とも言えるほどだ


オルビガーノが元居た世界―ミクロネア国を君臨する王ベローは

月光と夢を好物とし、その国の舞踏会や儀式などを

取り仕切る役目を担っていた。王には正式な妃ターニャが居たが

家柄を守る為の政略的な婚姻に過ぎず、夫婦仲は冷めきっていた


ある時、偶然目にしたオルビガーノの美しい姿にベローはひと目惚れ。

恋焦がれながら、その腕に抱けないもどかしさに、恋心は日増しに

膨れ上がっていく


あろうことかターニャも、ベローの目を盗んで抜け出した城壁で

偶然目にしたオルビガーノの精悍な姿に惚れ込んでおり

オルビガーノを巡って、夫婦同士で奪い合い、

喧嘩の絶えない不毛な日々が続いていた


オルビガーノには何の罪もない


いつの間にか、彼らの醜い争いの槍玉に挙げられていることすら

我関せず、ただ、そこに居ただけだ


その世界に居る誰もが、オルビガーノの昼の姿を捉えることが適わず

時には全く別の姿で彼らのそばに忍び寄り、醜い本音を

筒抜けで聞かれている事すら、まったく気づいていなかった




在りし日のオルビガーノに思いを馳せ

人目も憚らず、恋文を書いては心を躍らせる王


ある満月の夜、オルビガーノはこっそりベローの寝室に忍び込み

チェストに置かれていた手紙を盗み、代わりに別の紙を置いた


無意味な争いばかりの国王夫妻の元、領地は荒れ放題

オルビガーノは、意味のなさない悪戯な文字の羅列を

記した紙を置き、破滅を企てた


すべてが上手くいく…そう思いかけた時、事件は起こる


運悪く(良く?)、ベローが目覚めてしまい

その場に居たオルビガーノは捕らえられた


偶然は重なるものだ


その夜は、満月だったのだ


窓から差し込む月光に、美しい姿に変身を遂げるオルビガーノ


ベローは、恋焦がれたオルビガーノの美しい姿に驚き

堪らず抱き寄せ、すぐさまベッドに押し倒す


身体を押さえつけ、口唇を奪おうとした寸前

怯え、震え続けるオルビガーノの様子に、さすがに気が付いたベロー


「怖がらせたいのではない。ただ、愛しいお前を慈しみたい。

それだけなのだ…頼む…そんなに泣かないでおくれ…」


朝日に守られ、優しい声で慰めるベローの目の前で、

昼の姿に戻っていくオルビガーノ


「!!…まさか…私の愚かな行為のせいで、美しいお前は

その身体から逃げ去ってしまったのか…?!」




青褪め、自ら犯した過ちに、打ち震えるベロー


「…待ってくれ…行かないでくれ…お願いだ

この度の無礼、陳謝いたす。お前の望むことなら

何でも致す。だから…この国を…私を見捨てないでおくれ…っ」


ベッドの上で、キョットーンと不思議そうに見上げるだけの

オルビガーノだったが、過剰なまでに自らを責め、オルビガーノを

求める国王ベローの態度に、ほんの少し、心が揺れ動いた…かもしれない。


ちなみに…


もう一方の王妃ターニャに対し

オルビガーノの心が揺れることは一切なかった


なぜならば、王妃の前にひょこひょこと姿を見せる

昼の姿のオルビガーノに、遠慮ない侮蔑、誹謗中傷の言葉を

浴びせ続ける彼女の本質など、見誤るわけがない




オルビガーノは取り出した手紙を見つめ、ぼんやりと思いを馳せる


あの時、国王ベローは正式に、オルビガーノを側室として迎え入れる為、

晩餐会を催す予定だった。手紙には、舞踏会へ参加を促す言葉が

綴られていた


それ以来、悲嘆にくれたベローは

オルビガーノが残した紙に書かれた文字を忠実に編み込み

この世のシナリオを生み続けている


その結果が、人間界に出来上がった不自由で不可解な世界だ


王が好物とする月光と夢とは、すなわち、オルビガーノ自身であり

オルビガーノに対する国王ベローの愛は誠のものだと言えよう

オルビガーノ自身が、恋愛とは程遠い別次元の存在であっただけで

ほんの些細な、一夜の過ち(しかも未遂)など、オルビガーノとの別離とは

何の関係もない


慣れ親しんだ世界を離れ、旅先でたどり着いた、魔界…


精霊としての命のステージが、一歩先に進んだことにより

月の満ち欠けに引き寄せられた自然現象にすぎない


つまり


ピエロのような小人の姿で、可愛らしくジュースを嗜み

リリエルの横で、綺麗に鍋を磨くオルビガーノは間もなく

永眠の時を迎えようとしている


最期の地で巡り合った

無償の愛に寄り添う、夢と芸術を司る光の大悪魔イザマーレ

彼らのオーラに触れた事は、偶然なのか、奇蹟だったのか……


最期の審判で、オルビガーノに下される未来は…



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Ⅸ 右のフロアー

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Ⅷ 魔界時計の数時間前

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