Ⅱイザマーレの屋敷
- RICOH RICOH
- 2024年12月11日
- 読了時間: 5分
それからというもの、1階のキッチンの戸口に
素敵な贈り物が届けられるようになっていた
毎日ではないものの、割と頻繁に起きる、不思議な現象
贈り物の御礼にと、置かれたカゴの中に、
リリエル特製のジュースやクッキーを入れてみた
相手が誰なのか知らないので、何を好物とするのかも分からない
喜んでもらえるか気がかりだったが、ふと気づいた瞬間
カゴを覗くと、入っていたはずのクッキーとジュースの瓶が
なくなっていた
どうやら、受け取ってもらえたようだ
数日後
庭園のテラスにちびっこ魔を招き、ジュースとクッキーで
優雅なお茶会を催していた
ガラス瓶のコルクを開け、コップに注ぎ
焼き立てのクッキーを頬張るソラとリナ
ふと、視線を感じ、辺りを窺うと、
テーブル椅子の脚元に身を隠しながら
物珍しそうに見ている存在に気が付いた
「…?」
なぜだか、驚かせてはいけないと咄嗟に判断した2魔は
声は出さずに、それでも不思議そうに首を傾げていた
「…あら?お2魔とも、どうしちゃったの?」
クッキーのお代わりを運んできたリリエルが声をかけると
脚元にいた存在は「ハッ…」と身震いさせ、物陰に完全に隠れる
そして、恐る恐る、こちらを覗いている
「…!…あら…ひょっとして…精霊さん?」
リリエルの発した声に、最初はビクついていたが
柔らかい声色にいつしか聞き惚れ、キョトンと首を傾げて見返す
「もしかして…素敵な贈り主は、あなたじゃないかしら?」
精霊と、ちびっ子魔の様子を見比べて
何かを察したリリエル
「あ…そうか!私ったら、不親切でごめんなさいね💦
あのままじゃ、どうやって瓶を開けるのか分からず
困らせちゃったわね(^-^; さあ、どうぞ。
遠慮なさらず、お座りになって♪」
相手が精霊だろうが、獰猛な魔獣だろうが
リリエルの彼らに対する態度はいつも変わらない
あっという間に懐柔され、ドギマギしながら椅子に腰かけ
リリエルが注いでくれたジュースを、見よう見真似で飲んでみた
「(´∀`*)ウフフ…素敵な精霊さん。あなた、お名前は?」
「………」
ニコニコしながら問いかけるリリエルにドギマギしながら
着ている衣服のポケットに刺繍された文字を見遣る
「…h…o…r…b…さん?」
一文字ずつ眺めて、確認するリリエルに目を瞠り
真っ赤になって俯く
あまりにも胸がいっぱいで、自己紹介すら出来ずにいたが
精霊の名はオルビガーノ。ホビットやコリガンに似た種族なのだろう
旅の途中で見つけたお気に入りの場所に足繁く通う内
屋敷のキッチンから漂う良い匂いと、幸せそうに家事を行う
リリエルの物音に惹かれ、住みつくようになっていた
こっそりと忍び足で近寄り、
秘密の森で育てられた色とりどりの野菜を届けると
美味しい料理に作り上げてくれる、リリエルの仕草を観察しているだけで
オルビガーノは満足だった
ある時、いつものように野菜を届けに行くと
カゴに入っていたジュースの瓶とクッキーに、腰を抜かすほど驚いた
慌てて巣に持ち帰り、愛おしそうに瓶を抱き、丁寧に磨き始めた
月光に映し出され、神秘に輝くジュース瓶
……
…
いかにも美しく、神秘的に思えるエピソードだが、ちょっと待て。
屋敷の中から一部始終を把握してはいるものの、
楽しそうなリリエルの様子に水を差すのもどうかと、堪えていた。
だが次第にリリエルへの恋慕に変わりつつある精霊には、
ここらで釘を打っておくべきだろう
だいたい、リリエルが居るからこそ、楽園にも思える当屋敷ではあるが
ここは魔界。悪魔が支配する世界だ。
おかしいだろう…なぜ、この魔界に、精霊が住みつく?
古来より存在する文化局の森や、東にある野山など
花の権化、リリエルと独自のルートで交信し合う精霊は
確かに存在するが…それらと、今、リリエルと対峙する奴とは
あまり関係がないように思える
だいたい、魔界の森に棲息する精霊なら、
イザマーレの許可なく敷地内に侵入すること自体、有り得ない
彼らはもっと厳格で…と、まあ、それはさておき…
焼き立てのクッキーを頬張るオルビガーノを、
楽しそうに見つめるリリエルの元へ瞬間移動するイザマーレ
途端に身震いし、その場から姿を消し去るオルビガーノ
「…おやおや。何やら楽しそうだから、吾輩も混ぜてもらおうと思ったが…」
突然現れた副大魔王の姿に、腰を抜かし
慌てて逃げ去ったのだろう…他愛もないな、とほくそ笑み
リリエルのすぐ隣に座り、髪を撫でる
だが…
「クスクス…大丈夫ですよ。ビックリして、
慌てて隠れたつもりでしょうか…ぷっ…((´∀`))ケラケラ」
身に纏っていた衣服の裾が、不自然に見えてしまっているのを
指さし、リリエルはお腹を抱え、笑い転げている
ここでさらに驚かせたり、嫌がらせをするのも大人げないし
何より、リリエルに睨まれそうだ(苦笑)
「…そうか。驚かせてすまなかったな。逃げなくても良い。
吾輩も、お茶の仲間に入れてくれないか?」
怒りのオーラを静め、穏やかに声をかけるイザマーレに
オルビガーノはそぉーっと姿を現し、様子を窺っている
「…!…」
…あの御方だ…
数日前、はじめて屋敷のキッチンに野菜を届けた時
リリエルの隣に居て、リリエルを愛おしそうに抱きしめていた
その途端、屋敷から放たれる強大なオーラが
オーロラのように輝いていた事を、オルビガーノは覚えていた
「やれやれ…イザマーレ。俺も同席させてくれ」
途端に姿を現し、当然のようにイザマーレの隣に腰かけ
紫煙を燻らせるウエスターレン
改めて、目を丸くして驚くオルビガーノに
ウエスターレンは八重歯を覗かせ、ニヤッと笑いかける
「…よくは知らないが、どうやら君に、我々の住む
この屋敷が気に入られてしまった、という事だろ?
俺はウエスターレン。よろしく頼むな」
「…//////」
一瞬、目をパチクリさせて目の前の悪魔を
不思議そうに眺め、一転、気を取り直し、リリエルが注いだ
ジュースを再び飲み始めるオルビガーノ
その仕草の愛らしさに、さすがのイザマーレも表情を緩め
指先でちょっかいを出して遊び始める
「気に入る、気に入らないはお前の自由だが。ここは吾輩のテリトリーだ。
オルビガーノといったか…念のために断っておく。
リリエルは、吾輩のものだぞ♪…どうやら結界をすり抜けて侵入したのか、
あるいは、この敷地内で自然発生したのか…」
「そうだな。一応、ベルデにも調べさせよう」
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