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  • 執筆者の写真: RICOH RICOH
    RICOH RICOH
  • 2024年12月9日
  • 読了時間: 5分

奈落の底に落ちていくような、朦朧とした意識の中

その瞳に映り込む、幻想的な光景………


けたたましく鳴り響く、時を告げる鐘

目を覚ました途端、ハッとして起き上がる


そこは、強烈な光一色の眩しすぎる世界

行き交う者は皆、服装、髪型、容姿までもがそっくり同じ


ただし、例外がある

分厚いクリスタルの壁に覆われた、ここ

城内だけは、常に忙しなく動き回る多くの下僕で

ごった返している


「…」


ようやく寝台から起き出し、窓から外を眺める


「…なに…ここは…どこ…?」


ぽつりと呟いたその時、ドアを激しくノックする音


「おい!!いつまで寝てるんだ!!さっさと持ち場につけ!!」


「!…は、はいっ…」


怒鳴り散らされ、よく分からないまま慌てて返事をして

部屋から飛び出した


城の地下に無数の天使が集められ、

中央に鎮座する機械から運び出される品を

等間隔に次々と梱包していく


それは、この世界を束ねる全知全能の神、ゼウスを崇める為に

作り出される若返りの秘薬だ




「…あら。ラディア。今日も寝坊?良い御身分ですこと」


「す、すみません、つい…」


「そうやって、ルールを逸脱してばかりだと、上官殿の覚えも悪くなるわ

御上に謁見するなど、夢のまた夢ね。」


ラディアのいるグループの中で、最も品が良く

次の側室候補とまで言われている女の発言に

周囲も鈴なりのように笑い転げる


「………💦」


バツが悪く、引きつり笑いをしながら、すぐさま持ち場に入り

作業に当たるラディア


そこへ、上官が姿を現した


「あら。koji様…どうかなさったの?」


すかさず代表格の女が視界に捉え、声をかける


「お前たち、グループのメンバーは全員、俺について来るように」


言われるがまま、向かった先は上階。廊下に無数に設置された

小部屋の一室だった。


何重にも施錠された鍵が外され、がらんとした室内は埃まみれだ


「どなたか、新しく入室されるのですか?」


「そうだ。お前たちには、この部屋の清掃と内装の準備を命じる。」


「ハレルヤ。承知しました」




その日の夕刻


ラディアたち数名が設えた小部屋に、1名の女性が連れて来られた

複数の兵士に囲まれ、拘束された両手を布で覆われている


着ていた服は既に身ぐるみをはがされ、身体中に刻印された

無数の痣を隠すように、宛がわれた粗末な服を着ている


周囲の視線に恥じらい、なんとか傷を治癒させようと試みるが

魔力をすべて奪われ、それさえ敵わない


だが…



ラディアは、入室した女性の食事の世話をするよう命じられ

一度だけ、女性の姿を垣間見て、衝撃を受けた


(…Anye…?なぜ、こんな場所に…?)


記憶が錯綜し、ラディア自身も混乱しているにも関わらず

本能が警戒信号を発令し続けているのだ

それが何故なのか、それすら覚束ない


ゼウスの側室選びという

チキンレースを繰り広げる下級天使たちの目には、

なんてことない、ただの侍女以下に映る彼女


それでも


小窓から覗く空に闇夜は訪れず、探せない月光

止まらない涙を拭うこともなく、静かに祈り続けるその姿は、

そんじょそこらの下級天使など寄せ付けないほどのオーラを纏う

笑顔を忘れたその瞳に宿す光の強さにも圧倒されるのだ




「あの女性は…?」


地下に戻る時、尋ねたラディア


「リリエル様だ。いいか、余計な詮索はするな。」


「…リリエル…?」


「お前!!呼び捨てにするとは何事だ!!

御上の側室であらせられる。控えろ」


初めて耳にした名前。思わず聞き返したラディアに

kojiは血相を変えて怒鳴り散らす


「はあ?…へー…そうなんですね…

彼女によく似た女性を知ってるんで、つい」


あまりの剣幕に引きつり、慌てて取り繕うラディアの言葉尻を捉え

不思議そうに振り返るkoji


「…いつのことだ?」


「?…過去の時代ですよ。魔歴∞年…」


「!!」


kojiは驚き目を瞠る


「…お前、タイムトラベラーだったのか?」


「はい?何を意味わかんないことを?」


会話の流れからして、冗談とは思えないのだが

問われたラディアも不躾に聞き返す


「タイムトラベラー?違いますよ。グループの皆さんで

過去に行かされたじゃないですか。その時、会ったんですよ」




「…ゼウス様の特命で?…」


ぼそりと聞き返し、思案気に黙り込むkoji


「…上官?」


今度こそ不思議に思い、呼びかけるラディアに

kojiはさらに声を潜めて告げる


「いいか。その事は口外禁止だ。掟を破ったら命はないものと思え」


………………

………


場面は一転


ラディアの耳にこびり付いて離れない、断末魔の叫び

磔され、処刑された骸から流れる血の海………


主を喪った小部屋の後片付けを命じられ

ラディアは再び、城の上階へ向かった

その時だった


「大元を消滅すれば、全てが無に還る。

私の心にぽっかりと大穴を開けたまま、意に背く悪い子には

大罪を与えなければならないね。」


「………」


「おやおや…こうして丁寧に問うているのに

返事をしないとは…困ったものだ」


ゼウスの力に拘束され、踏みつけられているのは

ラディアの上官、kojiだ





「仕方ないね。」


ぼそりと呟き、kojiの口の中に手を差し入れた途端

指先を変化させ、体内を串刺しにし、心臓を捻り潰す


壁に飛び散る血しぶきが、次々と変化し

ある数字を浮かび上がらせる



………


一部始終を壁越しに見聞きしていたラディアは、

動悸が激しくなり、手元の震えを抑える事ができなかった

なるべく物音を立てないよう、配慮する事も出来ず

前後も分からないまま、その場を逃げ出すように立ち去る




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最終章

魔宮殿― 部屋の中で、緊張した面持ちで 落ち着きなく右往左往… 椅子に腰かけて、服を握りしめては、また立ち上がり……… 顔は寸分前から引きつったまま、百面相を繰り返している 「…クスクス……ダイヤ様…」 遠慮なく笑みを零す使用魔たち 『間もなく来る。ダイヤ、落ち着け(笑)』...

 
 
 

……………… ……… … 重たい瞼を開くと、ぼんやりと映り込む無機質な壁 「…!………っ」 ハッとして、起き上がろうとするが、 身体が変に重く、身動きできない 仕方なく、視線だけを動かし、周囲を確認する (………) もう何度目だろう………...

 
 
 

一方、あまりのショックでラディアの記憶がフラッシュバックし 翼をもがれた痛みと、悪魔の恐ろしさに震え、その場から逃げ出す 時空で待ち構えていたのは、全知全能の神、ゼウス 怯えて震える我が子、ラディアを 美辞麗句で取り囲み、安心させ、眠りについたところで...

 
 
 

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