Ⅳ 交錯
- RICOH RICOH
- 2024年12月14日
- 読了時間: 5分
………………
人間界へ一時帰りを済ませ、長い階段を昇りきり
私はいつもの扉を開ける
丸太小屋は、いつも穏やかで、静かな空間が保たれている
手を洗い、うがいを済ませて、書斎にしている木机の前に座ると
ふと、あるものに気づく
「…あれ?」
置いたままにしていた真っ新な原稿用紙に、
知らない文字が書き加えられている
「…?」
改めて、その内容を確認するが、明らかに自分が執筆したものではない
いつの間に…誰が…?
不思議な現象に、首を傾げて考え込んでいると
奥の襖に光が射し込み、異空間への旅を終えた
お馴染みのメンバーが顔を出す
「こんばんは~。里好、お邪魔しま~す」
「あ、リリエル…てか、お邪魔も何も…ただ通り道なだけでしょ。
遠慮しないで、自由にお使い下さいってば…💦」
相変わらずなリリエルに、苦笑しながらお茶を淹れる里好
「…お揃いで。今日はどちらに行ってきたの?」
よく見たら、リリエルはいつもよりもラフなトレーニングウェア
イザマーレも合わせた様にラフな格好だ
言葉では恐縮している素振りを見せながら、
いかにも聞いてほしそうな表情をしているリリエルは
里好の問い掛けに、嬉しそうに微笑む
「今日は一日、オフだったからな。人間界に行って散歩してきた」
「!…え。すごい…わざわざ、人間界まで?」
「(´∀`*)ウフフ…いつも同じコースじゃ飽きちゃうし
閣下はお忙しいから、皆のように小一時間や丸一日のオフは
難しいけれど…」
「魔界では、ほんのわずかな時間でも、人間界に行けば
有効に使えるからな」
嬉しそうなリリエルの髪を撫でて、イザマーレも笑う
「前回はお屋敷の周りをぐるっと一周したけれど…いつの間にか
市場に居る悪魔さんや、ベロチーバ様の領地から遊びに来てる悪魔さんたちも
みんな一緒になって…(´∀`*)ウフフ」
「そっか…(笑)そりゃあ、副大魔王閣下とお妃様の、こんなラフな姿を
間近で眺められるなら、みんな、喜んで参加しちゃうでしょうね♪」
「(笑)そうだな。だが、自然と足腰の強化にも繋がるし
ダンケル陛下もお悦びだったな。」
「陛下も…?すごいわ(笑)」
「あの日は凄かったの…たまたま行った空き地に、
ラァードル殿下とスプネリア様がいて、秘密の通り道を教えてもらって…」
「ああ、そしたら、セルダがハルミちゃんとプルーニャ連れて食事してたな(笑)」
「…そのことだったんだ…」
「ん?里好、どうしたの?」
何かがピーンときた里好が呟いたのを聞いて、リリエルがキョトンと首を傾げる
「あ、ううん…実はね。ちょっと気になる事があって…」
顔を見合わせるイザマーレとリリエルに、先程見つけた原稿用紙を渡す
「閣下、ごめんなさい。この場所は、閣下の私有地なのに
いろんな世界と繋がる階段が、無数にあったりするので(^-^;
普段は鍵をかけていません。なので…誰かが入り込んだかもしれません」
「…え、閣下…これ…」
内容を読んで、リリエルは驚きを隠せない
「…里好の描く世界を踏襲しているようで、全く違う世界を生み出しやがったか」
冷静に判断を下すイザマーレを、心配そうに見つめるリリエル
「里好がこちらの世界に来て、数年…それまで里好のそばに居たあいつは
すでにダイヤと一体化しているはずだな。ま…それでも、可能性はあるわけだ。
無責任に、不用意に呟く言葉の数々が、己のコピーを無数に生み出す
いい加減にしないと、取り返しのつかない事になると、あれほど伝えているのにな…」
厳しいイザマーレの言葉に、リリエルは改めて内容を吟味する
「それにしても…彼女?でいいのかしら…
この方の思い描く魔界って…ダンケル陛下も、閣下も…構成員の事を
いったい、何だと思ってるのかしら…」
「…だろ?それでも、こいつの中では真実なんだ。
そんなくだらん世界で、いくら探しても我々には辿り着かない」
「…閣下…では、どうしたら良いでしょうか…」
イザマーレの言葉を受け止めながら、里好は問いかける
「…そうだな。好きにさせてやれ。里好には鬱陶しいかもしれないから
この場所は吾輩が守ってやる。今回、吾輩が手を貸すのは、これだけだ」
「…いくら『彼女』でも…放置できないほどの罪は、見過ごせません」
内容の陳腐さに、実は怒り狂いそうなリリエル
イザマーレは彼女を抱き寄せ、髪を撫でて落ち着かせている
「大丈夫だ。そんなくだらんレールに乗っかる必要もあるまい。
吾輩が、直接手を下さなくても、世界はそいつを許さんだろう
魔界は、それほど甘い世界ではないし」
まだ腑に落ちない表情のリリエルを、抱きしめて落ち着かせる
「吾輩も、陛下も…我々、最高魔軍は、そんなにヤワではないぞ♪」
その時、窓枠から覗き込む存在
「!…あ…あのっ…副大魔王様…お妃様っ」
「…あら、あなたは…」
声を掛けられ、リリエルは振り返る
丸太小屋のそばに在る市場で、自警団を作っている低級魔だ
「あ…あの…すんません…昼間に美味しい果物が手に入ったんで
お妃様にお届けできないかと、小屋に居る、その…あんたさんにも
報せに来たんです。そしたらさ…」
必死に伝えようとしている為か
ところどころ言葉遣いがおざなりになる低級魔
だが、イザマーレは咎める事をせず、じっくりと耳を傾けている
「いつもいる、あんたさんじゃなくて…別の奴がいたんだ
ウニみたいなツンツン頭で、男だか女だかも分かんないような…
だ、だけど、そいつって…いつも副大魔王妃様から聞かされている
だ…大魔王陛下の…なんだろ?」
「ああ。よく分かったな。その通りだ」
「勝手に入り込みやがって…怒鳴りつけてやりたかったが
ウニ頭の大魔王后様なら、そういう事をしちゃいけないって…
でも、おかしくねーか?副大魔王様の私有地だろ?
勝手に無断で…そんなこと、許せねーよ」
「…ご、ごめんなさい。いつもは事情があって、鍵をかけないので
どなたでも入れるようになっているから…」
慌てて取り繕う里好に、低級魔はやや落ち着き、鎮まる
「…あんたはいつも、静かにここに居るだけで
俺たちに酷い事もしない。そういう人間に、俺たち悪魔は悪さをしない。
鍵をかけないのは、俺たちを信頼してくれているからだろ?」
「…なるほど、お前もかなり、成長したな。
お前の言う通り。里好はそういう奴だ。」
「!…//////」
ふいに、イザマーレから褒められ、真っ赤になる低級魔
「驚かせて悪かったな。お前たちはこれからも、里好の周辺を
護ってやってくれ。頼んだぞ。それから、今後、同じような事が起きた場合
その対処については、お前の判断に任せる」
「…!…はいっ…畏まりました」
最敬礼で受け止める低級魔
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