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Ⅱ 休日

  • 執筆者の写真: RICOH RICOH
    RICOH RICOH
  • 2024年12月14日
  • 読了時間: 8分

今日は久しぶりの休暇。


魔界では、しかも情報局という部署にしては珍しいが

ここ最近、満月の夜を過ぎるとやけにご機嫌麗しい長官殿の特赦なのか

過酷な労働環境では生産性があがらず、非効率である事を説き伏せ、

パズルのように組み込んだスケジュールを調整し、

一週間の内、一日はオフを作る事。さらに、

一日の内、小一時間の休息時間を設けることを義務化させた


人間界のヨーロッパで習慣化されている、シエスタのような時間だ


急にそんな事を言われても、ぽっかりと空いた時間を

有効に使う手段を考えるのも、個悪魔によって、向き不向きがあるようで…


そんな僅かな休息時間に、余計な事を考えるより

仕事をなんぼか進めた方が、良いに決まっている

生真面目で、融通の利かないダイヤは、いまだに

デスクから立ち上がる事すら苦手だ


「ダイヤ、いい加減にしろ。お前が休息を取らなければ

上司である俺も休めない。午後はリリエル様の警備があるんだ

さっさと何処かに行きやがれ」


「す、すみません💦」


ウォルに手厳しく指摘され

ようやく何かしようと立ち上がる頃には、

同じスケジュールを組まれた局員たちは誰も残っていない


「…誘ってくれたっていいじゃん…」


引きつりながら、ブツクサと呟き、かったるそうに持ち場を離れ

街並みを物色しに行く




最初の頃は、もちろん、誰もがダイヤに声を掛けていた


だが返って来る答えはいつも同じ


「ごめんなさい。まだ仕事が終わらなくて…やっちゃいますから

皆さんで行ってきてください」


「ダイヤさん…それをしないっていうルールだろ?」


情報局の最下層にいながら、

いじられキャラで局員たちのストレスの捌け口になっているナツが

呆れてツッコミを入れる。キャンキャンと吠えるナツの声に

近くで別の業務にあたっているウォルが厳しい視線を向ける


「そうだよな…午前中の間に終わらせられなかった仕事を

たった小一時間こなすことで終わるとでも思ってんのか?」


「///不慣れなもんで…すみません///きちんと処理しておきますから💦」


「…不慣れってさあ…この職について何年よ?

ま、いいや。こいつを相手にしてても埒が明かねーし。行こうぜ」


最後は、昔から情報局に在籍し、

人間界の歴史も熟知していると言われる悪魔だ


そんな風に、最後はダイヤを相手にするのも面倒になり

いつしか誘う事もなくなったのだが、その経緯は綺麗さっぱり

忘れている


………………


話が逸れた

とにかく、今日は休暇だ。


朝は苦手じゃないので、パックリと目を開ける




「あ~あ…な~にしよっかな…」


とりあえず、目が覚めれば腹が減る。

ダイヤはベッドから降りて着替えを済ませ、食卓に向う


魔宮殿付きのシェフが用意した食材を、適当に取り分け

テーブルに座ると、近くに控える使用魔が冷たい水を淹れに来る


「ありがとう…ちょっと取り過ぎちゃったかなあ…(^-^;」


パンに白米にパスタに…


野菜がなく、炭水化物のトリプルマスター

ちょっと、どころではない事は、考えなくても分かりそうだが

ビュッフェなんだから、自分用に取り分けた食材は

責任持って食べるまでが、最低限のマナーだ


だが、そんなダイヤの一挙手一投足など、慣れている使用魔は

とくに咎める事もなく、タッパーを用意して

「後で、リメイクしたものを、お部屋までお持ちしますね♪」

と笑顔で伝える


必ず数分後には小腹が空く事を熟知しているのだろう

ダイヤは嬉しそうに笑顔になる


「ところで…今日も陛下は居ない…かあ。」


公務の邪魔をするのは本意ではない。


「じゃ、あの…いつものネイルを…頼もうかな」


「…畏まりました。すぐに予約をお取りしましょう。」


頼まれた使用魔がすぐさま手配するのを見届け

ダイヤは一度、部屋に戻る




やがて、御用達のネイリスト魔が到着し、

ダイヤは自室で施術を受ける


きらきらと仕上がっていく様に、ほんの少し気分も高揚し


(陛下も褒めてくれるかな♪…公務がお忙しくなければ

何処かに連れて行ってくれるかな…♪)

などと、乙女な妄想をし始める


顔なじみのネイリスト魔は、そんなダイヤの様子が可愛らしく

せめて今日一日、彼女が心身穏やかに過ごせるよう

心を込めて施術をしているのだ


その時、扉越しに声をかけられた


「ダイヤ様。ダンケル陛下がお戻りになりましたよ。」


「! あ、は~い♪」


いよいよ元気よく返事をして、ウキウキと王室へ駆けつける


扉の手前に辿り着いた時、正面の廊下に魔法陣が現れ

中から姿を見せるダンケルと…


「…えっ」


ダンケルに肩を抱かれ、促されるように王室へ入って行く女性の姿に

思わず足が竦み、固まるダイヤ


…リリエルじゃない事は分かってる。


リリエルなら、イザマーレに帯同せずに無断で来るわけないし

第一、陛下はリリエルが苦手だし、あんなに優しそうにすることなど

有り得ない。




だが、肩でまっすぐに切りそろえた黒髪や真っ黒いワンピースは

傍から見ると、リリエルに見えなくもない(いや、全然違うけどね♪)

そう、感じ取ってしまうのがダイヤなのだ


「…ラディア…てか…陛下も、今までお仕事じゃなく

彼女連れて出かけてたの?…なによ、あいつ…普段は陛下なんか嫌いとか

なんとか言っておいて、結局は仲良くしてもらえて、嬉しそうに💢💢」


苛立ちは、あっという間に最高潮に達し、

ダイヤは荒々しく扉を開けて睨み付ける


(…はぁ…はぁ……っ)


そう思うのなら、思いの丈をぶちまければ良い

激しく問い詰め、ラディアなんか追い出してしまえば良い


それがなぜ、出来ないのか……


王室の扉を開けて、更にその奥にある

プライベートルーム


その扉は、既に消えていたのだ


早々にシャワーを浴びて、バスローブ姿で寛ぐダンケルは

ソファに腰かけ、紅茶を飲んでいる


入り込んだダイヤに、初めて気づいたような顔をして

バスルームに居るラディアに何やら話しかけている


「ラディア。次回もまた、一緒にな。約束だぞ」


「……//////」


シャワーの音に遮られ、ラディアの声はダイヤまで届かない




「どうした、ダイヤ。呆けた顔をして」


「……」


いろんな感情が渦巻き、言葉にすら出来ずに

ただ俯いているダイヤ


「ソラの館へ向かうと話してあっただろう?そこで

思わぬ出来事があってな♪なかなか有意義な時間だった」


「……」


「お前にも声を掛けたが…とくに興味もなさそうに

うわべだけの返事をしただろ?」


「…え…」


ダイヤの悪い癖だった


とにかく、仕事のある平日は、仕事以外の事を話しかけても

当たり障りのない返事をするだけで、その大半は聞いてない

内容をまったく理解せずに、適当に相槌を打つダイヤの事など

数年も一緒に過ごしていれば、すぐに解る

ましてや、相手は大魔王。この世界のナンバーワンである


「ご…ごめんなさい…そうだったっけ?」


慌てて我に返り、記憶を辿ろうとするが

それすらあまり意味のない行為である事を

ダンケルはとっくに気づいている


「とにかくだ。私がソラの元へ向かったら、イザマーレたちにも会ってな。

あいつら、最近じゃリリエルを筆頭に「散歩」などというものを始めたらしいな。

私もそれに参加させてもらって、実に楽しい時間を過ごしたのだ。

ラディアも、あいつらの前なら素直になるんだな。実に興味深い♪」


「…へ、へえ…陛下が…散歩?」




楽しそうに話すダンケルに、かなりドン引きしながら

気になったワードだけチョイスして、尋ねるダイヤ


「散歩に向かった先で、ラァードルやセルダも一緒になってな

いや、あいつらも各々、自分たちで好きな場所を歩いているそうなんだが」



「……」


とくに約束がなくても、自分らの意思で行動を起こした先で

示し合わせた様に出会える


それこそが、最高魔軍という、ダンケルの誇り高き家臣たちの絆だ


まさに、ダンケル、大満足で笑みを浮かべる大魔王


だが、そんなダンケルを前にして、ダイヤは…


「閣下だけじゃなく…殿下や代官まで…

皆さ魔、御一緒だったんですね。ダイヤは置いてけぼりで…」


すっかり塞ぎ込んだダイヤに、やれやれと思いかけたその時


「あのー…お取込み中、すいませんけど」


シャワーを浴び終えたラディアが、すっかり冷めきった表情で立っていた


「汗をかいたので、着替えに寄らせていただきました。

用が済んだので、私はこれで、失礼します」


「ああ。夜になったら、またお前の所に行く。

今夜も飲み明かそうではないか♪」




「…いえ、結構です。今夜は…」


「お前のその一歩引いた態度というのは、『ツンデレ』とかいうんだろ?

イザマーレにも、私の好きにして良いと言われているのだ。気にするな」


「…貴方様が良くても、お后様はそうではなさそうですよ?

巻き込まれるのも面倒なので。それに今夜は、駄目なんです。

お屋敷の方に呼ばれてまして…//////」

最後はほんの少し頬を染めて、お辞儀をして立ち去るラディア


ダイヤはどうやって自室に戻ったのかすら覚えていない


しばらくの間、ベッドの上で膝を抱えて座り込み、ぼんやりと考え込んでいた


ずーっと、思っていた事だ

私って…マジで誰からも必要とされてない…

居ても意味なくね…??


ダイヤの自室の前を通り過ぎる使用魔たちにとっては

そんなダイヤの様子でさえ、最早、いつもの日常だった


そう。


昨日も一昨日も、一週間前も、数年前も…10万年以上、前も…

そして明日も明後日も、自分の感情の浮き沈み、その中で

藻搔き、落ち込み、そして忘れる


それを繰り返しているのが、ダイヤだ



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