Ⅵ 後半
- RICOH RICOH
- 2024年12月11日
- 読了時間: 6分
文化局の森―
人間界はそろそろ梅雨明けで、うだるような暑さに
地球が悲鳴をあげているが、文化局にあるサロンは
その強大な魔術で幾重にも施された結界に守られ
厳格に定められた自然界の恩恵を公平に分かち合い
穏やかなオーラに包まれている
さきほど、イザマーレの屋敷で夜の姿に変身していたオルビガーノだが
柔らかな陽射しを受けて、向こう側がキラキラと透けて見えそうだ
徐々に昼の姿に戻りつつあるのだ
儚げで、いつも以上に周囲の目を惹き付ける
「月と太陽か…なるほど。昼間の君は、たしかにウエスターレンを慕う
イザマーレらしい愛らしさ。そして夜の君は、イザマーレを想うリリエルちゃんの
ようでもあるし、リリエルちゃんを求めるイザマーレ自身…でもある。
ちょうど、中間のような感じかな」
ベルデはお茶を飲みながら、興味深く観察している
ゆっくりと時間をかけて、小人の姿に戻ったオルビガーノに
ラァードルがしゃがみ込んで、話しかける
「おい、オルビガーノ。友達つれてきてやった。仲良く遊べよ♪」
そう言って、パンダのぬいぐるみに息を吹きかけると
命が宿ったように、自然に動き出すパンダと壱蛍の3名で
仲良く鬼ごっこを始めるオルビガーノ
「大体の事は聞いたよ。まあ、最終的にサムちゃんと融合するにしても
すぐってわけじゃなし。しばらくは様子見、なんでしょ?」
クッキーを一度に5枚くらい頬張り、問いかけるラァードル
「ああ…そうだな」
優雅にティーカップに口づけ、お茶を嗜みながら
やや思案顔のイザマーレ
「先日さ、久しぶりにスプネリアを連れて、雷神界に帰ったのよ。
それで、魔界に戻って来る途中、気になるものを見つけてさ」
「ん?」
「この世のシナリオを、誰が作ってるのかと言えば、そりゃ、神だよね。
天界とも違う、ちょっと切り離された空間に存在する世界があってさ。
その国の王が、月光と夢をヒントに織り成す言葉の数々が、
言霊となり、人間界のあらゆる事象となっていくんだ」
「…まあ、な」
「それ以外にも、たま~に、誰かさんが作り上げる『夢台本』や
ミサの時の説法ってのもあるけどさ。一般的には…の話ね」
含みを持たせたイザマーレの反応に、ラァードルは笑いながら注釈をつける
「…それと比較すると解りやすいかな。
サムちゃんの場合、すごく綺麗な放物線というか、
星屑のシャワーのようなイメージ…?なのよ。
とくに、ステージで繰り広げる世界なんか、とにかく凄いじゃない」
「……」
うんうんと頷くバサラとセルダの横で、
意外にも、初めて知ったような表情を浮かべるイザマーレ
「片や、この世のシナリオを織り成す世界から作り出すイメージは
寸胴鍋のような……とにかく、一直線にズドーンって感じなのよ」
「…しかし解せないな。吾輩ではない、そいつのシナリオも
かつてはそれほど変わらない、放物線であったろう?」
「そうだよね。寸胴鍋のようにズドーン…って、ちょっと…(笑)」
言いながら、笑い始めるバサラとセルダ
「…てことは…何かがあって、シナリオの中身が
昔とはずいぶん、違ってきている…てこと?」
言いながら、ベルデと顔を見合わせるラァードル
「…言霊ひとつとっても、実は皆おなじではなく…
それぞれに重さや質感が異なるからな。意味のなさない言葉や
文字は、空中に留めておくことが難しいのだ。」
「へぇ~!!そうなんだね……」
実は、とてつもなく凄い事を、当たり前のように
あっけらかんと言ってのけるイザマーレに、バサラとセルダは
改めて驚嘆する
「なるほど…それで昨今、人間界で顕在化した意味不明の世界
そういうことか…」
「親父が言うには、地球の天変地異にも少なからず影響があるみたい。
その磁場に入ると、局所的に気圧が変わり、集中豪雨や竜巻が
起きる原因になっちゃうみたいで」
「…そういうことか」
全てを俯瞰していたウエスターレンが、会得したように頷き
イザマーレと目配せする
ちょうどそこに、小パンダたちと追いかけっこしていた
オルビガーノをつかまえて、衣服のポケットに仕舞ってある手紙を
取り出すイザマーレ
「…お前に、案内して貰わねばな」
「…?…」
オルビガーノは不思議そうに首を傾げて、見上げていたが
気を取り直し、すこし離れたテーブルで、Lily‘sのメンバーと
女子会をしているリリエルの元へ行き、膝の上に乗っかる
「…あら。昼間の姿に戻れたのね。オルビガーノ♪」
優しく頭をナデナデするリリエル
そんな様子を後目に、イザマーレは問いかける
「…ラァードル。その世界はどの辺りにある?」
「サムちゃん…やっぱ、行くよね~♪実はさ、
雷神界からすぐの場所にあるのよ。それなら、皆でおいでよ。
親父も母ちゃんも、皆、待ってるからさ♪」
「…って、あれ。オルビガーノ、どうした?」
リリエルの手を引いて、再びイザマーレたちのテーブルに
戻ってきたオルビガーノ
イザマーレが手にしている手紙を指さし、何かを訴えるように
リリエルを見つめるオルビガーノ
「…ああ、そうか。勝手に取り出して悪かったな(笑)」
吹き出しそうになるのを堪え、手紙をオルビガーノに戻すイザマーレ
だが、オルビガーノは渡された手紙をテーブルの上に広げて
リリエルに読むよう促してくる
「…ん?私が読んでもいいの?」
正確に意図を汲み取ったリリエルに
得意気な表情を浮かべ、お尻を小刻みに揺らすオルビガーノ
その愛らしさに、見ていた構成員は必死に笑いを堪えている
「…んん~…私に古代文字が読めるかなあ(^-^;」
「リリエルちゃん、貸してごらん。僕が解読してあげる。
オルビガーノ、良いよね?」
一瞬、怪訝そうな顔になるが、ベルデの淹れたハーブティの良い香りに
うっとりご満悦になって、クッキーを食べ始めるオルビガーノ
了承の意、と判断し、ベルデは手紙を受け取り解読し始める
その横で、ウエスターレンも薄っすらと邪眼を開き
詳細を把握する
「これは、かの妖精国ミクロネアで定期的に開催されている
舞踏会の招待状のようだね。」
「かつて、妖精国の王はオルビガーノの夜の姿を愛していて、
彼女を側室に迎える為の儀式を用意していた。
日程は、すでに過ぎ去っているが、舞踏会はその後も
行われているんだろう?」
「オルビガーノの美が冴えわたる日…つまり満月の夜ということか」
「なるほど。各国の貴族を来賓として迎えるのであれば
労する事もなく、正面から行けそうだな。」
構成員たちのやり取りを、満足そうに見届けた後
その手紙を丁寧に折り畳み、改めてリリエルに差し出すオルビガーノ
「え…?」
リリエルはキョトンと首を傾げる
「…やれやれ。お前に道案内を頼むためには
リリエルを同伴させろと…そういう事か?オルビガーノ」
ため息をついて、目を細めるイザマーレに
オルビガーノは嬉しそうにお尻を最高潮にフリフリさせている
「ったく。言われなくても、吾輩が行くなら
リリエルが一緒に行くのは当然だ。安心したか?」
だんだん忌々しく思い始め、オルビガーノの首根っこを掴み
睨み付けるイザマーレ
オルビガーノは意に介さず、イザマーレにリリエルの手を取らせ
振り返ってウエスターレンの手も引き、イザマーレの元へ促す
「…分かった分かった。この次の、満月の夜に我々も一緒に行こう。
それまでに、ダンケルの了承も取らないといけないしね」
なんだか、今すぐにでもワープしてしまいそうな勢いを感じ
ベルデが冷静に宥める
「…そうだな。ダイヤ!」
それまで遠目で女子会三昧だったLily‘sのテーブルに向かい
イザマーレが呼びかける
「…は~い。どうしました?」
「この後、陛下に謁見賜りたい。お前は急ぎ、魔宮殿に戻り
伝えておいてくれ」
「! 畏まりました。じゃ、リリエル様。皆様、お先に~」
ダイヤは魔法陣に消えて行く
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