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12階

  • 執筆者の写真: RICOH RICOH
    RICOH RICOH
  • 4月26日
  • 読了時間: 6分

咲音と凛子と一緒にエレベーターに乗り、部屋の前に辿り着くと


ドアの前に佇む男性の姿があった




「あ…ご無沙汰しております」




多くを語らず、軽くお辞儀をする花に、男性は振り向いて穏やかな笑みを浮かべる




「Anyeか。元気そうだな。」




「あ、あの…こ、こんにちは…」




フェス以来の、久しぶりの再会となった咲音も


慌ててお辞儀をする




「はい、こんにちは。咲音ちゃん、この度はおめでとう。


これはリリエルと吾輩からのプレゼントだ。」




手渡されたのは、木製の小さな宝箱。


鍵が施され、開ける事ができないが


振るとカラカラと音が聞こえる




「その鍵が開くかどうかは、これからの咲音ちゃん次第だぞ♪」




そう言ってニヤッと笑う男性




「今日はどうなさったんですか?リリエル様は…?ご一緒ではないのですか?」




「…ああ。今回は吾輩だけだ。この部屋にいる者に、用があってな。」




花の問いかけに表情を変え、ふぅっと扉の向こうに消えていく




「あ…インターホンも鳴らさず、いきなり…そんな…///」





一瞬ポカンとして、目をぱちくりする咲音




花は、そんな男性の行動が気になった




「イザム様…もしかして、かなりお怒りなのでは…💦


私達も急ぎましょう」




すぐさまインターホンを押すが音も鳴らず、中からの反応は無い




「…どうすれば…」




「何か、お困りかな?お嬢様方。」




後ろから声がして、振り向くと蓮が立っていた




「!…あ、蓮さん!すみません、今ここにイザム閣下が……」




花は蓮に詰め寄り、慌てて説明しようとするが


細長い指を花の口唇に当て、制止する




「お前らの前で、魔力を使ったか…。かなりヤバいな


何せ、リリエルに事が及んだからな」




「!…えっ」




驚いて目を見開く花を、じっくり覗き込む蓮




「…お前は無事のようだな?花…


それから、咲音ちゃんも…ここまでは、なんとか


抑え込めたようだな。扉の前で待っていたのは


お前らの無事を確認するためだったのか…なんだ、案外、冷静だな」




「……」




意味深な蓮の言葉に、花と咲音は顔を見合わせる




「とにかく、俺達も入ろう。


大丈夫だ。不測の事態に備えて、結界を張ってるんだ。


インターホンの音も消してあっただろ?」




蓮に促され、急ぎ部屋の中へ入っていく




ところで…




その場にいたはずの凛子はというと


花たちが話をしてる最中に、死角となってる柱の影に


隠れている愛娘、花梨の姿を捉えていた




目の前に居たのが、まさか最高魔軍のイザマーレ


副大魔王閣下(の世仮の姿)であったことに驚愕しながらも


愛娘を捕まえることに必死で気を取られていた




その隙に、花と咲音は後から現れた蓮と一緒に


部屋の中へ入ってしまった




遅れを取った凛子。だがやはり、勝手に他所様の部屋へ入るのは


躊躇われ、足踏み状態になり、ドア越しに中の様子を


窺うしかなかった





「…あれ?」


「…あー…まかいのおじちゃん…」




ベッドに腰かけ足をプラプラさせて遊んでいた一檎と杏子は


急に姿を現した男性に、指を差して歓声をあげる




「ねえねえ、おじちゃんのせい?急にももちゃん、ねんねしちゃったの…」




アップライトピアノの前で譜読みしていた百花は


急激な気圧の変化に気を失い、椅子にもたれていた





「…チビどもよ。お前たちには用はない。


そこのお姉ちゃんを見守っていれば良い。良いな?


決して動くんじゃないぞ?」




「…!!…」




男性のオーラに気圧され、よく分からないまま


必死に頷く一檎と杏子




イザムはゆっくりと、視線を向ける




その隣で、Aは百花に差し出されたコップを手に持ち


呆気に取られ、固まっていた




「…美味しいか?」




「…!…う、うん…」




意外にも穏やかに話しかけられ、面食らいながら慌てて答えるA




「そうか…それは良かったな。お楽しみの時間を邪魔してすまないが


ひとつ、お前に伝えたい事があってな」




「…え…ぼ、僕に…?」




「そうだ。実は今、ある出来事がきっかけで、世界が怒りに満ちている。


これを見ろ」




そう言って魔水晶に手を翳し、映り込む映像を見せつける




「…!…え…」




Aは驚いて、思わず駆け寄る






「このとおり、お前のお母さんは捕らえられ、生死の瀬戸際にいる」




「!…なんで!?」




「…細かい事は分からなくても良い。だが、お前のお母さんの命は


次の吾輩の一手にかかっている、という事だ」




「!?…おじさんが…!?」




「…少年よ。すまないが、今の吾輩に酌量の余地はない。


なに、お前に酷い仕打ちをし続けた毒親だ。清々することはあっても


悲嘆にくれることもなかろう?」




「!…/////」




あまりにも突然の報せに驚き、子どもながらに母親を心配するAだったが


男性の無慈悲な言葉に、自分の置かれていた境遇を一気に思い出した




何かから、逃げてきたんだ


辿り着いたこの部屋が、あまりにも居心地が良くて


ジュースを飲み続けている間に、記憶も朧げになっていたのだ




愕然として、蒼白となり、へなへなと座り込む


パニックになり、身体が震え出す




そんなAの様子を、じっくりと観察していた男性




「…憎いか?悲しいか…?」




息も荒く、嗚咽に咽びながら、男性に向き合うしか出来ないA




「…痛いか?苦しいか?…それが、生きるという事だ。


お前が、心の底から欲していた事だ」




「!…くっ…」





あまりの言われように、癇癪を起こし


男性に体当たりしようとしたが、すぅっとすり抜けてしまう




「…!?…」




「ふっ…八つ当たりか?吾輩は、お前の事などちっとも怖くない。


器を捨て、生霊のみになったお前など…」




「…!?…え…」




そう言われて初めて、Aは自分自身の境遇に気が付いた


Aに構わず、男性は続ける




「だが、怒りがあるのは良い傾向だな。少年。


その怒りを決して忘れるな。早いこと、実体を取り戻して


今度こそ、吾輩に体当たりしてこい。待ってるぞ♪」




最後はこっそりと忍ばせた言霊に操られ、


闇の道を引き返していくA




「……イザマーレ閣下…」




「…覗き見、忍び足…悪い子だな、Anye?」




一部始終を見届けた花が呼びかけると、静かに振り向き


ニヤッと笑うイザム




「…リリエル様は…ご無事でしょうか?」




イザムの辛口な冗談を受け流し、率直に問いかける花




「もちろん、無事に決まってるだろ。ただ…自然界の怒りは甚大だ。


せめて、あいつの願いに応え、あの少年自身を奮起させなければな…」





「…!…そうでしたか…そうか、それで…」




イザムの言葉をじっと聞いて、花は納得し息を吐く




イザムの怒りが鎮まったのを感じ、蓮は結界を和らげた




「ん…あれ…?」




「あ、ももちゃん、おきたー♪」




百花が気が付いて、魔人形たちは嬉しそうにニコニコしている




「酷いですね…実の母親が、そんな…


あの子、かわいそうに…」




厳しい表情で泣くのを堪えている咲音


そんな彼女を見遣り、頭をポンと撫でるイザム




「人間界ではよく「子は親を選べない」と言われているが間違いだ。


子どもは自らの意思で、親を選び、生まれてくるのだ。


…本来、母親に望むことは、子を産み落とす事のみだ。


それ以外のことは、生れ落ちた子供自身の運命に従い


己の人生を歩むことになる」




「…そうかあ…そう聞くと、ちょっと気持ちが楽になります」




妊娠が発覚してから、気を張り詰めすぎて、不安になっていた咲音は


ようやくほっとして、微笑む




「そうだ、咲音ちゃん。彼の今後は、それこそ君のお父さんの手腕にかかっている」




「…え?」


思い出したように言い含めるイザムに、咲音はキョトンと首を傾げる


イザムは咲音の背後にいる蓮に細かく指示を出すと、いつの間にか


装着していたマントを翻し、消え去った



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丸太小屋の階段を降りると辿り着く桜の木
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