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  • 執筆者の写真: RICOH RICOH
    RICOH RICOH
  • 1月2日
  • 読了時間: 6分

池端信人《いけはた のぶと》


かつて、明確な意思を持ち、この地に降り立った悪魔

妻の小原由奈と共に、痛ましい事故に巻き込まれ、命を閉じた男


その娘、絵里奈は、居合わせた大悪魔、聖《ひじり》に庇護され、のちに結ばれた。


やがて月日は流れ、名実ともに夫婦となった聖と絵里奈に

2人の子供が生まれた


それが、結愛《ゆうあ》と崇生《たかお》


崇生が悪ガキ同士で徒党を組み、山頂から覗き見していたのは

かつて絵里奈が通っていた、あの高校だ


そして、山頂から駆け下りて行った、崇生の通う小学校は

館を隔てた扉の向こうにある、悪魔小学校だ


悪魔と人間(半分は悪魔)の間に生まれた為か

生まれた時からかなりの魔力を有していた崇生に比べ

結愛はまったくの人間だった


ただ、女性特有のホルモンバランスによるのか

成長期、思春期を経て、結愛も僅かながら開花している


人間にも、いろいろいる


その事を、殊更に大袈裟に捉え、

さも、結愛は彼らの本当の娘ではない、だの

悪魔の餌から生まれた不吉な娘、だの

好き勝手に噂しては、あからさまに侮蔑してくる者もいる


どれも筋違いで、邪推に過ぎず

結愛は間違いなく、聖と絵里奈の娘であるし

その歴史を証明することなど容易いのだろう




だが、こちら側を攻撃したいだけの相手にとって

些細な事はどうでも良いのだ


「言いたい奴には、言わせておけ」


それとなくボヤいた結愛に、父親の聖はそう言うだけだったし

結愛も、これまでは何も気にしていなかったし、聞き流していた


ただ、物理的に避けて通れない環境下において、罵詈雑言を浴びせる人物と

出会ってしまったのだ。ハッキリ言って拷問に近い。

しかも相手は噂話の拡張版とは違い、なにか根底に深い恨みがあるような…


「ほ~んと、君って変わってるよね。

悪魔と人間のあいのこなのに、魔力なんて、ちっともないんでしょ?

あっちの世界だったら、単なる落ちこぼれだよね(笑)

人間になら負けないとでも思ってんじゃないの?」


「………」


「おい。僕が話しかけてるのに、返事もできないの?最低だな」


「…練習があるので。もういいですか」


「…ふんっ…生意気な奴。覇気がなくて陰気になるよ

君のせいで、僕の成績に傷がついたら、責任とってもらうからね」


後半はほとんど聞く耳持たず、黙々と準備に励む結愛

ふいに、テレパシーが聞こえる


(…結愛。大丈夫か?)

(!…うん…あんな奴の言う事なんか、気にしない)

(だよな(笑)…高柳のやつ、ほんとサイテー。

ズングリモックリのデブのクセに)

(ちょっと…ぷぷっ…やめてよ(笑))




大輝《だいき》は館の敷地内に住む、昔からの顔なじみだ

じつは、結愛の祖父、池端信人と縁があるらしい

彼にも微かな魔力があり、結愛の事情を理解して

こんな風に、影日向になって励ましてくれる


大輝とのやり取りで、なんとか気を紛らわせ

笑顔を取り戻す結愛


下校時刻


「ほ~んと、高柳のやつ、最低だよな。ったく…」


「相手がおとなしい結愛だからって、高を括ってるのよ

結愛のママが相手なら、タジタジになって、何も言えないくせに(笑)」


「あーそれ、すんげえ分かるわ(笑)」


「結愛のママ、ほんと可愛いもんね。結愛の年頃には

もうパパと愛し合ってたんでしょ?キャー(≧∇≦)」


「…はぁ…そういや今朝も、ラブラブだったな…(苦笑)」


改めて、結愛は肩を落としてため息をつく


聖と絵里奈は、結愛にとっても自慢の両親だし、理想的なカップルだ

何かにつけて比べられるのは仕方ないし、誇らしいとさえ思う

だからこそ、自尊心を煽られる最難関でもあるのだ


「ママは…確かに凄いと思う。

私にはとても真似できないと思うし

ママとは違う私の人生を描きたいんだよ」


「…真面目だなあ。結愛は♪」


大輝が髪を撫でて励ますが、結愛は俯き、項垂れているままだ




「ほら☆彡元気出しなって。帰りに今川焼、買ってやるから」


「…ホント?やったね☆彡」


大輝の言葉に目を輝かせ、笑顔を取り戻す結愛

さながら、兄妹のようだ。


「…じゃあ…私らはこっちだから」

「またな。絵里奈も大輝も」


いつも、なにかと元気づけてくれる2人は

仲良しのカップルだ


悪魔の血が入っていることで、

必然的に距離を置こうとする者がほとんどの中、

普通に接してくれる、数少ない友達だった




諸悪の元凶、高柳


何が悲しくて、余程の因縁があるのか

結愛のクラス担任で、部活の顧問でもある


池端信人と小原由奈 


2人を死に追いやった後、P社にいた高柳自身は聖の手で処刑された。

だがその直前に2人が纏めていたデータを駆使して

土地の台帳を完成させた事で、高柳家は人間の中で最も

尊い存在と崇められ、他の追随を許さないほどの名声と富を

欲しいままにしていた


悪魔との契約に選ばれなかった女性たちは皆

少なからず絵里奈への恨みを抱きながら、

高柳家ゆかりの筋に輿入れし、生まれた子供にも躊躇いなく

反悪魔教育を強要する。そのため、高柳家の一族は皆

意味もなく結愛を攻撃することに躍起になっているのだ



池端と由奈、そして聖と絵里奈


彼らと直接の因縁はないものの、親から当たり前のように

刷り込まれた感覚は、すでに高柳本人のDNAに深く刻まれており

結愛を責め立てる事に、なんの躊躇もない


だが


どんなに高圧的に見下しても、劣悪な環境に貶めても

卑屈にならず、たおやかに咲き続ける結愛に

忌々しくも、憎からず思っている


自他ともに、無自覚ではあるが…




崇生side


魔界小学6年になる彼らは、

そろそろ次の進路に向けて大きな選択をする時期だ


魔術を覚え、実戦形式で経験を積みながら、中枢を担う官僚魔を目指すか

人間界との境界である扉と、その周辺を管理する守護魔となるか


今生では、現魔王が前者、崇生の父親、聖《ひじり》は後者だ


実力は申し分なく、中枢機関への鞍替えを請われ続けた聖だが

型破りで破天荒な気質と、絵里奈の庇護という個悪魔的な事情もあって

自ら望んだ立場だった。だからこそ、息子の崇生に寄せられる周囲の期待は熱い


だがやはり、蛙の子は蛙


「役職とか名誉とか、よく分かんないし

しょーじき、そんなのまだ、考えたくねーな」


年齢でいえば、人間の小学生と変わらないし

まだまだ、やんちゃ盛りな年頃で

将来を真剣に考えろという方が無謀なのかもしれない




ただ漠然と思うのは、今のままで居たいという事


楽しい事、面白い事、ワクワクするような事柄を

ひたすら純粋に追い求め、それを自ら発信する事で、

この地に住む者たちの心を、少しでも明るく照らせるような…

その為の労力ならば、何の苦にもならない

自分の力を惜しみなく発揮できるはず…


「とーちゃんみたいな生き方は確かに憧れる。でも俺は

ハッキリ言って、誰か特定の人だけを愛するだけじゃ

物足りないんだよね。だって、知り合う奴らは大体みんな

好きになっちゃうんだもん。もちろん、嫌な奴もいるよ?

でも、なんていうか…誰かの凄いところを発見するの、

得意なんだよね」


博愛主義とは異なる、生粋の人たらし


その片鱗は、すでに開花されているようだ



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