top of page

Ⅰ前半

  • 執筆者の写真: RICOH RICOH
    RICOH RICOH
  • 2024年12月11日
  • 読了時間: 6分

生粋の高貴な存在と、成金主義の違いが分からない


下から見れば、上にある世界はそれ程までに未知であり

上に居る者の苦悩を、下の者が知る由もない


ただ一つ、言えることは

偶然にもその断片を知る機会を得た不運な者たちよ

それこそが思い違いの甚だしい事象だということ


真に高貴な存在は、「勝ち組」「負け組」というような

下世話な事など、まったく関心がない

なぜならば、彼らは初めから、頂点しか知らないからだ


まず、次元が違うのだと、認識を改めてもらう必要がある


彼らは主張しない

彼らに名など必要ない


それでも、生きとし生けるものとして、この世に命を成したならば

行き付く先は皆同じ


そこに、下界で生きる者以上に、豊かな感情の発露があることを

地上で蠢く者たちは、まったく想像し得ない


上界の、さらに最上界に存在する尊い存在でありながら、

彼らの感情を好物として魅惑の目で眺めては

おはじきを弾く程度の軽やかさで、

その手に紡ぎ出される数多の世界


そのシナリオの中に、彼らの感情の一端を垣間見る程度が

関の山である




不自由な、男女じゃないものまで平等を押しつける社会


通り一遍の男女の色恋に飽きて、

または、社会の勝ち組だとしても、恋愛となるとまた

別の問題であり、誠の愛を知る機会を失い続けた彼らが

物珍しさに興味を持ち、ただ面白おかしく拡大解釈させた結果


街から女性トイレが消え、

それがどうして清潔なのか分からない紙パックや紙ストローが増え

誰にとって便利な社会なのか、まったく分からない世界が

出来上がりつつある


この世で最も残酷で美しいのは、男女の肉体の交わりであり

性別を超越して美しい関係というのは、

パブリックな場所で恥ずかしげもなく絡み合い

それを非難するのは差別だと、意味の分からない教鞭を垂れる

下品な世界に存在するものでは決してない


何かがおかしいと、首を傾げながら

地上を一旦離れ、魔界に帰還してみると…



「閣下♪おかえりなさいませ」


屋敷に一歩、足を踏み入れた途端、駆け寄り抱きついて来る女


「リリエル、ただいま」

微笑む彼女の髪を撫で、軽く口づけを交わすイザマーレ


パタパタとキッチンに戻っていくリリエルを見送り

お茶を淹れてくれるのだろう…とリビングのソファで待っていると、

キッチンの奥にある戸口から、何やら会話が聞こえる


「…?」




こんな時、覗きに行こうとしただけで、

「お行儀悪いですよ、ぼっちゃん!」と窘めてくる使用魔がかつては居たが

事情があり、そいつは今、人間界に身を置いている


愛する妻に異変でも起きたなら、一大事だ

だいたい、先程のキスだけでは、全然物足りない


たくさんの言い訳を、瞬時に叩き出し

自分もキッチンに足を踏み入れる


「リリエル…?どうかしたか?」


リリエルは戸口にしゃがみ込んで、足元に置かれたカゴの中を

吟味している


「あ、閣下…見てください。こ~んな新鮮なお野菜!!

いつもの八百屋さんじゃないんです…確認しましたが

違うって…それにほら、何種類ものお野菜が一品ずつ…」


よく見ると、確かに採れたての瑞々しい野菜が

一品ずつ、何種類か入っている


「…魔界に育つお野菜ですもの…

どなたかご厚意で、見せに来てくれたのかもしれません

何か声が聞こえたと思ったら、いつの間にか、置かれていたんです」


「…ほ~お…お前を元気づけたいとか、お前を気遣う森の妖精たちか」


「戴くばかりでは、申し訳ないですね💦 なにか、お礼をしなければ…

あ、閣下、ごめんなさいね。すぐにお茶を用意致しますから…」


そう言って、ティーセットを揃えるリリエルの腕を引き寄せ、

いよいよ抱きしめる


「…長い間、待たせたな。寂しくなかったか?」




「///閣下…寂しいだなんて、そんな…閣下の御活躍は

私にとって、一番のご褒美なんですから…///」


そう言いながら、幸せそうに微笑んで、腕の中にすっぽり収まる彼女

そういう何気ない仕草が、悪魔の雄を駆り立てる


戸惑うリリエルに構わず、その口唇を塞ぎ

有無を言わさず、プライベートルームに瞬間移動する

背負い続ける多くの荷を下ろし、ただの男として

愛しい女をその腕に抱く


かけがえのない日常が、いつも変わらずある

それこそが、奇蹟の積み重ねである事を、誰よりも深く心に刻みながら…


リリエルのあどけない寝顔を見つめ

そっと扉を開けてみる


寝室を隔て、その向こう側にある一室に気を向ける

馴染みのあるエレメンツは、すぐ扉の向こう側で

何も変わらず、そこに居てくれる


どうせ、キッチンでのやりとりも、奴には筒抜けだったに違いない


多少の気恥ずかしさを隅に追いやり、その部屋の前へ赴く

己の命と同等…あるいはそれを遥かに凌駕する

自らの居場所という意味では、リリエルと同様に大きな存在が

相変わらず紫煙の香りで、吾輩を甘く誘う


「…よお♪ ようやくのご帰還だな。おかえり、イザマーレ」

「ウエスターレン…会いたかったぞ」

「良い子だ…おいで。イザマーレ…」


途端にサラサラになる金髪を愛でながら、

差し出すウエスターレンの腕の中に抱かれるイザマーレ




少なくとも吾輩の私有地、屋敷の中は

これまでと何ら変わらず、穏やかな空気が流れている


今宵、屋敷の門扉が消え続ける事は間違いない…












翌日


魔宮殿に赴き、ダンケルに謁見するイザマーレ


「イザマーレ、待っていた。首尾よく戻って来たな」


ご機嫌な様子で出迎えるダンケルに、

イザマーレは跪き、頭を下げる


「予想外に滞在期間が延び、陛下にもご心配をおかけしました

なにか変わった様子など御座いませんか?」


「そうだな…ラディアとダイヤの事くらいか。

ラディアばかりを構うと、どうもダイヤが不機嫌になるのでな。

飽きが来なくて、楽しんでおる。

それよりイザマーレ。秋に行うサミットの衣装合わせはどうする?

お前の活動に合わせ、大々的なプロモーションも必要であろう?」


「…サミットの事でしたら、改めてまた……

それ以外の事は、いつもと何ら変わらないご様子。

安堵致しました。」


内心、やれやれと呆れながら、

穏やかな笑みで応えるイザマーレ


「それと、衣装のことで入用でしたら、いつでもお請けいたしますと

リリエルからの託を承っております。」


「…ダイヤの事だな?良かろう。…ラディアの分は…ダメか?」


「…陛下がご所望であれば、御自由になさればよろしいかと…(笑)」


居心地の良い闇は、今も変わる事なくイザマーレを迎え入れる

終始、穏やかな雰囲気で謁見を終える



最新記事

すべて表示
Ⅹ 左のフロアー

一方、左のフロア―では 上階から見えた相手に驚き、警備や受付の声にも耳を貸さず 周囲を蹴散らしながら慌ただしく中央に進んでいく王妃ターニャ 先程のバルコニーの近くに歩み寄るが、肝心な相手が見つからず キョロキョロと探し回る タイミングが良いのか悪いのか...

 
 
 
Ⅸ 右のフロアー

肉や魚、季節の野菜など、珍味が並べられたテーブルから 美味しそうな食材を紙皿に取り分け、シャンパンと共に イザマーレの元に運ぶウエスターレン 「意外と、料理は美味そうだな。ほれ、イザマーレ」 「ああ、すまないな。…あれか。渦中の王とやらは」...

 
 
 
Ⅷ 魔界時計の数時間前

長く、無数に続く階段を昇って行く、一名の者 ようやく辿り着き、扉を開けると、そこは広いリビングフロア 屋敷の主が目の前のソファに座り、出迎える 「お待たせいたしました。イザマーレ様…」 恭しくお辞儀をして、挨拶を交わす好々爺 「ランソフ、待っていたぞ。こっちだ」...

 
 
 

コメント


丸太小屋の階段を降りると辿り着く桜の木
bottom of page